表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

エピローグ 魔女の大切な人

 王都に戻ったクラムはまず、上官に引き渡していたロアンを襲った騎士仲間の処分がどうなったのかを確認した。


 上官に怪我の回復と復帰を報告し、休暇の申請に訪れた婚約者であるジュジュのことを散々冷やかされてからようやく奴らの処分を教えて貰えた。


 ロアンを襲ったのは三名。

 二人は男性にも女性にも触手が伸びる性癖があり、もう一人はただ面白がっての参加だったらしい。

 問題はそいつらが貴族の令息であった事。

 対して襲われたロアンは平民だ。

 その事によりこの件が有耶無耶にされるのではないかとクラムは懸念したのである。


 が、それは杞憂に終わった。


 ロアン救出時にクラムにより物理的攻撃魔術と物理的鉄拳制裁を受け、彼らも暫くは病床から抜け出せない状態であったらしいが主犯格の男は騎士資格を剥奪され懲戒免職となった。

 そしてあとの二人は騎士見習いに降格の上、地方に飛ばされたという厳しい処分が下されたそうだ。


 団内の結束を重んじる騎士団内で、その仲間の尊厳を踏みにじる行いをする。

 当然騎士団長の逆鱗に触れ、それらの処分と更に鞭打ち刑が科せられたという。


 ロアンは公正な処罰が下された事に深く安堵すると共に、陰で尽力してくれたに違いない上官に深々と頭を下げたのであった。



 ロアンの方も襲われたと同時に意識を失ったので、恐怖を感じる暇もなかった事が不幸中の幸いといえよう。


 クラムが会いにいくとあっけらかんとして出迎えくれた。

 そして上官と同じく、

「あんなに可愛い魔女ちゃんなら、朴念仁クラムがメロメロになるのも仕方ないね!大切にしてあげなよ?」

 と散々冷やかされた。


 ロアンの元気そうな顔を見て一安心したクラムは、(くだん)の手紙の犯人の捜査に着手した。


 クラムは騎士であると同時に、魔術師協会に籍を置く魔術師でもある。


 階級は一級魔術師。

 一級からは魔術師協会に所属する魔術師の名簿を閲覧出来る。

 もちろん名簿の持ち出しは禁止されているし写しを取る事も禁じられているが、閲覧室にて管理者の目の届く範囲内で調べものをする分には咎められない。


 クラムは名簿に書かれた魔術師たち直筆のサインとジュジュの元へと届いた手紙を照合魔法にかけた。


 それにより西方大陸で数万人いるという魔術師たちの中から数名がピックアップされる。


 またその数名の魔術師が記した書類からさらに照合魔法をかけ、的を絞ってゆく。


 そうして一人、古の森の魔女とも関係性のある魔術師が浮上した。


 その魔術師の名はダニエル=ダリル。

 その男は共に魔術師試験に挑んだクラムの同期でもあり、たまに食事に誘われる気の置けない魔術師仲間でもあったのだ。


 そしてかつてクラムと同じく古の森の魔女の婚約者候補として名が上がるも、異性愛者でなかった事から本人が縁談を辞退した者であった。


「こいつが……」


 わざわざなんのために?


 ジュジュとの縁談を断っておいてなぜジュジュと自分の婚約を壊そうとした?


 考えても考えてもその動機はクラムには思い浮かばない。


 ただ一つ、そうでないといいなぁと頭を過ぎった考えはあったが……。



 とにかくクラムは協会側に事の次第を話し、その魔術師を任意で取り調べをするよう希望した。


 協会が最も保護を優先する魔女の縁談を脅かすその手紙や写真などの嫌がらせ行為に、協会側もすぐに応じ、動いてくれた。


 そしてダニエル=ダリルは取り調べにより驚愕の犯行動機を供述したのであった。


 なんと彼は……長年クラムに恋情を抱いていたのだという。

(やはりそうでないといいなぁと思った方であった)


