目立つだけの悪 1
ベアトリスは、戦っている彼を見つめていた。彼がピンチであることは、戦う前からわかっていて、一人で応戦するのは難しいかもしれないと考えていた。だからと言って、彼を助けに行けば、聖女である小鳥の守りが手薄になるのはわかっていた。相手には瞬間移動を使う超能力者がいるのだから、彼女を囲んでいないと、どこから彼女を攫いに来るかわからないのだ。そんな状況で、穴を開けるわけにはいかない。付き人である龍樹の戦闘能力が高いのはこれまでのことで理解していたが、この戦いは今までのように簡単にはいかないだろう。
学園の中だというのに、周りには誰もいない。人通りはいつもなら少なくないはずの場所だが、敵が何かをしたのか、それともたまたまそういう状況なのかはわからないが、どちらにしろ、自分たちには不利な状況のまま変わらない。誰か一人でも通りかかってくれれば、他の人を呼んでもらうことができただろう。
「誰も、助けになんて来ない。そうしたんだから」
いつの間にか、ベアトリスの正面にはローブが出現していた。彼女は驚きながらも、戦闘態勢を取った。近くにいたフリューも水の魔法をほぼ無限に使えるというアイテムを持って水の魔法をいつでも使える体勢になる。ファベルは小鳥の肩を抱いて、彼女を守るように庇っている。ハルエラだけが、見た目には戦闘態勢を取っておらず、ローブの方に視線を向けているだけだった。
「あの人が、何かをするときにはこれを使えって言ってたんだ。知ってるだろ、お前たちが殺したんだから」
ベアトリスには彼の言葉を理解することはできなかった。そもそもベアトリスは、ダークスターやコスタのことは知っていても、龍樹があの組織を壊滅させたときの詳細は知らないのだ。さらに、ローブの男がダークスターのメンバーであることも知るはずもない。だから、彼の言葉を理解することなんてできるはずがないのだ。
「何の話をしているのかしら。私にも理解できるようにおっしゃってくださる?」
「知らない? そんなはずはない。お前も王族の一人のはずだ。ならば、あの事件を引き起こしたのはお前たちのはずだ」
ローブは目深に被っていたフードを外した。そこにいたのは、本当に何の特徴もないと言えるような中年くらいの男だった。そこらの人の顔を集めて平均したような、存在感の薄い顔。恨みのこもった目を向けられているはずなのに、それすらも感じるものはほとんどない。
ベアトリスは、彼を無意識のうちに脅威ではないと判断していた。そのことを思考に合わせて、ようやく気が付いた。テレポートという超能力を持ちながら、存在感がないという特性を持っているのだ。もし彼に隙を付かれれば、簡単に殺されるだろう。
男はいつの間にか、ローブの中から短剣を出していて、その先端をベアトリスに向けていた。人と人が会話するくらいの距離しか開いてないため、相手の攻撃範囲に自分がいることも思考しなければ気が付けない。無意識に彼を敵ではないとおもってしまっているのが、本当に脅威であった。意識し続けなければ、相手の攻撃もいつの間にか受け入れてしまいそうなほどの存在感の薄さ。
しかし、それは意識すれば、大した相手ではないということでもある。相手の動きに注意してみていれば、その動きが訓練されたものではないことがわかるだろうし、戦闘慣れしているわけでもないことがわかる。
彼女に向けて、短剣が突き出される。彼女はそれを簡単に回避したが、反撃しようにも相手はそこにはいなかった。テレポートして、既にベアトリスの横に移動している。またしても短剣が突き出されて、それもぎりぎりで何とか回避した。しかし、彼女はその場所から動くということは、小鳥の守りが薄くなるということだ。当然ながら、彼女の横に移動したということは彼女を抜いて、小鳥に近づくことができるということである。ローブの男は、ぎりぎりで回避したベアトリスが転ぶのを確認しながら、小鳥の方へと歩いていく。彼が小鳥の方へ直接飛ばないのは何か理由があるのかもしれないが、今はそれを考えている場合ではない。小鳥が攫われることは何としても避けなければいけない。
ローブの男の前に、フリューが立ちはだかる。既に水の球を彼に向かって発射しているが、彼はそれを身のこなし一つで軽々回避した。
「お前か。 テレポートの邪魔をしてるのは」
フリューが持っている道具の中には、超能力の一部を阻害するアイテムがあった。テレポートや遠距離から直接、彼女や彼女の付近に影響を与えるような超能力は彼女の周りでは使えない。つまりは、彼女が持っているその道具を壊せば、小鳥を連れ去るのはより簡単だということだ。




