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悪ぶる奴はどこにでもいる 2

 アレクサンダーは龍樹の前に移動すると、彼をじっと見ていた。龍樹はその目に敵意は感じていたが、それが小鳥に向けられていないなら彼が相手に攻撃することはない。それどころか、龍樹はアレクサンダーに興味がなかったのだ。だから、彼はアレクサンダーの前からよけようとした。しかし、それはアレクサンダーが許さなかった。移動しようとしている彼の前に出て、彼の進路を妨害した。


「聖女様の付き人だというからどれだけの者かと思ったが、その程度か。ダークスターを壊滅させた張本人という噂も聞いたが、やはり、噂であって他にあの組織を倒したものがいるのだろうな」


 彼は挑発するようなことを言っているが、龍樹はその挑発を受けるようなことはない。しかし、彼がその言葉を気にせずとも、ベルシャインにとってはそうではなかった。彼はアレクサンダーに視線を向ける。


「……いくら、君でも今の言葉は撤回してもらおうか。少なくとも、私よりは圧倒的に強い。騎士を志す者であるはずの君が人を馬鹿にするのは、許されざることだろう」


「王子、お言葉を返すようですが、彼は腰抜けの腑抜けですよ。聖女様の護衛は私にお任せください。絶対に、聖女様を守り通して見せますよ。少なくとも、付き人さまよりはるかにうまく、ね」


 ベルシャインはアレクサンダーとの付き合いは短くはない。騎士団長の息子ということもあって、ベルシャインとは幼い頃から知っている。友人等関係ではなく、騎士と王子という上下関係だが、それでも彼の思考を少しは理解しているつもりだった。今は彼の言っていることが理解できない。


 アレクサンダーの言葉はそこにいる五人全員の耳に届いていた。つまりは、小鳥ににも彼の言葉が届いてしまっているということだ。小鳥は遠回しな言葉は理解できないし、複雑な言葉は理解しない。人の言葉は自分に向けられたものではないと思っている節もあり、一般人に比べて人の言葉を理解していないことが多い。だが、アレクサンダーの直接的な言葉は、そんな小鳥でも理解できてしまっていた。そして、もしそういわれているのが、自分であればいくらでも我慢というか、自分には関係ないと頓着しないことができるが、義兄のことを悪く言われているとなれば話は変わる。自慢の義兄が馬鹿にされているのに黙っているなんてことはできるはずもない。


「お兄ちゃん。あいつ、ぶっ飛ばしてっ」


 彼女は龍樹の服の裾を掴み、アレクサンダーの方を指さしてそういった。彼女にしては大きな声で、龍樹が多少驚いていた。しかし、義妹のいうことに従うのは義兄の役目だと思っている彼は、すぐにその言葉を理解して、アレクサンダーの方を見た。


「悪い。あんたの何かが悪いらしいな。ちょっとぶっ飛ばされてくれ」


「……俺が悪いって?」


「……! ちょっと待て!」


 アレクサンダーの様子が変わり、俯いて何かをぶつぶつと言っている。彼の様子の変化にベルシャインが慌てて、龍樹とアレクサンダーの間に入ってきた。龍樹にはその意味がわからなかったが、相手の挑発されたことを気にしないようにはしたが、ムカついていないわけではなかった。だから、彼はベルシャインが彼をとめようとしているのも無視して、彼を挑発する。


「ああ、あんたは悪い奴だ。さっきの不良どもがあっさり退いたのもあんたが、あいつらのボスだからだろ? いい子ちゃんな騎士のふりをして裏では不良を操ってるわけだ。挙句、あいつらを利用して、小鳥に近づこうとしてるのか?」


 その挑発は、先ほどされたものと同等だと、龍樹は思っていた。だが、アレクサンダーにとってはそうではなかった。肩を震わせ、ぐっと握った拳も震える。俯いたまま、顔を上げずに、全身から怒気が放たれていた。龍樹はそれを見ても、怖くはなかった。この世界に来る前から、不良と戦った経験のせいで、戦う前の威圧を怖いと思うことがなくなった。そして、この世界に来て、本物の殺意にも触れた。となれば、相手に自分を殺す気がない敵意だけが向けられているのだとすれば、怖いわけがない。


「さ、早くやろうぜ」


 龍樹のその言葉に一番焦っていたのは、ベルシャインだった。アレクサンダーは、もはや彼を叩き潰してやろうと考えていて、彼と戦わないという選択肢はなかった。


「だから、ちょっと待て! 君たち二人が戦う必要はないだろう」


 ベルシャインの言葉は、アレクサンダーには届いていないし、龍樹は彼の言葉より小鳥の言葉が優先している。もはや、ベルシャインでなくとも誰もその戦いをとめることはできないということは、ベルシャイン以外の全員が理解していた。

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