 女性に興味がなく魔女の婚約者を辞退したのはいいが、まさか恋慕するクラムが婚約者となるとは思ってもみなかったのだそうだ。


 まぁクラムのような優秀な男が魔女の伴侶で満足するはずがない。

 いずれ婚約解消となるだろうと高を括っていたものの、それが一向に解消されない事にダニエルは苛立ちを感じていたという。


 そして魔女が十八になるまで一年をきった時に急に焦りを感じたダニエルが、魔女にクラムを諦めさせるべく女性を騙って手紙や写真を送りつけ始めたらしいのだ。


「お前のせいでジュジュが……」


 ジュジュがどれほど傷付き、辛い思いをしたか。


 クラムはこの男が許せなかった。


 しかし手紙や写真を送りつけただけでは大した罪には問われない。

 協会側が厳重注意をして二週間ほどの謹慎、そのくらいで終わってしまうのが関の山だ。


 クラムはこの男になんとしても相応の制裁を与えないと気が済まなかった。


 そこでクラムはダニエルに話を持ちかける。


「ダリル、俺と勝負をしないか?俺が勝ったら二度と俺とジュジュには関わるな。そしてもし俺が負けたら、お前の言うことを何でも聞いてやるよ」


 クラムがそう言うとダニエルは「何でも……」と言って生唾をのみ込んだ。

 それを見た瞬間、すぐに殴り倒したくなったが我慢してダニエルが承諾の返事をするのを待つ。


 そしてダニエルは二つ返事で勝負を受けた。


 協会には“決闘をする”とありのままの名目で届け出をした。

 本人同士の合意であり、きちんと手続きを踏めば魔術師同士の決闘は認められている。

 いわばこれは魔術師の歴史の中では伝統的で正当な勝負であった。


 それぞれが勝敗における誓約を提示する。


 己が勝った場合、相手が負けた場合の約束事だ。


 それを協会職員の立ち会いの元に掲げ、互いに誓約魔法を交わす。


 誓約魔法を違えた場合の制裁の恐ろしさは、魔術師であれば誰もが理解している事であった。


 ダニエルは勝負に勝てばクラムと魔女の婚約を無効とし、クラムを手に入れる事が出来ると目を血走らせて躍起になっている。


 だがクラムはこんな奴に負ける気がしなかった。

 魔力量、魔術師としての経験は同等、いや普段は騎士として働くクラムが若干不利であるといえる。

 ダニエルもそこに勝算を見出しているのだろう。


 しかし奴は知らない。


 クラムが古の森の魔力を直に触れ、その事により魔力の性質が古の森の魔力と同質になったことを。



 勝負の結果は………クラムの圧勝であった。


 クラムはダニエルに対し一切容赦はしなかった。


 ジュジュに嫌がらせの手紙と写真を送り付けたこと、自分勝手で一方的な想いを押し付け、自分とジュジュの未来が無くなればいいと画策したこと、その全てが許せなかったのだ。


