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ベルシャインの強引な婚約者 1

 ベルシャインが出て行ってから、扉の前で問答している声が、丸聞こえの中、朝食が運ばれてくることもなかった。おそらく扉の前で、問答しているせいで、朝食を運べないのだろう。そして、ベルシャインと会話して騒いでいる相手は彼と同等は少し下の人物なのだろう。つまりは、メイドではどいてくださいとは言えない相手というわけだ。それを理解したのか、ファベルが扉を少し開けて、外の様子を覗き見た。しかし、それは悪手だったのだろう。


「あら、ファベルさん! あなたもここにいたのね! 私の声が聞こえたところで来てくれてもよろしいのではなくて? なんて、仕事中じゃ無理ですわよね!」


 なんとも勢いよく話す人であるようで、その言葉は中々途切れることを知らない。ファベルが扉の外に出ると、彼女の声が聞こえなくなったが、まだその相手の声が扉越しで聞こえてくる。


「え! 国王様もこの部屋にいるんですの? お会いしたいとは思いますけど、さすがにそれは駄目ですわよね。忙しそうですし……。でも、またお会いできると気をお待ちしておりますと伝えてくださいませ!」


 もはや、彼女の言葉は王様にも伝わっている。扉越しではあるが、彼女のうるさく甲高い声で、王様の耳にもしっかりと入っていることだろう。その証拠に王様は困った顔をしながら、それでも少し嬉しそうだ。だが、それよりも今。大変なのはうるさい彼女が帰ってくれないことだ。


 王様はその女性にあったことがあった。女性というか、と指摘には女子というべきだろうか。王様が知っているのも当然で、彼女は――。


「聖女様がいるんですのっ!?」


 ひと際大声をあげて、その人物は誰も制止できず扉を開け放った。


 今まで騒いでいた人物が小鳥と龍樹の視界にも映った。視界に入ってきたときの印象は悪役令嬢だろうか。紫色の長い髪の先が軽くロールしていて、その束が八本ほどある。瞳は紫色で大きいが、多少釣り目のようだ。鼻はあまり高くはないが小さく、口も小さい。輪郭も丸くはあるが、それでも龍樹のいた世界のモデルのように小さい。しかし、そのスタイルはスレンダー。髪の色よりも少し青を淹れたドレスを着ていて、装飾品はあまりついていない。ドレスにはひし形の偏を内側に曲げたような模様が腹部を一周するように入っている。ドレスの裾はひざ下あたりで、彼女が履いている靴は紫色の高いヒールのついたものだ。龍樹や小鳥は特に気にしていないが、ヒールを脱げば、小鳥よりも背が低いだろう。彼女は黒い手袋を履いたその手を持ち上げて、小鳥を指さした。


「あなたが聖女様ですか?」


 小鳥はさっと頷くことはできず、体を縮めた。すぐに龍樹が彼女を背に庇うようにして腕を広げた。元の世界でもうるさい奴は基本的に無神経かつ自分勝手なやつがほとんどだった。目の前の紫色の彼女と関わりがない以上、彼の中に意識に今の状況を合わせて考えるしかなかった。


「あら、なるほど。今回は付き人が恋人でしたか。それなら心配はいりませんわね」


「恋人……? 何を言ってるんだ。俺たちは義兄妹きょうだいだぞ」


「……え? そうなのですか。なら、宣戦布告ですわ!」


 彼女は腰の手を当てて、もう片方の手で小鳥の方を指さした。びしっというような音が出そうなほど綺麗に真っすぐに伸ばされた手は彼女の自信の表れだろうか。


「ベルシャイン王子は、渡しませんわ! このベアトリス・ゴールドローズが、ベルシャイン王子の婚約者なのですから!」


 彼女の眉は八の字の弱になっているように見えた。なんとも決まったというようなどうだと言わんばかりの表情をしている。龍樹たちの世界の言葉でいえば、ドヤるというものだろうか。しかし、誰も彼女の言うことに反応せず、その場はしんと静まっていた。さすがの彼女もその状況に気が付いたようだった。


「え、え? わたくし、また、間違えてしまいましたか?」


 先ほどのまでのドヤ顔は崩れて、情けなくそんな声を出していた。龍樹はその時点で、彼女は悪い奴ではないのだと思った。小鳥をライバル視している理由はすぐにわかったし、それが間違いだと理解できれば、すぐに肩のつく話だろう。それにこの世界にはファベル以外の女性の知り合いがいない。ファベルではどうしても友達にはなれないし、ベアトリスであれば小鳥の友達にでもなれるかもしれない。ベアトリスであれば、小鳥も守ってくれそうだとも思った。


「とりあえず、落ち着いて、こちらに座りなさい。ベルシャインもこちらに来なさい」


 二人はテーブルに着かされた。ベルシャインはあそこまで格好つけて、また戻ってしまったことに気まずさと申し訳なさを感じているし、ベアトリスは自身の失敗に落ち込んでしまっている。王様はそんな二人を見て、この国の未来を案じてしまう。そんな三人は放置して、龍樹がファベルに何かを食べるジェスチャーをした。その後に自身の腹を示す。ファベルがそれだけでわかったようで、彼女は朝食をのせた台を他のメイドから引き継いで、机に朝食を並べていく。小鳥は空腹に勝てずに、朝食に手を付けた。

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