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悪とも呼べない 3

「オラ、来てやったぜ。お前らを痛い目に合わせてやるからな!」


 不良性が龍樹たち五人を囲うようにして出てきた。その数は三十人ほどだろうか。そして、その輪から外れている不良男子生徒が、彼らを前に腕を組んで、彼らを見ていた。その数を引き連れて、自分たちには絶対に負けはないと言わんばかりの自信があるようだ。


 ベルシャインがいち早く、龍樹の前に出て、彼を守るようにしていた。ベアトリスはベルシャインとは反対側、龍樹の背中側に立った。ファベルは有能なメイドではあるが、戦闘できる人員ではない。あくまで、人のための世話が上手いから、侍従になっているのだ。護身術程度は知っているが、彼女は強くはない。一対一であれば、不良生徒くらいには勝てるだろうが、乱戦になればファベルは戦力にならないどころか、足を引っ張るだろう。三十人ほどを相手にするとなると、彼女は戦力にはなりえないのだ。小鳥は辺りを見ているだけで、怯えている様子はなかった。しかし、龍樹の服の裾を掴んでいる。彼女は怯えているように見えないのは、元の世界で、龍樹と一緒にいれば、こういうことは何度かあったのだ。そのせいか、不良生徒に囲まれることに慣れてしまっていた。彼女の心にあるのは、恐怖ではなく、不安だ。義兄が強いことを知っていても、心配にはなるだろう。どれだけ強くとも、彼に宿る命は一つだけであり、彼が死に至る道筋は沢山あるのだ。そして、龍樹は今の状況に対して、興味がないような態度であった。小鳥が怖がっていないことを理解しているため、彼が自分から動くことはない。そういう態度を取っておきながら、彼は既に自身の魔気を放出して、あたりを自分の配下にしようとしていた。


 龍樹の態度が気に食わない不良は、腕組をやめて、不機嫌な顔になる。


「なんだって、そんな顔になるんだよ。俺たちの方が多いんだぜ? この状況でお前たちが勝つなんてことはねぇんだよ」


 不良の言葉を聞きながら、龍樹と小鳥は、彼のセリフをフラグだなと思って聞いていた。人数差で見れば、相手の方が圧倒的に多いかもしれないが、一人一人の技量はおそらく大したことはないだろうと、龍樹は考えていた。元の世界でも数で押そうとする不良グループはあった。その時は龍樹一人に対して、三十人ほどだった。この世界のように魔法は使えないが、ナイフや鉄パイプを持って挑んできたのを思い出していた。ナイフで攻撃してくる奴は武器をうまく扱えていなかったし、鉄パイプは大振りで躱すのも抑えるのも楽勝だった。格闘術を使って喧嘩してくる奴の方がいくらか強いと思ったほどだ。


そして、今も似たような状況だ。自分たちを囲む不良どもを見れば、その手には杖や剣、斧などの武器を持っていた。しかし、元の世界とは違い、それらが身近にあるということを考慮しなければならない。元の世界の不良たちよりも手強いのは間違いないだろうなと、龍樹は考えていた。ただ、それは彼が格闘術以外の戦闘手段を持っていないとすればの話。


「……君たちはなぜ、こんなことをしている? もし、私たちを倒したとして、君たちはただの犯罪者に成り下がる。そんなことをして何の得があるというんだ」


「おうじさまはやっぱり馬鹿だな。この国で犯罪者は悪いことじゃねぇんだ。町の路地に入れば、犯罪者がうろうろしてるって聞いた。俺たちもその仲間になって、やりたい放題やってやるんだ。その一歩目に、お前たちをぶっ飛ばしてやるって言ってんだ!」


「馬鹿なことを……」


 ベルシャインはできれば対話でどうにかしたいと考えていたが、言語が通じる相手ではない。会話ができているように感じるが、その根本の考えが違うのだ。この国にはいないが、他種族との交渉と考えなくてはいけないのだろう。そして、相手に分かり合う気がなければ、それは成り立たない。


「もうお喋りはいいか? そろそろ、こいつらも暴れてぇみてぇだからよ! 行くぜ、野郎どもっ!」


 彼の掛け声と同時に、三十人が同時に動き出す。それぞれが怒声や怒号を上げながら、五人を囲む輪を縮めていく。大迫力のその様相は、小鳥を委縮させた。その姿を龍樹が感じ取ってしまった。彼の服の裾を握る手に力が入ったのだ。そんな小鳥の頭を人撫でした。


「大丈夫。俺が何とかするよ。小鳥は何も心配しなくていい」


 龍樹のその言葉に、小鳥の力が多少緩んだ。それを感じて、彼女が少しは安心してくれたのだとわかり、彼は小鳥に笑顔を見せた。


「さて、小鳥を怖がらせるなら、俺の敵だな」


 彼は先ほどまでの興味のない目をやめて、目の前の一人、リーダーのような面で立っている不良男子生徒に視線をやった。

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