上手くいかない!
婚約者であるはずのクラムから別れを告げられる前になんとか子供だけは授かりたいと考える魔女のジュジュ。
非番で家に来ていたクラムを物理的に押し倒そうと意気込んでいたのだが……結果は惨敗であった。
いや、実際にクラムのスキをついてグイッと押してみたのだ。
しかし騎士であるクラムの体はびくともしない。
前から押しても後ろから押してもびくともしないのだ。
「なんでっ?こんなに力いっぱい押してるのに!」
物理的に押し倒すことが出来ないと知り、ジュジュは苛立ちをクラムにぶつける。
そこに色気も睦事に必要な雰囲気も何もあったものではないのだから、当然クラムは訳が分からずキョトンとしていた。
「ジュジュ?どうした?」
突然奇怪な行動を取ったジュジュにクラムは訝しげな顔をして訊いてくる。
男女の交配など雄しべと雌しべに毛が生えたくらいのものとしか認識していないジュジュに、ここから色っぽい雰囲気に持っていく事など不可能であった。
「っく……か、肩に虫がついてた、のっ……」
苦し紛れにジュジュがそう言うと、クラムは相変わらず表情筋が仕事をする事なく礼を言ってきた。
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして!」
とヤケクソで答えたジュジュ。
残念ながらその日はもうチャンスは訪れなかった。
それどころかその次の週の非番もそのまた次の週の非番も、変わらず律儀にやってくるクラムを押し倒して子種を頂くという目標は達せられていない有り様だ。
───だって、口数の少ないクラムが面白い従弟の話なんてするから……!
前回の非番でジュジュの家に訪れた時、クラムは王宮騎士になったばかりだという従弟の話をしてくれた。
「内股なのに踏み込みが早い」とか
「王宮のメイドに腕相撲で負けた」とか
「クシャミの声がパッションと言う」とか、風変わりで面白い従弟の話を夢中になって聞いていて、気付けばクラムが帰る時間になってしまっていたのだった。
「わーん!わたしのバカバカ!今は従弟の話なんかに耳を傾けてる場合じゃないのにーー!」
クラムが帰った後、ジュジュはテーブルに突っ伏して嘆いた。
その時、黒猫のネロが猫用のドアから家の中へ入って来る。
「ナーーン」
ネロはジュジュに「ただいま」と挨拶をしてから暖炉の前に陣取った。
秋も深まり、夕刻になると冷えてくる。
ジュジュはネロのために新たに薪を焚べて火を強めてやった。
「……ネロ、随分久しぶりじゃない」
ネロの縄張りは古の森全体だ。
そして彼は気ままに森の中で生活をしている。
「ナン」
ジュジュの言葉にそう返事をして、ネロは毛繕いをはじめた。
その姿を見てジュジュはネロに言った。
「あらネロ、背中に何か付いてるわ」
ネロの毛艶のよい黒光りする背に付着していたものを指で摘んで取ってやる。
「まぁこれは長胡椒の欠片ね。森の深部にまで遊びに行っていたの?」
ジュジュはその長胡椒の欠片の香りを嗅いだ。
ほのかに甘く感じる爽やかな香り。
この長胡椒は『魔女の秘薬』の材料のひとつだ。
その時、ジュジュの頭にとある考えが過ぎる。
───クラムに魔女の秘薬を……
魔女の秘薬とは媚薬の類だ。
どちらかというと催淫剤に近いかもしれない。
かつて魔女の婚姻に魔術師協会が介入していなかった頃、“魔女が番う季節”と称された結婚適齢期に入った魔女が、気に入った相手にこの秘薬を用いて交配したという門外不出のヤベェ薬なのだ。
俗世と隔絶された辺境中の辺境である古の森で婚姻生活を維持する事はとても難しい。
魔女に伴侶を養える力はなく、しかしその伴侶が就ける仕事などこの近辺には無いのだ。
通い婚という選択をした魔女夫婦もいたがいずれも長続きはしなかったという。
ジュジュの高祖母もその一人であったらしい。
だから魔女はたった一夜の相手を探し、その見つけた相手がフリーであれば『魔女の秘薬』を用いて交配した。
そうやって子種を手に入れていたのだという。
(もちろん全ての魔女が使用したわけではない)
「魔女の秘薬を使えば確実に……」
ジュジュとて出来ればこんな強引な手段は取りたくない。
物理的に押し倒したとしても自然な流れて合意に基いて交配をしたかった……。
「いやいやいや、やはりこれは最後の手段にしよう」
ジュジュは首をぶんぶんと盛大に振る。
「で、でも……」
とりあえず、魔女の秘薬の調合だけはしておこうかな……?と考えるジュジュであった。
その側ではネロが暖かな暖炉の熱にご満悦で喉をゴロゴロと鳴らしていた。
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ジュジュ、魔女の秘薬を作るのか?
そしてそれを使うのか?
次回から更新は朝にお引越しします。
Xやアメブロではつぶやいたりお知らせしておりましたが、新しいお話の投稿を始めます( •̀ω•́ )✧
書きたいお話が思いついてしまって……。
タイトルは
『彼氏が留学先から女付きで帰ってきた件について』です。
ヒロインは魔法学校に通う悪役令嬢顔の平民の女子生徒。
幼馴染から恋人になった彼が、半年間の特待留学の日程を終えて帰ってきた。
が、何故か隣に超絶美形な女子生徒を伴って……。
勝気な顔した気弱なヒロインが、明後日(過ぎる)の方向に頑張るお話です。
ジュジュのお話と並走しての投稿となり、絶対に感想欄の管理をしきれないと思いますので、新しいお話の感想欄は閉じさせて頂きますね。
でもジュジュの方では変わらずオープンにしておりますのでよろしくお願いします。
投稿は明日の夜から。
よろしくお願いします!