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悪とも呼べない 4

「お、やる気になったか?」


 不良のリーダは、龍樹の視線を受けて、彼がようやく戦う気になったとわかったようだ。不良たちも龍樹の活躍を知らないわけではない。ダークスターのコスタを倒したことは知らずとも、騎士見習いのアレクサンダーに勝ったことは知っているはずだ。それもアレクサンダーには認識もできない魔法で気絶させられたという話は出回っている。


 不良たちはその話を信じていなかった。彼らはそもそも、聖女と付き人だという話から信じていないのだ。龍樹が魔法を得意としているのかもしれないが、それでも数で押せば勝てると彼らは考えていた。


 彼ら五人を囲う不良たちは既に、攻撃できる範囲に五人の内の誰かを捕らえていた。男子も女子もにやついていて、自分たちの勝ちを確信しているようだった。それもそのはずで、武器を持った三十人対武器を持たない五人だ。龍樹と小鳥以外の三人の表情は険しいもので、三人はこの状況に冷や汗をかいていた。むしろ、この状況で未だに余裕そうな龍樹と小鳥を異常だと思うほどだ。


 不良たちも二人だけビビっていないのを見て、何か策があるのかと先ほどまでの勢いはなくなり、彼らに攻撃せずにいた。


「おい、何やってる! さっさと攻撃しろ! こっちには武器もあるんだ。負けるはずがないだろうがっ!」


 敵の怒声が飛び、それに鼓舞されたかのように動きの止まっていた不良生徒が動き出す。敵が皆、叫び声をあげながら五人に近づいていく。


「はぁ、たった五人にこの人数。馬鹿げてるな。いつもそうだったが……」


 昔を思い出していたが、それは懐かしむものではなかった。元の世界の記憶にあまりいいものはないのだ。ただただ、今の状況からその記憶が勝手に思い出されただけだ。


 近づく不良たちがそれぞれの武器をベルシャインか、ベアトリスに向かって振るう。しかし、そのどれもが、彼らを傷つけるには至らなかった。それどころか、確実に体に武器が触れているはずだというのに、武器はその体に弾かれたのだ。ベアトリスもベルシャインも身を守るように腕で、相手の武器から身を守ろうとしていたが、腕だけで、全ての武器をガードできるはずもなく、体にも武器が触れている。しかし、そのどれもが、二人の体を傷つけることができていない。


「……こ、これは」


 ベルシャインはその状況を見て、何が起きているのかまではわからなかったが、武器が体を通らないくらいの防御力がある何らかの魔法を使ったのはわかった。そして、そういった魔法が使える人は龍樹しか知らない。そうなれば、そうなったのが龍樹のおかげであることは理解した。状況を理解したときに、彼は腕を動かして、相手の武器を弾き飛ばす。その中で相手が持っている剣を握り、武器を奪った。そのまま、近くにいる敵の腹に剣の柄を思い切りぶつけた。


 ベルシャインが動いことで、ベアトリスも我に返る。その状況を疑問に思っている場合ではないのだ。


「風よ。ショックボムっ」


 彼女は魔法を唱えると、彼女の周りに風が吹き、それが全ての方向に向かって衝撃波を出した。その衝撃波はベアトリスを狙った敵をすべて吹き飛ばした。しかし、誰も倒すことはできていない。彼女の使った魔法は周囲にあるもの全てを吹っ飛ばす魔法だ。ベアトリスを含む五人が吹き飛ばなかったのは、龍樹が五人を守っていたからだ。


「おい、こんなの聞いてねぇって。数で囲めば勝てるって言ったじゃねえか。一瞬だってよっ!」


 ベルシャインとベアトリスに吹き飛ばされた不良生徒にとって、リーダーに聞いていた作戦と全く違うことに文句を言っていた。不良生徒全員が、武器を持った状態かつ数で囲めば勝てると思っていたのだ。しかし、それが通用しなかった。つまりは、作戦の最初の一歩目で躓いたのだ。それ以上、彼の作戦に乗るのが無理だと思ったものが逃げていく。


「あ、おい、逃げんなよっ! こっからだろ、勝てるかもしれねぇってのに!」


 不良生徒は半分以上逃げていく。ベルシャインとベアトリスは彼らを追いたいと考えていたが、この場で龍樹と小鳥を守る方が大切であることはわかりきっている。不良生徒の残りはリーダーを含め八人ほど。もはや、数で囲む作戦は全く通用しない数だ。残った不良たち七人がリーダーに視線を向け、次はどうするのかと問うていた。しかし、作戦なんて一つしか用意していなかった彼には次の作戦などない。つまりは、もはや真っ向勝負以外の行動はないと言っていいだろう。


「しかたねぇ! 俺たちが勝つぞ! 作戦なんてなしだ。好き勝手しろ! 俺たちはそうやって来ただろ! おっしゃ、俺たちが腑抜けどもとちげぇってところを見せてやろうぜ!」


 不良ではあるが、リーダーなだけあるようで、彼の言葉に鼓舞されている不良たちは、先ほどの戸惑ったような様子はなく、戦闘態勢を取っていた。

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