振り払った火の粉は燃える 6
彼らが攻撃してこないと見て、男たちが先に動き始めた。一対一を望むようなことはなく、ベルシャインがいるというのに、龍樹の方に三人が向かっていく。彼は考えることを中断して、戦闘に集中することにした。最初はナイフが振るわれて、彼はぎりぎりで回避する。不良たちとは違い、振るう範囲が小さく、すぐに切り返してくる。その流れるような連撃は、あの不良たちの中にいた短剣使いとは比べられないほどの技術だ。彼はそれをぎりぎりで回避している。彼には相手の動きが見えているのだ。だが、一人を相手にそれだけ動けたとしても、二人を相手にするようになればそれだけ動きにくくなるのは当然だろう。そして、ナイフ使いだけではなく、手長の鎌使いも彼に襲い掛かろうとしていた。しかし、その鎌使いが振りかぶって彼を刺そうとしていた鎌をベルシャインが剣で押さえていた。手長の鎌使いの目が、彼の方を向いた。邪魔をするなと言っている瞳をそのまま彼にぶつけているが、彼もそう簡単に退くことはできないのだ。
だが、彼が抑えられるのは一人だけ。最後の体の太い男がゆっくりと龍樹の元へと移動していた。ナイフを避けてはいるが、彼が移動する先にはその男がいた。ゆっくりと近づくだけだが、龍樹自身が回避しながら敵に近づいてしまっていた。彼はそれを自覚しつつ、相手から離れることができない。そこに来て、自分が回避しているわけではなく、回避させられていることに気が付いた。しかし、そこから逃げることができない。他の退路を進もうにも、ナイフ使いにその隙はなく、攻撃されれば、回避せざるを得ないのだ。防護の魔法を使うことができればいいのだが、相手の猛攻が彼の脳内にイメージさせる隙を与えない。一度でも、そのイメージが完成すれば、イメージを維持することは難しくないのだ。それができないうちは回避するしかない。
そして、ついに龍樹は太い男に近くに来てしまった。後ろを振り返れば、その男がにやにやと笑っていた。いつでも、お前を殺すことができるとでも言いたげな目で彼を見ていた。手を出さないのは、余裕からだとわかるほどだ。龍樹は敵の挑発的な態度に乗ることもなく、ただただ攻撃を回避している。その何でもないというような様子が太い男の癇に障ったようで、余裕の態度から一片、眉を寄せていた。その不機嫌な顔のまま、龍樹にさらに近づいていた。
「なんだ、少し余裕がありそうだな。その顔を歪ませてやる!」
言葉と拳、どちらが早いかというようなタイミングの攻撃。拳だけではなく、常にナイフの攻撃は続いている。それでも、彼は軽く回避していた。冷静に二人の攻撃を視界に収めて、適切に回避しているように見える。その様子は先ほどよりも余裕があるようにすら見えた。ベルシャインが鎌使いを抑えながら龍樹の動きに圧倒されていた。少し先の未来を見る超能力がある彼でも、そういう動きができないのにも関わらず、彼は未来を見ることもできないはずなのに、その動きで回避しているのだ。そして、彼が奮闘しているのを見ると、ベルシャインのやる気が出てくる。
相手の鎌を跳ね飛ばして、相手の状態を多少のけぞらせた。相手の懐にすぐには飛び込まず、相手の動きを待つ。相手の状態はすぐに元に戻り、相手の他人を傷つけることになれた目を受け止める。怖くないということはできないくらいには恐怖はある。あの不良たちとは比べられないほどに怖い。だが、そこで逃げることはできないのだ。
「俺とやるのはいいが、王子サマじゃ、俺には勝てねぇよ」
長い手が短い鎌を操りながら、彼に襲い掛かる。超手にそれぞれ一つずつ持っている鎌が彼に交互にぶつけられている。金属が当たる音がしているが、どちらも退くことはなく、ベルシャインは来る鎌を何度も何度も打ち返していた。剣を握る手には衝撃が加わり続けていて、どちらが先に武器を離すかといわれれば、実戦には慣れてないベルシャインだということは誰でもわかることで、それは彼自身も自覚していた。
(打ち合いだけじゃ、どうにも不利だな。何か手が……)
彼は思考しながらも相手の鎌を打ち返し続けている。鎌使いが攻撃を変えずに、彼に鎌を撃ち込んでいるのは、当然ながら彼の消耗を狙ってのことであった。長い腕で遠心力が加わった鎌の攻撃は、かなり重いだろう。彼の攻撃は冒険者でも防ぎ続けるのは難しいのだ。王子で訓練をしているとはいえ、まだまだ若く経験値が足りないのだ。
(やっぱり一人じゃ無理だ。あの時だって、ベアトリスがいたから、勝てたんだ)
彼はそう思っているものの、鎌を捌く手を止めることはなかった。




