第35話 勇者、初めての魔物討伐
「アデルー、薬草摘み終わったから剣の素振りしてんね〜」
相変わらずレオンは鑑定を使ってとんでもない早さで薬草採集を終えた。
「バルムンク、最近は魔法ばっか練習してたから拗ねてるの?ごめんね。エルミーツさんいないんだから、力は出さないでね〜
そこだけは本当頼んだよ。」
レオンは剣と何か話をしながら素振りをしている。今日は木々が薙ぎ倒されて地面が抉れ道ができるようなことはなかった。
「うー重い。バルムンク、もうちょっと軽くしてくれない?今日は鉛みたいに重いんだけどー」
あの剣は重さまで変化するのか?
ますますヤバいな。
「え?ちょっと待って、待って〜
アデルー、バルムンクが魔物倒しに行きたいって言ってるからちょっと階層上がってくるね〜」
「は!?」
いや待て、階層上がる?
バルムンクにもし意思があるのだとしたら、2階層程度で満足するとは思えない。どこまで行く気だ?
バルムンクに引っ張られるようにして先へ先へと進んでいくレオンを、仕方なく俺も追うことにした。
「アデルー、久しぶりの腕慣らしにはこの辺でいいって〜」
「そうか。」
ここは4階層なんだが・・・
腕慣らしどころか、こんな階層に出てくる魔物など、俺も本気で戦って勝てるかどうか。できれば全力で逃げたいんだが・・・。
レオンはまだ魔物に出会ったことがない。ここまで引っ張られてきたことから、魔物が出てもレオンは手を添えているだけでバルムンクが勝手に倒してくれるのかもしれないが、恐ろしくはないんだろうか。
「何が出てくるんだろうね〜?
魔物って初めてだからちょっと楽しみ〜」
!!!!
と俺が広げた索敵に引っ掛かったのはオーク。
あれは普通のオークではないんじゃないか?姿を見るまでは分からないが、血の気が引いていくのが分かる。背中を冷たい汗がツーっと伝っていった。
「オークだ。」
「オークって確か豚だったよね?美味しいんだっけ?」
「まぁ美味しいんだが、強いぞ。いけるのか?逃げるなら今だぞ。」
「ん〜バルムンクが戦う気満々って感じだから、とりあえずやってみようと思う。」
「そ、そうか。もうすぐ見えると思う。」
確かにあの森を抉って道を作ってしまうような、あんな技を出せば一撃で倒せるんだろうが、それでも生きている状態のオーク、しかもおそらく上位種を間近で見るのは怖い。
万が一ということもあるのだし・・・。
「おお〜、あれがオークか。あれ本当に食べれんの?
なんか鎧とか着てない?武器持ってるし。魔物って意外と知能あるってこと?」
「あれはただのオークではなくハイオークだな。ただのオークより強い。魔物に知能はあまりない。とにかく人を見ると襲ってくるから負ければ餌になるぞ。」
「マジか。それはヤバイね。だから魔物の大半は見つけ次第駆除って決められてるんだね。」
「あぁ、そうだ。」
そんな話をしながらレオンはバルムンクを構えた。
「え?こう?右手だけで握んの?で、あぁ、左の手は柄頭の後ろに添えるのね。りょうか〜い。」
なかなか大きい剣だが、バルムンクは片手で扱うことをレオンに望んでいるらしい。
ポンメルの後ろに手のひらを添えるのは確かに剣先をブレにくくする効果があるが、それにしても最初からその剣を片手か。
少し心配になりながら見守っていると、レオンはまたバルムンクに引かれるようにしてオークの近くへ駆け、オークから振り下ろされた剣を軽く受け流した。後方にジャンプして引くと、剣を斜めに右から左下に向かって振り下ろし、振り切ると逆手に持ち替えて下からオークの首元をスライドさせるように切り上げた。
そして逆手のまま今度は腕を引いて心臓に向けて突き刺し、左手をポンメルに当ててグッと押し込んだ。
それは鮮やかな剣捌きで、本当に一瞬の出来事だった。
瞬殺というやつだ。
聖剣というスキルがそうさせたのか、それともバルムンクがそうさせたのか、もうレオンは4階層でも十分戦える戦力を持っていることが分かった。
もう俺がお守りする必要ないんじゃないか?むしろ足手纏いになる気がする。
「ん〜、なんかあっさり倒れちゃったね。
それとさ、俺、蚊も殺せないって感じの人間だったはずなのに、食料で人の脅威になるんだと思ったら何の躊躇もなく倒せちゃった。
精神も勇者補正かかってんのかな?」
「それは分からんが、その可能性はある。それにしても4階層の魔物を瞬殺するなど、やはりレオンは勇者なんだな。」
「ん〜、でもまだ自分の実力半分とバルムンクの意思半分って感じで、完全に自分の力だけってわけじゃないから、まだまだなんだなって思う。」
「そうか。」
半分も自分の実力が出ているのであれば十分凄いと思うのだが。
確かにこんなところにいるオーク程度で躓いているようでは、魔王の前に立つなど無理な話か。




