第34話 真面目な勇者
「あとね〜、飲みかけのコーラ、タオル、財布、香水、フェイシャルシート、ミントタブレット、ティッシュ、これは焼肉屋でもらったガムだ。あとカラオケのレジ横にあった飴と割引券でしょ〜、あとこれゴム。男のエチケット。
ワックスとかは無かった〜
大学行く日だったらノートとかテキストとか入ってたんだけど、バイト帰りに飲みに行った日だったからあんま良いもの入ってなかった。」
「どれもよく分からないものだな。」
初めて見るものばかりだった。こんなに文化の違いがあることにまず驚いた。
香水だけは分かったが、丸いところを押すと適量が霧になるという仕組みも凄いと思った。
材質も謎だった。
「懐かしいな〜、この写真。これ、あっちの世界の友達。」
「そうなのか。このように鮮明に姿を残すことができるんだな。」
「そうだよ。いつまで充電が持つか分からないけど、起動しなくなったら思い出も消えちゃうみたいで少し寂しい。別にこの世界に来たことが嫌ってわけじゃないけど、だんだん記憶が薄れていって、顔や名前も思い出せなくなるのかなって思うと寂しい。」
「そうか。そうだよな。レオンは自分の意思とは関係なくこっちに連れてこられたんだもんな。俺が元凶ということになるわけだ。」
「ん〜元凶ってほどでもないよ。だってこっちの生活楽しいもん。」
レオンってやっぱりいい奴だよな。勝手に俺が召喚したのに、こんなに文化に違いがある世界に来て帰れなくなったのに、俺に対して怒ってもおかしくないのにレオンは俺に文句一つ言わない。
怒るということをしない世界で暮らしていたんだろうか?
そういえば武器がないな。
「レオン、武器はないのか?」
「武器?無いね。」
「普段は武器を持ち歩かないのか?」
「ん〜持ってる人もいるかもしれないけど、ほとんどの人は持ってないね。日本は世界の中でも治安がいいと思う。俺が住んでた国では持っちゃいけなかった。銃刀法違反ってのがあって、剣とか持って歩いてたら捕まっちゃう。」
「そうなのか。剣を持ち歩かないんだな。」
身を守る手段がないのか。それでも生きていられるとは凄い世界だ。
「あっちでも戦争してる国とか紛争はあるし、電気とか無い場所とかで自給自足してる原住民みたいな人もいるから、そんな国では武器持ってる人もいたかも。あと、銃とか普通に使ってる国もある。この世界みたいにロングソードとかは持ってる人はいないと思う。たぶん。俺が知らないだけかもしれないけど。」
「そうなのか。戦争はどこの世界でもあるんだな。レオンの国は武器を持つ事を禁じているということは、平和なんだな。」
「うん。俺が住んでた国はそうだね〜」
なるほど。治安がいい国で育ったからレオンはこんなにのほほんとしているのか。
怒らないのもそのせいなんだろうか。
そんなに治安のいい国というのは見てみたいものだ。
「失くすとショックだから全部アイテムボックスに入れておこう。」
「そうだな。」
いつもより大人しいレオンに少し申し訳ない気持ちを感じながら、その日はギルドの仕事を休んで家で寛いで過ごした。
そう言えばほとんど休みなく仕事をしていたな。
たまにはこうしてゆっくり過ごすことも必要だ。
「アデルー、気にしなくていいからね。俺を召喚したこと。」
「あ、あぁ。」
「俺、この世界での生活本当に楽しいから。」
「そうか。」
「あっちでは何も考えず、ただ生きてた。それなりに楽しいことはあったけど、ワクワクすることもドキドキすることもなかった。」
「そうなのか。」
「ベフおじさんの農家で手伝いしたり、ギルドでみんなにヒールかけたり、森に冒険者助けに行ったり、俺が誰かの役に立つことが嬉しい。世界を救うなんてでっかい荷物背負ってても、存在してる理由がちゃんとあるのは嬉しい。
それに、魔法使えるなんて夢みたいだしね〜」
「そうか。」
「うん。だから、気にしないで。むしろありがとう。」
俺の方がありがとうだ。レオンのように気軽にそんなこと言えないけど、やはりどこかで申し訳ないと後ろめたい気持ちはあった。
だから世話してやらないといけないと必死になっていた気がする。
勇者として一人立ちできるまでは、ちゃんと支えてやろうと思った。