 と、いうわけでクラムは火蓋が切られた開始五秒でダニエルを吹き飛ばし、その身をフィールドのゴミと化してやった。


 あまりに一瞬の出来事に、古の森の魔女を担当する職員は苦笑いをしていたが。


 ダニエル=ダリルは全治三ヶ月の重症を負った。


 誓約魔法を結んだのだ。

 奴は二度と自分たちに関わる事は出来ない。


 クラムは清々した気持ちで魔術師協会を後にした。



 早く森に帰りたい。

 早くジュジュに会いたい。

 そんな気持ちが逸るも、クラムは花屋に寄りジュジュの好きなダリアと秋咲きの薔薇の花束を買った。


 そしてジュジュのお気に入りのベーカリーでパンプキンブリオッシュも忘れずに買う。

 この時期だけ販売されるパンプキンブリオッシュをジュジュは毎年楽しみにしているのだ。


 それらを手に携えて、クラムは大きくひとつ深呼吸をして心の中に森の中の魔女の家を思い浮かべた。


 大切な人が待つあの家を。


 クラムは転移魔法を用いて、王都から古の森へと飛んだ。




 ◇◇◇◇◇




 その時、ジュジュはクラムのためにカボチャのミルフィーユグラタンを作っていた。


 薄くスライスしたかぼちゃをミートソースとホワイトソースで層にして重ねてゆく。

 まさにミルフィーユのような状態にするのだ。

 一番上にはチーズをたっぷりとすりおろし、薪ストーブのオーブンでこんがりと焼く。


 なんとなく今日、クラムが帰ってくるような気がしたのだ。


 知らせがあったわけではない。

 だけどなぜがジュジュにはクラムが帰ってくると、そう思えたのだった。


 カボチャのミルフィーユグラタンが焼き上がり、ミトンをはめた手でオーブンから取り出す。

 香しいその香りを堪能していたその時、ジュジュはクラムの魔力を感じた。


 グラタン皿をテーブルに置き、急いで扉を開けるとそこにはやはりクラムが立っていた。


 呼び鈴を鳴らす前にジュジュが扉を開けたものだから、クラムは面食らった様子で立っている。

 その手にはダリアと薔薇の大きな花束を持って。


 クラムは笑みを浮かべ、はにかみながらジュジュに言う。


「ただいま、ジュジュ」


 “ただいま”と言ってくれた事にジュジュの心に温かなものが広がってゆく。

 ジュジュも精一杯の笑顔でクラムに返した。


「おかえりなさい、クラム」


 クラムは嬉しそうに頷き、魔女の家へと入ってゆく。



 何百年と変わらず魔女の家のドアに美しい音色を響かせているドアベルを鳴らしながら、ドアはパタリと閉まった。



 中ではこれから、


 クラムの一世一代のプロポーズが行われるのだが、それを覗くのは野暮というものだろう。


ただ、魔女の家の周囲に、


「ジュジュ!愛してる!俺と結婚してくださいっ!!」


という大きな声が響いたらしい。

(黒猫のネロ談)





 そうして数ヶ月後、


 ジュジュは無事に十八歳となると同時にクラムと結婚した。


 クラムは結婚を機に騎士団を辞め、魔術師協会の職員へと転職をした。


 そして王都よりかは古の森にほど近い魔術師協会の地方局に勤めている。


 クラムの従弟のロアンは新しく配属された班の班長を務めている女性上官に一目惚れをして猛アタックの末、順調にお付き合いが続いているそうだ。


 きっと彼の慶事の話を聞くのもすぐだろう。




 結婚をしてジュジュはすぐに妊娠した。


 生まれた第一子は当然女児である。


 それはジュジュとクラムの小さな魔女の誕生であった。


 二人は愛情をこめて、生まれた娘に“ロロ”と名付けた。


 そしてなんと、ジュジュとクラムの間にはロロを含め四人の娘が誕生したのだった。


 魔女の伝承は一子相伝なので、長女であるロロ以外の娘たちはいずれは森を出て独り立ち、もしくは嫁に行くことになるが、そのいつかの日までは家族六人で寄り添いあいながら魔女の家に住まうのだ。



 父が死に、祖母が死に、母も死んでからはたった一人で暮らしてきたこの家も今は子供たちと夫の笑い声が絶えない賑やかな家となった。


 

ジュジュの大切な人たち。


 それを与えてくれたのはやはり森だとも思い、ジュジュは森に感謝する。



 そして大切な家族がいつまでも幸せでいられるように守って欲しいと、


 ジュジュは森にそっと願った。





  お終い








 ───────────────────────






 はいこれにて完結です。


 ハロウィンを意識して魔女のお話が書きたくなって投稿をはじめたこのお話にお付き合いいただきありがとうございました。


 かぼちゃメニューの数々、書いていて楽しかったです。

何度お腹が鳴ったことか……。


 食欲の秋でもありますからね、この秋は芋栗南瓜を食べまくる所存です。


ジュジュとクラムとカボチャのお話にお付き合い頂きありがとうございました!



 さて次回作ですが、しばらくは一話完結の読み切りばかりを投稿しようと思っています。


『彼件』がありますので投稿は少し遅めの20時にしようかと。


 その読み切り第一作目は喧嘩っプルのお話を投下。


 タイトルは

『婚約者が肉食系女子にロックオンされています』


 魔法省に勤めるヒロインとその婚約者。

 だけどその婚約者の新しいバディになった女性職員が婚約者を狙っているようで……。


 恋愛ごとに疎い隙だらけの婚約者にイライラして喧嘩ばかりになってしまう、ちょっぴり素直じゃないヒロインのお話です。


 一話読み切りなのでいつも以上にご都合主義★


 さくっと暇つぶしに読めるお話としてお楽しみいただければ光栄です。

投稿は明日の夜。


 よろしくお願いします!



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