どこにでもそれはあって 2
龍樹に助けられた女子生徒は本当に彼に迷惑をかけたことに対して罰などがないのかと考えていた。しかし、彼はあれ以降一度も自分のところに来ていない。彼女はそれについて気になって、彼とすれ違うタイミングで廊下を何度か歩いていたが、見向きもされなかった。視線が一瞬、自分に向いているのだが、明らかに知らない人の対応だ。全く見られないというのなら、自分が意識の中にいて、避けられていると考えられたかもしれないが、そうでもないなら、本当に相手も自分を助けたことを気にしていないのだと、理解することにした。納得はできないが、それでも自分から関わりたい相手ではないのだ。
「ハルエラ、大丈夫?」
彼女は学園から自分の家に帰ってきた。夕食時にも今日の出来事について考えてしまっていた。母が彼女の顔色を見て、心配して声をかけてきていた。彼女は大丈夫と答えようとしたのだが、一人で抱えきれないと思い直して、今日の出来事を両親に話した。
相手が王族関係者でなければ、そんなことを気にする必要ないよというような両親だが、王族関係者であれば能天気なことは言えない。この国の王様は物腰の柔らかい市民のことを考えている人だというのはわかっているが、他の国から来たような二人であるという情報のせいで、そう楽観的に考えることはできなかった。他の場所から来た偉い人であれば、その場所との関係が悪くなる可能性すらあるのだ。
「ハルエラ、何か呼び出されたら必ず、私たちを呼びなさい。絶対にあなたを一人にはしないからね」
「俺もハルエラの味方だ。ハルエラ一人に背負わせたりしない。絶対だ」
ハルエラの手を握り、二人が真剣な瞳でそう言ってくれた。彼女はそのおかげで、多少は気が楽になった。そうなれば、何もない可能性も思い描くことができて、顔色も少しだけましになった。
翌日、彼女は学園に行く。両親は休んだ方がいいと言っていたのだが、本来の彼女は元気な女子で、学園に行くのも多くの知らないことを知るために通っているのだ。一日休めば、その分知ることのできることが知ることができなくなるということだ。両親の言葉もあり、彼女は学園に行くことができる程度の元気は出ていたそれに一晩眠れば、気にしすぎていたのかもしれないと思った。
学園に登校すると、特に周りの様子は変わらなかった。
「ハルエラ」
学園に登校して自分のクラスに入ろうとしたところで、女子生徒が声をかけてきた。
「あ、フリュー。おはよう」
「うん。おはよう。ちょっと元気ない?」
「大丈夫だよ。少し眠たいだけだから」
「そう? 何か悩んでるなら、話、訊く。いつも助けてもらってるから」
彼女はおっとりとゆっくりとした速度で話しているが、眠たそうな瞳には真剣な色が映っていた。その瞳を見て、彼女は周りに聞こえないくらいの小さい声で彼女に事情をかいつまんで話した。
「それは、大変だね。でも、それで何かあったら、私は絶対にハルエラの味方だから。商家の力を使うことも辞さない」
「あはは、それは心強い」
二人は視線を合わせて笑いあっていた。しかし、彼女の言葉は冗談ではなかった。
「……その、そんなに気になるなら、私の両親の力を使って、王家に訊いてみることくらいはできるよ」
「いや、大丈夫だよ。そこまでしなくても。でも、ありがとう」
ハルエラは本当に心強い友達がいることを再認識して、元気が出てきた。
その日の授業には、中級の魔法実技があった。今日は少し元気のないハルエラに付き合って、フリューも参加していた。当然、聖女様と付き人様と噂されている二人が授業に出ていて、昨日と同じように的に魔法を当てていた。
「なんか、こっちのことなんも気にしてない見たい。この様子を見れば、大丈夫っぽいね」
「う、うん。また迷惑かけないようにしないと」
もう一度助けてもらえるとは思えないが、それでも危険な目に合わせないようにすることに意識を置くことは悪いことではないだろう。彼女は真面目に魔法の練習を始めた。その隣で、フリューは彼女の魔法を見続けていた。しかし、彼女が魔法の練習をしていると、隣の的で、魔法の練習をしていた生徒が魔法を暴発させた。すでに魔法は発動していて、その魔法がフリューに向かって飛んでいていく。その瞬間が、ハルエラにはとてもゆっくりに見えていた。しかし、体もその遅い時間の流れと同じ進み方をしていて、自分は既に行動を起こしているはずなのに、体は全く動かない。魔法を暴発させた生徒も、手を伸ばして魔法を止めようとしているが、その行為に意味はないことを誰もが知っていた。フリューはそれに気が付いていて、顔を背けて、身を守るように体を丸めようとしている。
三人がもう駄目だと思っていたのだが、暴発した魔法はいつの間にか消えていた。




