第101話 ゴブリンとトラウマに再会
17階層に下りると、また地形はさっきと同じ洞窟タイプだった。
「うぇ〜、なんかゴブリン湧いてない?」
「ここはゴブリンが異常に発生する階層なんです。ノーマルであれば問題ありませんが、たまに上位種や変異個体が混ざっているので気をつけて下さい」
アシュレイが注意を促した。
「今度こそ数の脅威だな」
ドランが嬉しそうにしているが、ゴブリンなんかではドランが満足するとは思えない。上位種狙いか?
この階はトイレのようなツンとする臭いはないが、ゴブリン特有の不快な匂いがしている。雑巾に似た匂いだ。
当たり前だが、魔物は風呂に入ったり体を拭いたりなどしないから、不潔なんだろう。
まだ獣臭の方がマシだな。
「あたしこの階層も早く抜けたい。この立ち込めた匂いがきつい……」
「私もこの匂いは苦手だわ。獣の匂いよりも苦手」
「じゃあゴブリンなんて遊んでも楽しくないし、さっさと抜けよっか〜、次の階層で楽しめばいいし〜」
レオンがそう言ったんだが、アシュレイがちょっと顔を歪めた。なんだ? 次の階層は楽しめないような強敵が出てくるのか? 大丈夫だ。このメンバーなら大抵の魔物は苦労せず倒せる。
と思っていたんだが、階層を下りると嫌な匂いがした。腐敗臭だ。
「アシュレイ、まさかとは思うけど、アンデッドエリア?」
「そうですね。この18階層と次の19階層はアンデッドが出ます」
さっきアシュレイが次の階層の話をした時に苦い顔をしていたのはこれが理由か。高位のリッチが出ない限り俺たちなら簡単に倒せる。しかし俺らが唯一苦手とするアンデッドだ。
「マジか〜、ここも俺は駆け抜けたくなってるんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
もちろん俺はレオンに賛同する。
「俺は少し戦ってもいい。強い奴がいるなら」
ドランは相変わらずだな。また光の剣の試し切りか? ポチ、頼んだぞ。俺がポチをチラッと見ると、3つの頭のうち1つが俺の方を向いて頷いた。ポチは優秀だ。
それにしてもこの階だけでなく次の階もアンデッドか……
今日はポータルまでたどり着いたら帰ろうと思っていたが、ちょっと後味が悪い終わりになりそうだ。
「じゃあ俺が光をバーンとやるから、よーいドンで全力疾走ね。アシュレイも俊足のスキルあげたから1人で大丈夫だと思うけど、心配なら俺が担ぐ?」
「い、いえ、走ります!」
アシュレイはレオンに担いで走られたことがトラウマになっているようだ。
レオンはまだ優しい方だ。俺なんかワイバーンの次男に上空で急上昇に急降下、回転や捻りを加えられてマジで殺されかけたんだ。
「いくよ〜」
サーン
いつも思うけどさ、レオンの大型魔法ってなんでそんな音がするんだ? 俺には分からない。ドーンとか、バーンとか、バキッとか、バリバリとか普通はそんなんだろ?
「よーいドン!」
ここの階層もレオンの魔法で斬滅できてそうだな。ところどころ倒しきれなかった瀕死状態のゾンビやスケルトンの上位種と思われるやつがいるが、それもレオンやドランがザクザクと切り刻んで駆けていく。
俺は見た。ドランが勝手に道を外れそうになっているのをポチが噛み付いて引きずり戻しているのを。ポチ、よくやった。後でいい肉を食わせてやる。
18階層は難なく抜けて、19階層に差し掛かった時、レオンの光魔法が途中で遮られたような嫌な感じがした。通常はなんの抵抗なくスーッと広がっていくんだが、魔力の流れが途中でおかしかった。
「嫌な予感がするんだけど〜」
「奇遇だな。俺も嫌な予感がしている。王都の6階層のヤバいやつ程じゃなくても結構強いリッチがいるな」
「この階層の主を起こしてしまったのかもしれませんね」
冷静にアシュレイがそう言ったが、『主』という響きだけで恐ろしい予感がする。
起こさないようにそっと通り抜ければ、遭遇せず下の階層に行けたのかもしれない。アシュレイは俺たちなら大丈夫だろうと思って何も言わなかったんだろうが、俺たちは何度も言うがアンデッドが苦手だ。しばらくトラウマで眠れない夜を過ごすほどに……
「帰りたくなってきた……」
「それはダメだよ〜、ここを抜ければきっと眩しい日差しが待ってる!」
「よし、気合を入れていくぞ!」
ドランがえらく張り切っている。
「光魔法が使える人は使って、使えない人は剣でスケルトンとゾンビの侵攻を少しでも防いで! いくよ!」
あの悪夢を思い出して、気合を入れて走り出した。
しかし、レオンが何度か光魔法を放つと、相手の気配が消えた。
「どう思う? 倒したってことはないよね〜?」
レオンがリッチの気配が消えたことで警戒を強めた。
「リッチだからな。気配を消して何か仕掛けてくるかもしれん。ワクワクするな」
ドラン、ワクワクするのはお前だけだ。
「来ましたね」
アシュレイが言うと、ガチャガチャ、ベチャッベチャッと嫌な音が複数こちらに向かっていることが分かった。
悪夢だ……
「光飛ばしながら次の階層に駆け込むよ! みんな逸れないでね!」
レオンが言うと、光魔法を飛ばしながら走り出した。
またリッチが使う幻影なのか? いつの間にかスケルトンやゾンビが俺たちの後ろにまで回っていて、レオンが光を放つたびに消えてはまたすぐに復活してくる。これだからアンデッドは嫌なんだ……
「もうキリがない! 無理やり押し通るよ!」
スケルトンとゾンビが混在した中に突っ込むようにしてレオンが走り、ドランはポチにどやされながら殿だ。
何度も光を放っても、すぐに洞窟も魔物も再生されて襲いかかってくる。
俺たちは必要以上の会話はせず、というかできず、とにかく剣を振るい、魔法を飛ばしながら走った。
ハァハァハァハァ
「本当、アンデッド嫌いだわ〜」
「あたしもあんなにアンデッドいたらトラウマになる。レオンの光でゴリ押しできないとか信じられない」
レオンとアリサが感想を言い合っているが、もう俺は疲れて言葉も出ない。
「もしまた19階層に行くことがあれば、『主』を起こさないように通り抜けましょう」
アシュレイがようやく息を整えるとそう言ったが、俺は二度と行かない。用もない。
「戦いがいはないが、スリルはあったな」
そんな感想を持つのはドランだけだ。
階段を降りていくと、ポータルがあった。10階層の前にあるものと色も形もそっくりだ。
「もう今日は帰る〜? アシュレイの歓迎会もしなきゃだし〜」
「そうだな」
「あたしも賛成!」
ポータルにみんなの魔力を登録すると、俺たちは入り口のポータルへ戻り、ダンジョン都市で適当に酒やら食材やらを買い込み、ワイバーンが待つ森へ戻った。
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