魔法の実技 2
周りにいる他の生徒に、自分の義兄が馬鹿にされていることが気に食わなくて、小鳥は軽く頬を膨らませていた。その顔のまま、彼の方に振り返った。
「お兄ちゃん。もっとすごいの見せて!」
小鳥に頼まれたことは無理をしててでも叶えたいと思っている龍樹が、そんなお願いを叶えないわけにはいかない。さらに、彼女が自分のために怒っているということが嬉しくて、彼は少し張り切っていた。そして、小鳥が胸を張って、自分を誇ってくれるようなことをしたいと考えていた。
彼は再び、掌を的に向けた。
「小鳥、俺の後ろにいてくれ。魔法で派手といえば、あれしかない。詠唱はしないけど、許してくれ」
小鳥は義兄が何をしようとしているのか、おおかた理解できていた。それこそ、物語に傾倒しつづけた二人だからこそ、共通の認識があるのだ。
彼の掌の前に小さなオレンジ色の球体が一つだけ出現した。それが視界に入っていた生徒は、その球体で何ができるのかと内心馬鹿にしていた。その球体が的に加速しながら近づいていく。的に着弾すると同時にあたりの魔気を取り込むように吸い込んでいく。人を引っ張るような力なないが、風が巻き起こるほどには強い力があった。そこにいる生徒全員が彼の魔法に注目させられていた。そして、吸収を終えたのか、その吸引がやむと、全ての音が消える一瞬の静寂。そして、的が大爆発した。昼の日よりも強い光が、あたりに放出される。衝撃波と熱があたりを駆け回る。生徒から悲鳴が上がり、パニック寸前だ。しかし、その爆発も終わり、後に残るのは誰一人として思考できていない静寂だけ。
「これでどうだ、小鳥」
「お兄ちゃん! サイッコー! すごいすごいっ! この迫力を生で体感できるなんて、すごい!」
はしゃいでいるのは小鳥だけで他の者はその威力に思考が未だに追いつかない。ベアトリスやベルシャイン、ファベルまでもが何が起こったのか理解するのに苦労しているようだ。理解が追いつかない者たちを置いて、龍樹は飛び跳ねる小鳥の頭に手を置いていた。
派手さと迫力といえば、で考えた結果、彼は爆発する魔法を選んだのだ。他にも周囲を一瞬で凍らせるとか、周囲に暴風を起こすとか、広範囲なものは思いついたが、それでは小鳥や他の者にも余計な被害を与える可能性が高かった。だから、すぐに思いついた中ではその魔法が適切だと思ったのだ。威力の調整も本来なら難しいものだが、彼にはそういったものはない。イメージすればそれが魔法となるのだから、威力も想像通りにできるというわけだ。被害は出ない程度の威力ではあったが、衝撃と拍量はかなりのものだっただろうとも考えていた。
それ以降、彼の魔法を馬鹿にしようと思う者はいなかったようだ。仮にそう考えていても、それを口に出すことはしない。彼の近くにいる少女が、気に食わないと思えば、自分たちを魔法で殺すことなど簡単なことだと、あの魔法一つで理解できた。そして、周囲の生徒たちは、龍樹は魔法のコントロールが完璧だと思っていた。それもそのはずで、強い魔法を使えるようになれば、弱い魔法を安定して使うのは難しくなる。正確には、魔気の量を調整するのが難しくなるのだ。強い魔法を使うと、少ない魔気の調整というのが難しくなる。だが、皆の目にはそれを簡単にやっているように見えたのだ。爆発させるという魔法を使えるというのに、的を破壊しないアクアボールを使用した。それは他の魔法を使う者からすれば、異常な話であった。彼に逆らうどころか、関わり合いになりたくないというのが素直な感想だった。
そんな彼の実力が披露された講義は終わった。龍樹の勝手に使用した強力な魔法はおとがめなし。彼らはセレナルを除いた教師からも腫物を扱うようにされていた。怒らせてしまえば、誰も手を付けられない。特に彼の守る少女の機嫌を損ねるな。すでに二人のことを知っている一部の教師は他の教師にそんなことを言っているものもいた。
そうして、学園の一日目は終わった。二人にとっては変わったことは特になく、セレナルに教わっていた時の方が楽しかったというくらいだろうか。それでも、セレナルの得意分野以外の知識を知ることができるのはいいことだとは考えていた。ただ、魔法の初歩の授業は必要ないことはわかった。
それから、彼らは実技の中では、他の生徒にその実力を知らしめるような行動を繰り返す。二人にはそんな気持ちは一つもなく、小鳥は義兄が馬鹿にされるのが嫌だから、龍樹は小鳥がお願いするから、という理由で魔法を使っていた。ベルシャインはそれを止める気はなく、既に父に注意されていたことも忘れて、彼の実力が他の人に知られていくということに快感を感じていた。ベアトリスはそもそも、二人を馬鹿にするような視線が気に食わなかったから、そういうことになるのは彼女の望んだ結果になっていた。ファベル一人では既に二人を止めることはできない。
龍樹と小鳥は、学園で悪目立ちしてしまっていた。




