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振り払った火の粉は燃える 2

「アニキ、あいつら、ミスったらしいッス」


「ああ? マジかよっ! 笑えるな!」


 そう言いながら、本当に大声で笑っている。その声が、彼らのいる路地の中に響き渡る。明らかにあいつらと呼ばれている者たちは、期待されていないどころか、捨て駒にされることが前提であるかのように話している。


「ていうか、アレを使って負けたのか?」


「そうみたいッス。回収した瓶ッス」


 下っ端のような男は、アニキと呼んでいる彼に半透明で薄緑色の粘性の液体がへばりついた瓶を見せた。アニキはそれを見て、手を振って、しっしっとジェスチャーをした。下っ端はそれを再びポケットの中に入れている。何かに使えるかもしれないと思っているのだろうか。


「まあ、そうか。失敗したか。というか、聖女とかいう女を攫ってくるだけなのに、なんでその薬を使ったんだ。戦って奪ってこいとか言ってないぜ?」


「アニキ、相手はただの学生ッスよ? 強い奴がいれば、戦ってどうにかしようとするでしょうよ。それに、学園に通ってるのに、勉強しないバカッスよ?」


「それもそうか。馬鹿だから利用したんだったな。そうだそうだ。だが、あいつらが失敗したってことは、俺たちでやらねぇといけねぇな。そうだ、あいつらも呼んで背作戦会議だな」


 そういうと、二人は暗い路地の中を歩いていく。




 学園の中はあの事件からさらに数日たって、日常を過ごしていた。いつものように、授業を受けて、昼食を食べて、その後に授業を受けて、その日の全ての授業が終われば、生徒たちは思い思いの過ごし方をしている。その中で彼らもあの事件のことは時折は思い出すものの、他の生徒と同じような日常を送っていた。変わったことといえば、五人の中にフリューとハルエラが加わったことだろうか。学園内では既に、二人と共にいることが増え、気が付けば、フリューは小鳥と他の人と話すように会話ができるくらいには仲良くなっていた。彼女は人見知りではあるが、相手が女子ということもあって、あまり時間がかからず仲良くなったようだ。彼女と仲のいい人が増えるのは、龍樹にとっても嬉しいことだ。自分の友達が増えるより、義妹の友達が増えて、彼女が明るく生活できることの方が重要なのだから。


 ハルエラは、フリューについてきているだけのようで、彼女は未だに大人しかった。外で見る彼女の印象のギャップは未だに感じていた。しかし、龍樹はそこまで彼女に関心があるわけではないため、彼女に話しかけることもなかった。チラチラと小鳥とフリューが会話しているのを見ているのだが、その会話に混ざろうとはしない。


 ベアトリスがフリューと小鳥の会話の中に混ざって話し始めた。そこでハルエラは、視線を送るのもやめたのが、彼の視界に入っていた。その様子を見て、彼女はおそらくはベアトリスやベルシャインのような地位の高い人間が苦手なのかもしれないと思った。おそらくは、フリューが話しているところに混ざりたいと考えてはいるが、地位の高い相手に粗相をすることが怖いのかもしれない。ベルシャインもベアトリスも、多少のことでは怒るような人ではないことはわかっているが、彼女は二人のことを外から見た状態でしか知らない。だとすれば、粗相をしないように何もしないという選択肢は当然と言えるだろう。


 結局、学園内でフリューが小鳥たちと話している間は、彼女は一度も口を開かなかった。


「ハルエラ、ずっと黙ってたけど、やっぱり苦手なのかしら」


「えっ、なにが?」


 龍樹たちと別れた後、二人きりでフリューはハルエラの顔を見てそういった。何がとは聞き返しているものの、彼女が何を聞いているのかは察していた。しかし、とっさに出た言葉はそんな言葉だった。


「なにが、ではないわ。ベルシャイン王子たちのこと」


「……うん。苦手っていうより、あの人たちの粗相をして、フリューとか、家族に迷惑をかけるのが嫌なの。何もしなければ、何も言われないと思って……」


 フリューは、大商家の娘であるだけで、地位的には平民と変わらないだろう。ただ、王族と関わる回数が彼女の方が圧倒的に多いというだけだ。ハルエラは、王城の外から王様や王妃様、王子様が演説しているのを聞いているだけだ。その際には、自分たちとは違う世界の人で、彼らに逆らったり、無礼なことをすることは自身の死をイメージさせられる。直接、王族に何かされたわけではないものの、実際に処刑されているという話もある。当然、犯罪者の話だろうが、本当に悪いことをしたから処刑されているのかという証拠はない。王族であればそれも改ざんできるだろう。もちろん、それは彼女の妄想であり、彼女も八割くらいは自分が怖がっているだけだと思っている。だが、残りの二割が彼らを信用できない大きな理由になっていた。

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