しょうもないことで 8
彼はスライムに向けて魔法を放った。その魔法は、前に使った熱光線になる前の熱が集まった光の球を出現させた。しかし、そこから熱光線が出るわけではなかった。その光の球はスライムの近くまで移動した。そして、光の球の色が冷たい水色に近くなり、その途中で破裂した。その光の球は周囲に極限の冷気を放ち、あたりを凍らせる。光の球の近くにいたスライムは、その冷気に巻き込まれて氷に包まれていた。
スライムだけではなく、スライムの周囲は氷漬けになっていて、氷になっていないところにも冷気が流れて、白くなっている。スライムの中まで凍結してるのかは、彼からは確認できてないが、スライムが全く動かないところをみれば、体全部とは言わずとも、大部分が凍っているかもしれないと予想できた。
彼は土を魔気を使って、岩を作り出した。それは一つだけではなく、沢山出現していた。一つの大きさは彼の背丈くらいの直径があるものだ。それがいくつもあり、それがスライムに向かって飛んでいく。学園の地面を壊しながら、スライムとその周囲をボロボロにしていく。土ぼこりが舞い、スライムがどうなっているのかが見えないが、彼が風邪の魔法でそれを払えば、そこにはスライムだったものが転がっている。氷はくだけで、そこらに散らばり、スライムだったものだとわかるものは、うっすらと赤色が見えるからだ。スライムの体は中までしっかりと凍っていて、それを木っ端みじんに砕けているところを見ると、さすがにスライムももう修復もしないだろうと思った。しかし、氷が解ければ、また集まるかもしれない。だから、彼はスライムの破片を地面の地下深くに埋めることにした。
彼が凍らせた部分全ての地面が穴になった。上にあったものは全て土の中に落ちていく。土の中といっても、死体を埋めるような深さではスライムの氷が解けたときに再び地上に出てくるかもしれないと思い、彼はかなり深いところまで穴を広げていた。スライムと言えど、その土の中を上がって地上に出るには、かなりの時間がいるだろう。彼の氷の魔法の跡が全て、地面の中に落ちたのを確認した彼は、地面を土の魔法で埋める。その魔法の効力も一瞬で、地面は元通りになっていた。
「ふぅ……」
さすがの彼も、規模の大きな魔法に少しだけ疲労感を感じていた。それでも、並みの魔法使いであれば、彼の使った魔法を使うだけで、魔気が消失して、死んでしまうだろう。その魔法を少しの疲労感を感じるだけで済んでいること自体がおかしな話ではあった。
彼は辺りを確認して、他に本当に敵がいないかを確認してから、小鳥の方へと戻る。もし敵がいてもあのスライムを倒した戦闘を見ているだろうから、そんな彼に挑む戦闘狂はこの場所にはいなかったようで、小鳥と合流した後も彼に襲い掛かるような人が一人もいなかった。そして、ボロボロのベルシャインとベアトリスも戻ってきたことで、彼らも勝利を収めたことを知った。こうして、今回も彼らの勝利で戦闘は締めくくられた。
そんな彼らを建物の窓から眺めていた男子生徒が一人いた。彼以外にも、龍樹たちの戦闘を窓から眺めているやじうまは沢山いるが、彼はそのやじうまたちとは、彼らを見る目が違った。彼らの戦いを険しい視線で見ていて、その瞳には何かを考えているような思考が見える。それほどまでに彼らの戦いに引き込まれているような様子で、やじうまたちよりも熱心にその戦いを見ていたのだ。
戦闘が終わっても、彼は外にいる彼らを見続けていた。彼らが勝利して、スライムの被害がほとんど出なかったことを喜びたいが、彼はそれを素直に喜ぶことができなかった。そう思うのは、もしかしたら、彼が自分の道の先にいる敵かもしれないと思ったからだ。彼は不良たちがあの怪しい液体を持っているのは知っていた。しかし、まさかその怪しい薬を飲み込むとは思わなかったのだ。あのおぞましいものは二度と使われるところは見たくないと思いながらも、彼はポケットに入っているものを握る。怪しい薬ではないが、彼も怪しい道具を持っている。そして、彼自身もそれがいいものだとは思っていない。だが、目的を遂行するためには、必要なものであることは間違いないものだ。
(そのために、王宮に侵入して盗んできたんだから)
彼はようやく窓の近くから離れて、廊下を進む。廊下を歩く彼には誰も視線を向けない。まるでいないものかのように扱われているが、それは彼が望んでそういう状態を作り出しているだけだった。
龍樹やベルシャイン、ベアトリスにフリューとアレクサンダーは、学園側から呼び出しを受けた。不良集団は既に壊滅していて、もうすでにその活動はしていないようだ。中には学園を中退したものもいると聞かされた。彼らはお礼を言われたが、危険に飛び込まないようにとも注意された。何か緊急の事態が起きた時には教師たちに報告するようにとも。しかし、これだけのことが起きても職員の一人も彼らを止めることがなかったことには疑問があった。しかし、それを彼らに聞いたところでまともな返事が返ってくるとは思っていない龍樹はその疑問を胸にとどめておくことにした。




