悪ぶる奴はどこにでもいる 3
結局、ベルシャインは二人の戦いを止めることはできずに、ことはすらすらと運んだ。
訓練棟の建物の隣にある模擬戦を行うことができるフィールドがあり、そこにアレクサンダーと龍樹がフィールドの端に立っていた。
フィールドの中には誰も入らないように、土の魔気を混ぜて、圧縮した壁が作られていた。壁とは言っても、腰より少し高い程度のもので、外から中で戦っている人たちを見ることはできる。そして、今はそのフィールドの外にはベルシャインたちと訓練棟にいた生徒数名と剣術教師と魔術教師がいた。教師も生徒も、命のやり取りにならないようにするための監視人だが、それは死人が出ないと保証するものではない。
「こ、こんなことになってしまうとは。いつか、アレクサンダーにはあってもらわなければいけなかったが、今ではなかったか……」
「後悔している場合ではありませんわ、ベルシャイン王子。もう、私たちにできるのはどちらかが命を落とさないように見張ることだけですもの。いざとなれば、私が二人と止めますから」
ベルシャインは彼女の止めるという宣言を何か策でもあるのだと思っていた。しかし、実際には彼女には策なんてものはない。そもそも、先ほどの騒動から時間はほとんど経っていないため、策を用意する時間もなければ、思いついたとしてもその策を実行するための手配をかけることもできない。それでも二人を止めるとなれば、もはや自身が二人の間に入り、最悪自分の命を犠牲にしてでもとめようと考えている。
小鳥は義兄が勝つことに揺るぎない信頼と自身があるため、あまり心配はしていない。戦闘するということで、それに伴う危険で彼が傷つくことを心配しているだけで、彼が死ぬなんてことはあり得ないと思っていた。
ファベルはこの状況で一番焦っていた。もちろん、顔や態度にはそれを出ていないが、それでも聖女様の付き人様がもし命を落としたり、大怪我をしたりすれば、ただの騒ぎでは済まなくなるだろう。そして、騎士団長の息子であるアレクサンダーにも同じことが言えるだろう。つまりは、この戦闘でどちらも大怪我させるわけにはいかないのだ。王家と騎士団の関係が悪くなると、この国は本当に立ち行かなくなるだろう。王様にそういわれているわけではないが、王宮にいる者であれば、その程度のことは理解していた。だが、もはや、自分の力でどうにかする方法は思いついていない。
フィールドの端にいたアレクサンダーは鞘に入ったままの剣を他の生徒から受け取っていた。木剣ではなく、真剣で戦うようだ。鞘に収まっていはいるが、その件は明らかに片手剣の大きさではない。両手で持って振るう剣を彼は片手で持っている。それだけの筋力があり、その筋力を持って、両手剣並みの重さの剣が体にぶつけられれば、着られなくとも大怪我するか、最悪死ぬだろう。そう思えば、多少、寒気はする。しかし、そう簡単に死ぬことができるはずもない。この世界に小鳥を残して死ぬなんてことは彼にとってはあり得ないことなのだ。
「おい、準備はいいか」
アレクサンダーが剣を受け取って、何度か素振りをした後、龍樹にそう声をかけた。彼にそう声をかけたのは、彼が武器を持っていなかったからだ。魔術師でも杖や魔気の操作をより正確にするための道具を使うのが基本だ。ましてや戦闘で、何も持たずに戦う人はいない。だが、彼は武器なんて持つことはできないし、もらってもおそらく使えないだろう。
「あんたを待ってたんだ。俺は最初から準備はできてる」
「そうか。なら、ここからはお前にとっての地獄になるな」
アレクサンダーは剣を右手に持って、左手にはいつの間にか、盾が装備されていた。四角形の縦で、大きさは彼の腕を隠す程度のものだ。
両者の準備が整ったのを剣術教師が認めて、フィールドの中心に移動した。移動した先で再び、二人に視線を送り、二人の準備が整っているのを再度確認すると、両手を挙げた。
「それでは、これより模擬戦を行う。意図的な殺人行為は禁止。魔法、超能力の使用は許可されている。どちらかの行動不能、もしくは降参の合図で試合は終了する。意図的な殺人行為や、降参宣言後の攻撃を行った場合には厳罰が下ることを、忘れることのないように」
教師がそこまで話して、二人にその言葉を確認するかために視線を向けた。アレクサンダーも龍樹もその視線の意味を理解していて、教師に頷き返した。
「それでは、勝負、始め!」
教師が開始の合図をして、すぐにフィールドの外に出た。アレクサンダーも龍樹も彼が外に完全に出るのを待っていた。




