悪とも呼べない 2
不良二人が近づいてきて、アレクサンダーは剣を持ち上げた。片手で剣を持ち、剣先を相手に向けた。不良たちも彼が再び臨戦態勢に入ったのを見て、再び彼を挟む。彼は二人を一度だけ交互に一瞥すると、剣を両手で持った。剣を正面に構えて、剣先は斜め上を指す。不良たちには彼が何をしているのかわからなかったが、それは大きな隙だ。彼らはすぐに一歩踏み出して、体重の乗った蹴りを入れようと足を出す。
「せいっ!」
彼の気合いの入った声が聞こえると同時に、不良たち二人は吹っ飛ばされた。それも片方がいつの間にか、もう片方の敵と同じ位置にいて、同じ方向に吹っ飛ばされているのだ。不良たちにはその攻撃が理解できなかっただけで、アレクサンダーも近くでただただ見ていることしかできなくなったフリューにもわかった。フリューに関してはなぜ、今の攻撃をよけようともしなかったのかと不思議でならないほどだ。
今、アレクサンダーは剣を体の周りを一周させただけだ。ただの回転切り。だが、その速度は異常だ。さらに重い剣を片手で持つことができる人が、両手で持って勢いをつけて、回転切りをしたのだ。近くにいればその剣を見切るのは難しいだろう。リーチの外から見れば、簡単に回避できたはずだが、リーチの中にいればそれを回避することは難しいだろう。
それだけの力があっても、二人同時に攻撃したため、その威力は堕ちてしまっていた。最初にその攻撃に当たった方が、剣が当たった時点で気絶していたが、もう一人はまだ立ち上がってきた。立ち上がったのはいいが、体に蓄積されているダメージは相当なものだろう。敵が戦闘を続けさせているのはただの強がりだというのは、彼も理解していた。
「ははっ、やっと本気かよ。ふざけやがって」
威勢だけはよく、敵はアレクサンダーを睨みつける。そのまま、彼に近づいていく。その歩みはゆっくりとしたもので、彼に攻撃することはできないだろう。それでも、闘気だけは残っている。油断ならない奴だと彼は思ったが、それと同時にこんなことに命を賭ける理由がわからなかった。ここまでの根性があるなら、それこそ騎士になったり、冒険者になったりすれば活躍できるだろう。
「何のために戦っているのかは知らないが、その気合いだけは認めよう。だが、見ているものが悪かったな」
彼の言葉は敵には届かなかっただろう。彼に拳を当てようとしたときには既に、体はぼろぼろで、立っていられなくなっていた。蓄積されたダメージに気合いだけで耐えていたようで、彼は立ったまま動かなくなっていた。彼は剣を収めて、彼を放置した。敵を数秒見つめて、彼はフリューの元に歩み寄った。
フリューは自分が誰に助けられずとも、魔法が使い続けられる道具に頼れば、不良程度なら勝てると思っていた。しかし、実際に戦ってみれば、そういうわけではなかった。それどころか、魔法に頼りきりであったこの戦闘では、焦りと恐怖で魔法をイメージすることができなかったのだ。もし、アレクサンダーが来なければ、自分が死んでいただろう。
「大丈夫か。怪我をしているなら、保健室まで運ぶが」
「あ、いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です。助けてくださってありがとうございました。残りの不良たちはおそらく、王子たちのところにいると思いますので、加勢に言ってはどうでしょうか」
「……ああ、そうだな」
アレクサンダーはフリューの言葉に一瞬、迷いを見せたが、彼は頷いてフリューの元を離れていく。走っているわけではなく、彼は歩いていた。彼の中では、やはり龍樹の打ちのめされたことを未だに引きずっていた。剣の才能があると、おごっていたのだと理解させられて、それで剣から離れようと思ったが、いつの間にか剣を握って戦っていたのだ。
さらに久しぶりに守るために剣を振るって思ったのは、やはり自分は騎士としての剣術が好きで、人を守ることに憧れがあるということだった。彼は剣のグリップに触れて、軽く握った。そこには熱が残っていて、胸にはフリュー・ストルエンを守ったという興奮があった。
(俺は付き人様には敵わないかもしれないが、少しでも共に守りたいと思うのは許してもらいたい)
動きを鈍くするような、雲が体の周りにあるような感覚が薄れていく。今まで見ていたものが、少しだけ明るくなったような気がした。そして、何より、その心に剣が答えてくれているような熱が、今もその手に伝わっている。
そして、ハルエラとフリューに不良が出てきたのとほぼ同時刻。龍樹たちの前にも不良生徒がいた。彼らは校舎から出て、広い場所に出たところで、ベルシャインが違和感に気が付いたのだ。そして、気が付いた時には周りに人が一人もおらず、そこにいるのが自分たちだけだった。




