しょうもないことで 4
相手は自身の体の傷を完全回復させる粘性の液体を飲み込んでいた。そして、その回復した体で、龍樹を殴りつけたのだが、やはり、彼にはその拳が届くことはなかった。
先ほどと違うのは、敵に対して彼が反撃できなかったことだ。相手のパンチの速度が先ほどよりも遥かに速く、その攻撃に対するカウンターを当てることができなかったのだ。だが、速度で驚かせただけで、次にはその速度に対応できるだろう。つまりは、次の攻撃も同じような攻撃をすれば、先ほどと同じように手に攻撃を撃ち込まれて戦闘ができる状態ではなくなる可能性が高いというわけだ。
「ビビってんじゃねぇぞ! こっから反撃してやるっ」
リーダーはそんなことを言っているが、策があるのようには見えない。敵のリーダーが彼から多少離れると、遠くから杖使いの魔法が飛んできているが、どうあっても彼に魔法でダメージを与えることはできていなかった。そして、魔法が彼に着弾すると同時に、敵が突っ込んでくる。仲間の魔法に当たることが怖いとは思っていないのか、単純に馬鹿なのかはわからないが、連携して攻撃してくるだけで、その威力は先ほどと変わらない。だが、彼は反撃しなかった。今までの敵の様子とは少し違うのだ。速度は明らかに速くなったが、体を無理やり動かしているというか、何かに動かされているかのような動きをしている。体が痛みを可動域を無視して動いているように見えるのだ。腕に引っ張られて、胴が動いているような移動方法や胴体の勢いを利用し勢いに乗った明らかに自分に反動が来るようなパンチも恐れるようなこともなく、打ってくる。確かに敵の口から出る言葉聞けば、その程度のことはしてきそうだと思うが、そんな人でも人間であるのだ。
そういう体の動きになったのはいつだ、と彼は考える。思い当たる節は一つしかない。あの粘性の怪しい薬を飲んだところからのはずだ。その予想ができたところで、彼にはどうしようもない。おそらく、敵の体をあの薬がむしばんでいるのだ。それを止める術を彼は知るはずもない。
「なぁ、あの薬は誰にもらったんだ? かたき討ちくらいはしてやるが?」
「何言ってんのかわかんねぇよ。俺は、お前を倒してやるだけだっ。……いや、そうか、羨ましいんだな。これだけ動けるようになったからな、そう思うのも仕方ない。まぁ、誰からもらったかなんて、いうはずねぇけどな!」
彼は敵が情報を秘匿するだろうと予想していた。敵であり、勝つ反発心も高いこの敵が素直に情報を吐くとは思えなかったのだ。それでも、もしかしたらと思い、彼は聞いたのだが、意味はなかった。そして、彼にはこの敵を助ける気もなくなった。
彼は防護の魔法をかけたまま、相手との距離を詰める。一歩が大きく、一般人と比べれば速いだろう。だが、今の敵と比べれば、ただの身体能力だけの移動など、遅く感じているのだろう。その証拠に、相手は彼の接近よりも速く動いて、彼との距離を保っていた。彼の動きに合わせて、距離を保っている。彼が主導権を握り、攻撃することができない。そして、彼が止まれば、相手は彼に近づいて、攻撃を叩きこむ。その攻撃には効果はないが、そこまで近づかれても今の敵に攻撃を当てることができないのだ。
「うぐ、ははっ。ついてこれてないな! このまま最後に勝つのは俺に決まって、るぜ……」
彼の情緒がおかしい。テンションが上がったかと思えば、一転して沈んだように話している。やはり、あの薬は身体に大きな負担をかけて、身体能力は回復能力を上げるだけのものではないのだろう。彼にそのつもりはないが、あの薬の解毒をする手段も全くない。
そして、今の今までよりもさらに相手の様子がおかしくなっていた。近くに彼もいないというのに、腕を振り回して何かに攻撃するような様子だ。敵は攻撃しているつもりはないが、体が勝手に動いているように見える。腕だけを違う誰かが動かしていて、彼はそれを認識できていない。その状態のまま、相手は彼に近づいて、振り回していた腕が、勢いのまま彼の体を殴りつける。
「……なんだ」
敵の腕が彼の体に当たると同時に、痛みはないものの、相手のパンチの衝撃を感じた。今まではそういう言ったものも感じていなかったのだというのに、衝撃を感じたのだ。それはつまり、さらに勢いをつければ、自分にもダメージが入るということになる。敵の攻撃力が自信の防護魔法を上回ろうとしているのだ。幸いだったのは、今の攻撃でそれに気が付けたことだろう。このまま長時間、戦うことができないことを理解した。防護魔法もそれ以上の防御力を持たせることはできないのだ。




