第45話 勇者が所望する魔道具
忘れかけていたのだが、レオンが魔道具屋に頼んでいたヘアアイロンとかいうやつの試作ができたと連絡があった。
「アデル!早くっ!」
「分かった。」
レオンは今までにないほど朝の身支度を早く済ませ、俺を急かした。
それほどまでにレオンの中ではヘアアイロンとかいうやつが欲しかったらしい。
2度も騙されたことで、俺とドランはレオンに決して1人で出歩かないようよくよく言って聞かせたから、仕方ないことだとはいえ、そんなに急かさなくても誰も取ったりはしないのにと半ば呆れながら早足で向かった。
「おじさん!ヘアアイロンできたってマジ?
俺さ、魔道具ちゃんと起動できるようになったよ。だからすぐにでも使える。」
「まだ試作だから今日渡すことはできんぞ。」
「そっか。でも嬉しい。見せて見せて〜」
ここの店は奥に魔道具工房があって、魔道具工房の直売所という珍しい店なんだが、店のおやじが奥に引っ込んでトングのような形のものを持ってきた。
「そうそう。こんな感じ!」
レオンは前のめりでその魔道具を見ている。
「そうか。見た目はこんなんでいいんだな。」
「これ、まだ見た目だけってこと?」
「いや、一応ここの部分に熱が帯びるようになっている。」
「え?じゃあもう完成じゃん。」
「温度の調整が難しいんだ。」
「あーなるほど。そういうことか。確かに〜低いと真っ直ぐにならないし、高いと髪がダメになっちゃうもんね〜」
「そういうことだ。」
魔道具屋のおやじと何やら魔道具の仕組みについて話しているようだが、俺にはその道具がなぜそんなに重要なのかが全然分からない。
暇を持て余した俺は、店内を色々見て回っていた。
ほーこんなものまであるのか。
普通の魔道具屋は、流行りのものや生活必需品として需要が高いものしか売っていないんだが、この店は工房の直営だけあって、珍しい魔道具が色々揃っている。
氷ができる魔道具や、ライト一つとっても、形や色や明るさも色々と選ぶことができる。
鍋の中を絶えずかき混ぜてくれるオタマや、穴掘りが楽になるスコップなど、利用する用途が分からないものも多いが、見ている分にはとても楽しい。
「試してみていい?」
「良いが上手くいくか分からんぞ。いきなり自分の髪でやって大丈夫か?」
「大丈夫じゃない?見た感じ大丈夫そうだし〜」
店のおやじが少し不安そうにしていたが、レオンはお構いなしにその魔道具を起動させて、髪をひと掬いし、その髪を挟んだ。
ジリジリとおかしな音がして変な匂いがしたが大丈夫だろうか?
「ヤバっ、あ・・・俺の髪が・・・
おじさん、鏡とかある?」
「あぁ、あるが・・・」
レオンの左の前髪は見事にチリチリになっていた。困った様子で店のおやじは鏡をとりに行った。
ブハッ
ヤバイ。その髪型は面白すぎるぞ。そんな髪型を求めていたなんて知らなかった。
レオンのいた世界は面白いことに溢れているのかもしれない。
しかし、おやじに渡された鏡を見て、レオンは膝から崩れ落ちた。
「俺の髪が・・・うぅ。」
レオンの世界ではあのような毛先をチリチリにするのが流行っているのかと思ったが、それは違ったようだ。
涙を浮かべながらショックを受けるレオンの姿に、笑ってはいけないと思いつつも笑いが込み上げて仕方ない。
店のおやじを見ると、おやじも笑いを堪えきれずに目を逸らして肩を振るわせていた。
分かる。分かるぞその気持ち。
「・・・おじさん、ハサミを貸してください。」
いまだにショックを受けている様子のレオンが小さな声で絞り出すようにそう言うと、おやじはハサミを無言で手渡した。
そしてレオンは鏡を見ながらチリチリになった部分の髪を切った。
それから約2ヶ月ほど、レオンは家の中でもローブのフードを被ったまま過ごした。
レオンの髪への執着はそれほどまでか。




