クラムの想い
今回、ちょっと身体的に痛い描写があります。
苦手は方はご自衛のほどよろしくお願いいたします。
───────────────────────
バチバチバチと凄まじい破裂音を響かせてクラムが無理やり古の森の結界を破ろうとしている。
自らの魔力を最大出力で展開させ、森の魔力を相殺しようと試みているようだ。
「ク、クラムっ!?」
今し方別れを告げ解放したばかりの相手の不可解な行動にジュジュは目を見張る。
「ぐぅっ……くっ……ぅう゛」
クラムは苦しそうな声を上げながら、それでも結界を破ろうと必死になっていた。
古の森の純度の高い強大な魔力を破ろうというのだ、当然無事でいられるはずはない。
普通の人間ならとうに皮膚は裂け、血も骨も焚かれてしまっているだろう。
自身の身に防御を張っているクラムでさえ、体の至る所に切り傷や火傷を負いはじめていた。
ジュジュはその様子を見て慌てて止めに入った。
「クラムっあなた一体何をやっているのっ!?な、なんて危険な事をっ、今すぐやめてっ!」
「嫌だっ……ジュジュっ……話、をっ……聞いてくれっ……ぐっ!」
「話す事なんてもう何もないわっ、あなたは好きな人と結ばれればいいっ、私はそれを受け入れるっ、それだけの事よっ!」
「それだけとはなんだっ……さよならってなんだっ……好きな人ってなんだっ……!」
「クラム本当にもうやめてっ!大怪我をするわよっ!」
「ジュジュが話を聞いてくれるまでは諦めないっ……結界なんに屈しないっ……必ずお前の側に行くっ……」
「な、なぜっ……」
なぜクラムはこんなに必死になっているのか、ジュジュには理解出来なかった。
あのタレコミに書かれていた事が正しくて、
ジュジュが目の当たりにした事が真実だ。
ジュジュはそれを受け入れて、これからは二人、別々の人生を歩んで行く。
それでいいじゃないか。
この上まだ何を話そうというのだ。
クラムの奇怪な行動に、ジュジュは分かりやすく狼狽えた。
「な、なんなのっ?何がしたいのっ?それともなにっ?あのピンクの人とは本気じゃなかったとでも言いたいのっ?プロポーズまでしておいてっ!?」
「くっ……プ…プロポーズをしたのはあいつにじゃないっ……」
「バカにしてるのっ?堂々と彼女にプロポーズしていたじゃないっ……!」
「彼女、じゃないっ……!」
「ふざけないでっ!」
「ぐわっ……!」
クラムの言葉を聞き、カっとなったジュジュに呼応するかのように森の結界が強まった。
魔女が拒絶する異物を排除しようする力もさらに強くなる。
パンッという乾いた炸裂音と共にクラムの頬に大きな裂傷が出来た。
「きゃあっ!ク、クラムっ、もうホントにやめてっ!!」
クラムの痛々しい傷を見てジュジュは一気に血の気が引いた。
本当に彼が何をしたいのかが理解できない。
どうして、どうしてそこまでして……
「ジュジュ……俺がプロポーズをしたかったのはっ……お前だよっ……」
結界を破るために展開する魔力を弱める事もなくクラムは話し続ける。
「協会に決められた婚約だったけどっ……好きになったんならちゃんと自分の口でプロポーズをしろって…従弟のロアンが言うからっ……俺は、本当にそういうのには疎い、からっ……でも俺も心からそうしたいと思ったっ……だからっ……!」
「ロアン……?」
「前に、話しただろっ?内股で踏み込み、メイドに腕相撲で負けるっ……」
「あ、クシャミがパッションの……!」
以前に聞いていた話を思い出し、ジュジュは思わずそう返事していた。
「そのロアンが練習台になってやるから、……プロポーズの練習をしろって……俺はっ、口下手だからっ」
「ちょっと待って?たとえ従弟のロアンさんにそう言われたとしても、あの時ピンクの髪の女性にプロポーズしていたじゃないっ!」
「だって……アイツがその従弟のロアンなんだから、そりゃアイツに言うだろっ……」
「……え?」
「写真で見たっていうピンク頭も、……プロポーズしていたピンク頭もっ……さっき部屋に居たピンク頭もみんな同一人物っ……二つ年下の従弟のロアンだよっ……!」
「ウソっ!!だってあの人っ、どう見ても女の子じゃないっ!」
「女に見えてもアイツは男だっ!内股でもメイドに負けるような腕力でもアイツは男だっ、本人も容姿は気にして……はないな、アイツはそんな自分を気に入っているっ……とにかく全て誤解なんだっ!…アイツは男でっ、従弟でっ、俺が愛してるのはジュジュだけたっ!プロポーズしたいのはジュジュだけなんだっ!!」
「っ………!」
「ジュジュっ……!好きだっ…かぼちゃが大好きなジュジュがっ、料理上手なジュジュが、マイペースなジュジュが、可愛いジュジュが、魔女のジュジュが、本当にっ本当に大好きなんだっ!!」
クラムがそう叫んだ瞬間、あれだけクラムを拒んでいた森の結界が一瞬で消え去った。
「うわっ……!?」
そのせいで勢い余ったクラムがそのまま地面に転がる。
それをジュジュは呆然として見ていた。
クラムは……今、なんと?
誰を好きと?誰を愛していると?
誰にプロポーズをしたいと……?
ただ立ち尽くすジュジュに、クラムは立ち上がり
痛む体に鞭打って歩み寄る。
「ジュジュ……」
「クラム……本当……?今言ったことは……本当なの?」
信じられないといった表情をするジュジュの頬に満身創痍のクラムが手を添えた。
「本当だよ。俺はダメだな、今までの口数の少なさがジュジュを不安にした……ごめん、ごめんなジュジュ……」
そう言ったクラムの体がゆらりと揺れる。
「え?クラムっ……?」
「ごめん、ジュジュ……」
クラムは膝から崩れ落ち、そしてそのまま意識を失った。
_______________________
そらそうだ。
ジュジュさん、早く手当てをしてあげて。