第22話 料理を諦める勇者
「もうあとはこれだけだな。」
「やっと新しい家に引っ越せるんだね〜、あのログハウスみたいな可愛いお家。
この荷物運んだら終わりだから今日からあっちに住むの〜?」
「いいぞ。」
「ねぇねぇ、俺さー料理とかしてみたいんだけど。」
「レオンは料理ができるのか?」
「まあね〜、大学入ってから一人暮らししてたからさ、そんな凝ったのは作れないけど簡単なものは作ってたよ。」
「そうか。では荷物を運んだら調理器具と食材を買いに行くか?」
「そうする〜」
レオンは料理ができるのか。意外だな。
どんな料理を作るのか、少し怖いんだが、普通のものを普通に美味しいと言っていたから味覚はこの世界と変わらないんだろう。たぶん・・・。
「電子レンジ無いの?」
「なんだそれは。知らないな。」
「じゃあオーブントースターは?」
「オーブンなら薪を入れて使う窯のことをオーブンと呼んでいた気がする。」
「薪・・・それ俺使えない。え〜ちょっとパン焼く時わざわざ薪で火起こすの?」
「パンはパン屋が焼くから家では焼かない。」
「トーストとか無いの?」
「それはなんだ?それも調理器具か?」
レオンの世界とは調理の方法がこれほど違うのか。
レオンはこの世界の料理を普通に食べていたから、同じような料理があるのだと思っていたが、調理の方法がこんなに違うのだと、どんな料理が食べられているのか気になるな。
「そっか〜無いんだ・・・。フライパンと鍋はあるよね?」
「あるぞ。」
「ん〜思ったより料理すんの難しそう。もしかしてガスも無いから焚き火で調理すんの?」
「まぁ田舎に行けばそういう家もあるな。王都ではだいたいコンロという火が出る魔道具を使っている。」
「あ〜魔道具か・・・。詰んだ。」
「積んだ?」
「終わったってこと。」
「何が終わったんだ?」
「なんて言えばいいんだろ?俺は料理も一人で作れないってことが分かったってこと。魔道具使えないし。」
レオンは珍しく落ち込んで頭を抱えていた。
魔道具を使えないのは不便だな。なんとか魔道具だけでも使えるようになるといいのだが。
「なるほどな。最近毎日のようにギルドでヒールを使っているが、魔力の使い方はどうだ?分かってきたか?まだダメそうか?」
「ん〜正直分かんない。」
「そうか。今度安い魔道具を誰もいない森にでも持って行って試してみるか?」
「そうする〜。料理はお店でプロが作ったやつを食べることにする。」
それが無難だろう。レオンの料理の腕がどの程度のものかは分からないが、とんでもないものができるかもしれないしな。
「魔法は指導官が見つからないからすぐには難しいが、格闘や剣技なら魔法よりは早く使えるようになるかもしれない。やってみるか?」
「確かに〜
魔法でドーンってやつに憧れてたけど、剣でシュパッてやつも格好いいねー
また騎士団ってとこに行くの?それとも冒険者の誰かに教えてもらうのでもいいの?」
「基礎をしっかりやるなら騎士団の方がいいだろうな。基礎さえできればあとは誰でもいいと思う。」
「そっか。あのゴリマッチョの人に教えてもらうことになるの?」
「ゴリマショ?何だそれは。」
「この前の髭のおじいちゃんの横にいた筋肉凄い人〜」
「あぁ、あれは騎士団の団長だ。基礎なら別の者になるかもな。」
「そっか。やってみたい。」
「分かった。」
魔法はコントロールが難しくても、格闘や剣技なら大変なことになるようなことはない。
暴発することもないし大丈夫だろう。
さっそく騎士団に連絡してみるか。
しかし剣の指導官を頼んだが、なかなか返答が来ないためおかしいと思って問い合わせてみると、訓練場を更地にしたというイメージが強く、指導官をやってもいいという騎士がなかなか見つからないらしい。
もうそれならレオンを慕っている者も多いし冒険者でもいいのでは?
大勢の騎士に囲まれて訓練するより冒険者相手の方がレオンも気が楽かもしれないな。
「レオン、騎士団では指導官がなかなか見つからないらしい。冒険者ギルドで誰かに教えてもらうか?」
「いいよ〜、どうせ毎日ギルドに行ってるし。ドランかリックかマークかロイ辺りが居れば頼んでみる〜、マイクとルーシーも教えてもいいって言ってた気がする。」
「そうか。そんなに候補がいるなら誰かしらはいそうだな。」
いつの間にそんなに交友関係を広げていたんだ?
俺は社交的ではないから、そんなに簡単に人と仲良くなれるレオンを少し羨ましいと思った。
「レオン、そういえばEランクに上がったのにEランクの依頼は受けないのか?」
「うーん、今は野菜農家のベフおじさんの畑が忙しそうだから、それが落ち着いてからにする〜」
「そうか。」
今日も野菜の荷運びを午前中で終えて冒険者ギルドでレオンの魔法の練習という怪我の治療が始まる。そして終わる頃に誰か適当な者がいればレオンに剣術か格闘を教えてくれそうな者に声をかけようと考えていた。
最近は、どこから聞きつけてきたのか、明らかに冒険者に見えない者もレオンのヒール目当てに訪れている気もするが。
「これは痛かったね〜、転んじゃったの?そっか。お兄さんが治してあげるからもう大丈夫だよ。」
「お兄ちゃんありがと〜」
「バイバーイ」
怪我をした子供を連れてきたり、どう考えても戦えない老人が混ざっていることもある。
ギルドも弱者と呼ばれるような彼らを、関係ないからと追い出すこともできず困っていたようだが、レオンが勇者であり魔法のコントロールの練習なのだと告げると世界平和のためならと目を瞑ってくれることになった。
魔法師団や騎士団、国の中枢では危険視されているようだが、レオンはそれなりにこの世界に馴染んでいっているように見えた。




