始まりの末 3
コスタを倒した功労者は今、王宮にいた。彼の隣には小鳥がいて、彼の腕にがしっと掴まっている。彼が王宮に戻ってきたときにはベルシャインを小鳥と一緒に待っていたファベルに任せて、小鳥は龍樹に飛びついていた。そして、その日はそのままずっと彼に引っ付いたまま生活していた。離れていたのは、トイレと風呂の時くらいだろうか。食事の時も彼に食べさせてほしいと言いながらずっと甘えていた。
龍樹はそれに嫌な顔もしなかったし、そもそも嫌だとは思っていなかったのだ。いくら自分が強くても、心配するなといっても、心配してしまうのだから仕方ない。彼はそれだけ彼女に家族として、兄妹として愛されていることをわかっているのだ。それにほとんどずっと一緒に近くで生活していたのだから、少し離れるだけでも不安になるのだろう。この世界には知らないことばかりなのだから、余計にその不安があるのだろう。
そして、ベルシャインを救出した日は、王様に深々とお礼を言われただけで終わった。王様はその後に、ゆっくりと休むように言い渡して、その日は分かれた。彼も息子が行方不明になっていたことでどれだけ不安だったのか、その謝りようを見れば、すぐにわかった。王様という立場で、一般の家庭と同じようには育てられないが、それでも彼に愛情を注いでいるというのはすぐに理解できた。
(それでも、俺には親は必要なかったけどな。あんな親は……)
この世界に来て初めて親を思い出していたが、彼は寂しい気持ちも会いたい気持ちも全く湧きあがらなかった。放任主義で金だけ出せばいいと思っているような親だ。彼には恨みこそあれど、感謝などない。金だって、最低限ですらなく、子供のお小遣いのような額だ。その程度では学費も払えない。結局は龍樹が稼ぐしかなかった。それでも折れず、やってこれたのは小鳥のおかげだ。彼女の笑顔や話し声、嬉しそうな顔を見ればどれだけだって頑張れるそう思ってずっとやってきたし、これからもそうするつもりだった。同じ血を持っているわけではないが、彼女が一番の愛している家族。彼にとっては彼女以上に優先するものなどない。それを再認識して、彼は隣を歩く小鳥の頭を撫でた。小鳥は彼に不思議そうな視線を送ったが、頭を撫でられて嬉しくなって、笑顔になった。それにつられて、彼も笑う。
翌日、朝食には王様だけではなく、ベルシャインもいた。今の彼は見るたびに来ていた格式高そうな服ではなく、町で見た人たちが来ている服を着ていた。龍樹がベルシャインを認識してすぐに小鳥を自身の背に庇うようにした。
「何の用だ。王様、約束が違うんじゃないか?」
「すまない。私が無理やりここに来たのだ。もちろん、父上は何も知らない。だが、どうしても君にお礼だけは言いたかったんだ。……昨日は僕を救ってくれてありがとう」
彼はそういうと、腰を直角よりもさらに深く曲げて、深々と頭を下げた。土下座でないところが、余計に誠意があるように見える。彼は頭を下げたまま、続ける。
「こんなことで、全部生産するつもりはない。僕はずっと、君たちの味方でいたいと思う。たとえ、顔を見れずとも、君たちのために行動すると誓うよ」
龍樹はその言葉に誠意は感じたが、彼の全てを信じることはできなかった。一度でも小鳥を傷つけたり、不安がらせたのだ。無意識的にでも、また彼女を傷つける可能性があるのだから、彼の言葉の全てを信じることはできない。
(それでも、許さなくても)
「わかった。いつか、頼るかもしれないからな。それまで覚えているといいけどな」
「僕は忘れたりしない。龍樹と小鳥の味方であると……。いや、言葉だけでは無理か。これからの僕を見ていてほしい」
「お兄ちゃん。私は大丈夫だよ」
小鳥が気を遣ってそう言っていることはわかった。彼女はそういうことを言うのは珍しい。気を遣うこと自体は珍しくなくとも、こういう気の回し方はしない方だ。
「……そうか、わかった。ベルシャイン、少しは信じてやるから、顔を上げてくれ」
龍樹がそういっても、彼はしばらく顔を上げなかった。龍樹がため息をついて、席に座るとようやく彼も顔を上げた。そして、龍樹と小鳥の方を向いて一礼して、扉に近づいて行った。すると、彼が出ようとするタイミングで、扉がノックされた。
「急いでくださいまし! 王子が、ベルシャイン王子が怪我をしたのでしょう?」
扉の外からそんな声が聞こえてきた。ベルシャインはその声を聴いて、扉の外にでた。彼にしては珍しく焦ったように見えた。王様も額に手を当てて、困ったというような顔をしていた。
「落ち着いてください。ほら、私は元気ですから」
「ええっ! でも、大変な怪我をしたと聞きました! そんなすぐに治るものなんですの?」
なんとも扉の外でも声の大きい女性だ。甲高い声が、龍樹たちがいる部屋にも響き渡っている。




