悪と正義は入り込む 4
龍樹はこれまでとは違い、かなり追い詰められていた。これまでといっても、そこまで長い時間をこの世界で過ごしているわけではないが、ここまでで彼が相手にしてきた者たちは、直接対決して倒してきたのだ。ダークスターに勝利したのも、ボスと直接対決したからだ。今回はそうではない。今はまだ、小鳥に直接何もされていないが、これから敵対する生徒全員を相手に戦い、全てに勝利することは難しいことではないだろう。だが、それではきりがない。根本を倒せなければ、永遠と敵はわいてくるだろう。それにいくら敵とは言え、全員を殺すわけにはいかない。この国が立ち行かなくなったら、彼らは路頭に迷うことは間違いない。今の自分たちの味方はこの国の王族たちだけなのだ。
小鳥も視線を感じていて、彼女も元気がなくなってきている。それを見ているのはつらいことで、すぐにでもこの状況を解決したいと思っていた。ベルシャインもベアトリスも、この状況の改善のために動いているが、不良生徒の情報がこの状況になったとたんに、入らなくなったのだ。
「失礼します、ツキムラ様。少しよろしいでしょうか」
龍樹たちの前に現れたのは、フリューだった。彼女は神妙な面持ちで、彼らを、いや、彼を見ていた。フリューの後ろには女子生徒が一緒にいた。淡い青色の髪で、瞳は髪よりも青い。目はぱっちりと明いているが、その瞳にはフリューへの心配が浮かんでいる。顔は小さく輪郭は細いが、眉が多少太く、それが彼女の顔をかわいく見せている。フリューよりも多少、背が高い。服の上からだとあまりわからないが、健康的な細い体であるが、その胸は服の上からでも豊かだとわかる程度。彼女はフリューが話している後ろで、前に手を組んでじっとしている。
「そろそろ不良どもが動き出すようです。直接、貴方たちのところに来ると思いますから、私の力を使っていただけませんか?」
彼女の力といわれても、彼はこの世界のことを知らないのだから、彼女はどれだけの力をもっているのかは知らない。しかし、そこまで言うからには、彼女にはそれなりの、人の役に立てる力があるのだと思った。恩返しをしたいとも言っていたし、ここらで協力してもらうのがいいのかもしれない。貸し借りなしであれば、彼女ももう近づいてこなくなるだろうと考えていたが、龍樹が言葉を返す前にベルシャインが、彼女の前に立ちふさがる。
「失礼。すまないね、だが、なぜ君がそんなことを知っている?」
「ストルエン家の力を使いました。情報も商品。なれば、それを集めるだけの力があるのは当然でしょう。王子だというのに、それくらいは頭を使ってほしいものです」
ベルシャインには当たりの強い彼女だが、彼女からすれば、この状況でも解決策を打ち出さない王子の方がおかしいと考えるのが当然だろう。噂通りの、聖女と付き人であるなら、余計に策を打って、彼らを守らなくてはいけないというのに、彼は二人の近くにいるだけ。そうなれば、彼に不満があっても仕方のないことなのかもしれない。それに、彼女は二人を守るために、商家の力を使っていたのだ。そのことがさらに、彼女は不満を持つ理由だろう。
彼も彼女の言うことが正論だと思い、それ以上は口を開かなかった。ベアトリスが何か言いたそうにしていたが、ファベルが軽く腕を前に出して彼女を止めた。
フリューがさらに龍樹に近づいて、彼の目の前に来た。
「私の言うことを信用しなくても構いません。しかし、不良たちがあなたたちの元に来るということは信用してほしいのです。どうか、お願いします」
彼女は腰を直角に曲げて頭を下げて、そういった。彼女と共に来た少女がさらに不安そうな顔をしている。
「ああ、わかった。あんたの言うことは信じる。さっきの話じゃ、俺たちのそこまでの被害が出てないのは、あんたのおかげってことだろ。詳しく聞かせてくれ」
彼女は頭を上げて、一瞬だけ嬉しそうな表情になったが、すぐに真剣な顔に戻る。それから、不良生徒が話していたことを教えてもらった。彼女は様々な情報をくれたが、要約すれば、不良生徒軍団が数日のうちに彼らの元に来て、喧嘩を仕掛けるというものだった。そして、それに紛れて、付き人の暗殺と聖女の誘拐を狙っているということも教えてもらった。
「私も戦うのに協力します。この学園を壊すわけにはいきませんから」
「フリュー! そこまでしなくても。それにフリューじゃ戦えない!」
フリューの後ろにいた女子生徒が彼女の肩を掴んで、彼女が戦うのを引き留めようとしていた。
「ハルエラ……。心配しなくても大丈夫です。私にはそういう力はありませんが、技術を買うことはできるのですよ。……それでも心配だというのなら、貴方も協力してはくれませんか?」
「……わかった。でも、フリューか私の命が危なくなったら、勝手に逃げるから」
「そうですね。命あっての商売ですから。命まで金にはしませんよ」
フリューはハルエラに可憐に笑いかけていた。そこで話がまとまったと思い、龍樹が声をかける。
「話はまとまったか。俺は向かってきたやつからぶっ飛ばすだけだ。小鳥に指一本も、魔法一欠片も触れさせない」




