悪ぶる奴はどこにでもいる 5
龍樹の魔法を食らって、それが彼の実力であるとは思っていないが、それだけの手加減をされたことが、彼にとっては挑発になる。それだけ、侮られているということになってしまうのだ。彼は龍樹と距離を詰めて、剣を振るう。横に構えて、それを薙ぐように振るう。剣の重みはあるようだが、それでも彼はすぐに切り返して、さらに剣で薙ぐ。龍樹はそれを回避するが、それでも剣が自分に吸い付いてくるように剣が振るわれた。
龍樹は自身の周りに水の球を生成した。三つほど生成して、それが相手に向かって、勢いよくまっすぐに飛ばした。先ほどの風の球のように簡単に切断された。しかし、それだけでは水の球は消失せずに、二つに分けられた二つの球になる。それがそこから勢いを持って、彼の腕に攻撃する。しかし、明らかに質量が足りず、相手の腕には全くダメージを与えることはできない。そのチクチクと針で刺すような攻撃が彼をイラつかせる。
だが、その剣術は全くぶれる気配はない。感情が高ぶっても、剣術は全く衰えることがないのを見れば、体に剣術がしみこむほど鍛錬を積んできたのだと理解できた。しかし、相手は剣しか使ってこない。魔法を使えるはずだが、それを使ってこないことが少し罠である可能性も考える。
単純に剣術に特化しているだけで、剣術と同時に魔法を使うのは難しい可能性も考えたが、最初から使えないと考えるよりは使えると考えて動いた方がいいだろう。
アレクサンダーは相手に剣が一度も当たらないことに、驚いていた。相手の動きに合わせて、剣を振るっているはずなのに、まるで王子を相手にしているときのように剣が当たらない。それが彼の中の怒りを多少抑えた。感情を高ぶらせたままではいつか、攻撃に隙ができていしまうことも思い出す。彼は一度、攻撃するのをやめて、剣先を地面に向けた。
両手用の剣をあれだけ振るっても、息切れ一つしていない。それはかなり異常なことだと思ったが、龍樹は彼の超能力の予想ができた。アレクサンダーの超能力は身体能力の強化だろう。これだけの力を持ちながら、息切れもせずに両手用の剣を片手で振り回す。そして、あの跳躍力もそうだ。彼もそうだし、学園内でもあれだけの跳躍をしている者は見ていない。魔法や超能力はあるが、それを引き抜いて考えた、この国の人間のスペックは、龍樹たちが元居た世界と何ら変わりないのだ。
「超能力か。そうか、そうだったな」
そして、彼の超能力の予想をしたところで、彼はこの世界に超能力があるのを思い出していた。
(超能力があるなら、多少は痛めつけても死なないな)
彼は先ほどのような遠慮がちな魔法を使うのをやめることにした。その思考が現実に現れる。その結果、彼と同じくらいの大きさの水の球が出現した。それがポコンと三つほど順番に出現した。
「……今まで手加減してたってか? ずいぶん舐めてるな」
「悪いね。へなちょこだと思ってたよ」
「ヘナチョコってのが何科は知らんが、馬鹿にしているのはわかるな。だが、もはや、怒りの力押しで勝てるとは思えないな」
龍樹の水の玉を見れば、それだけで感情は冷える。心の底で恐怖しているのが、アレクサンダー自身もわかっていた。その水の球が先ほどの小さな球と同じくらいの勢いで近づいてきて、彼はそれを叩き割った。しかし、水である以上は完全に消滅させることはできず、彼の周りに分裂した水の球がくるくると回っている。続けて、龍樹の周りにあった水の球が、彼に近づいていく。それも彼は何とか割ったが、彼の周りには水の球が回遊していた。アレクサンダーはそれが次に何をするのか予想がつかず、うかつに動くことができない。
「よし、把握できた」
龍樹からそんな呟きが出た。アレクサンダーはその言葉に、彼の危機意識が反応していた。このままでは負ける。敗北するという恐怖心が大きくなっていき、剣を握る手に力が入る。彼は剣を振るって、周りの水の球を排除しようとした。彼が叩けば叩くほど、水の球が分裂して増えていく。彼の周りに浮く水の球が細かくなって増えていく。
その間に龍樹の魔気があたりに満ちていた。それにアレクサンダーは気づいていない。自身の周りにある水の球が水の魔気を放出し続けているため、他の魔気を感じ取ることができなかった。
水の球が龍樹の意思で消失したのを、自分の力だと思ったアレクサンダーだったが、周りにある魔気が明らかに変わったのを感じていた。
「これは、なんだ」
人の魔気が一定のエリアに満ちるなんて現象はこの世界にはない。もしそれが起きているなら、その魔気の持ち主がそのエリアを制御下に置いているのと同じことだった。だから、その状況に違和感を感じても、その魔気が龍樹のものだとは気が付けるはずもない。
「ぶっ飛ばす」
アレクサンダーは龍樹のその言葉が最後に聞こえたもので、彼の体にいくつもの衝撃を受けて、気絶した。




