力任せな悪 4
コスタの体にくっついている薄灰色の煙が龍樹の魔法を分解するも、再び魔法を発動すれば、同じ魔法を使うことができた。彼はそれを理解したときに、やはり、その魔術師対策のアイテムに意味を感じられなくなっていた。
彼の使う魔法は、詠唱も必要なければ、どの魔気を使うかの選定も必要ない。頭の中でイメージだけすれば、魔気が勝手に動き出して彼の想像する魔法を現実にする。それでも魔気の性質にないことはできないが、他の魔術師からすれば、魔気の選定も詠唱も必要ないだけで、魔術師としては一歩だけではなく、かなり先に進めるだろう。さらに、この世界の住人は龍樹たちが元居た世界と比べて、想像力が乏しい。それもそのはずで、彼らのいた世界ほど発達した世界ではないため、想像の元となる情報自体が少ないのだ。だから、魔法をイメージするにしても他人が使っている魔法を真似て魔法を使うものがほとんどだ。魔法を開発すればそれだけで偉大な人物といわれるほど。
だからこそ、煙をよけてピンポイントで対象に攻撃する魔法なんてものはこの世界にはないのだ。ピンポイントで攻撃する魔法はあっても、直線的だったり、放物線を描いたりと結局は発動してからその挙動を見て回避できるようなものばかり。力で押すような広範囲に攻撃する魔法は煙が分解できる。そして、魔法の再発動には再び、魔気の選定と詠唱、魔法のイメージを作り出さなくてはいけない。その情報があれば、彼もその煙を出すアイテムが強いものだと理解できただろう。だが、祖の情報すら持っていない彼にとっては、意味のない道具であった。
「はぁ、どんな道具かと思ったら、その程度で調子に乗ってんのかよ。見た目通り、頭が悪いんだな。かわいそうに」
龍樹はその言葉と同時に掌に小さな光の玉を出現させた。かなり薄い赤が混じった白い光の球。コスタはその小ささを見て、龍樹の悪あがきだと判断した。そのせいで、彼は前に出てしまった。
「犯罪者たちのボスだっていうから、強いのかと思ったけど、馬鹿で迂闊で弱かったな」
その言葉と同時に、光の球から熱光線が発射される。熱光線は周りの魔気を切り裂き、空を切る甲高い音を発していた。しかし、音より先にコスタの体に穴が開いていた。コスタも音の後に自身の体の異常を視界に移す。それから、ようやく自身の体に穴が開いているのを見た。龍樹はあえて、心臓を外していた。それも煙をまとっていたはずの腹に穴が開いているのだ。
「……は、どうなってる? 煙は……?」
体から急に力が抜けたのか、コスタは地面に膝をついて、座り込む。穴の開いた腹からは出血している。一人残っていたコスタの仲間も現状を理解していない。
龍樹は無言のまま、再び熱光線の準備をした。光の球が出てきたところで、彼はそれを煙を出すアイテムにぶつけた。薄灰色の煙をぶち抜いて、黒い球体に魔法が直撃する。速さと込められている魔気の密度によって、煙の分解できる速度を超えて、進むその魔法は煙では止められない。分解される前に煙を出している原因を壊せばそれで終わりだ。
コスタは既に意気消沈していて、アイテムが壊されたところを見ていた、コスタの仲間は唖然としていた。
龍樹がコスタに近づいた。すでに煙が無意味であることを体で理解した彼は、目の前に来た龍樹に恐怖した表情を向けた。謝る言葉も出てこず、口から薄く息が図れるだけだ。龍樹は相手の前にしゃがんで、下から睨むように視線を合わせた。
「なぁ、俺は人を探してんだけど、知らねぇか? 知らねぇ分けねぇけど。緑の髪の男なんだけどよ。最近、拉致ったろ?」
コスタはすぐにその人物に思い当たる。仲間が裏切り者だといってきた不届き者だ。制裁といって、殺さない程度に殴り痛めつけた。今もアジトの中に捕らえてある男だ。まさか、あの弱そうな男に手を出したせいで、こんなことになるとは、コスタは全く予想もしていなかった。
「……し、知ってる。知ってる。すぐに、連れてこさせる。だから、俺を助けろ、死にたく、ねェ」
コスタは今にも泣きだしそう顔で彼に懇願する。もはや、最初に威勢のよさなどかけらもない。
「あんたが死ぬかどうかは知らね。誰かに助けてもらえよ、なぁ。悪人ならそれくらいのことできんだろ? それにな、あんたの提案は交渉になってねえって。あんたが強情に連れてこないってんなら、アジトごとぶっ壊すだけなんだからな」
「わ、わかった。案内する。あんたの奴隷にもなる。なぁ、何でもするぜ。だから、何とか助けてくれねぇか」
龍樹は目の前の生を懇願する生物を、哀れに思った。助ける価値すらない。小鳥を殺そうとして、他の者に暴力を振るい、人の稼いだ金を奪う。悪党にかける情けを彼は持ち合わせていないのだ。




