力任せな悪 3
挑発されているのを理解しながら、それでもここまで馬鹿にされ続けていればコスタでなくとも我慢ができるはずもなく、コスタは彼に向かって一瞬で移動した。地面を蹴るのと同時に移動しているかのような速度で、龍樹の目の前に来た。相手の爪が彼の腹に向かって伸びてきているが、彼の肌どころか、彼の服を傷つけることすらできない。さらにコスタはそれでは諦めず、その場で連撃をかなりの速度で繰り出していた。しかし、それでも龍樹の防御を貫通することはできなかった。
「くそ、何だってんだ。これだけの魔法を使えて誰も知らないなんてことはアリエスはずがねぇだろ……」
相手の呟きが彼の耳にも入っているが、わざわざ自身の正体を明かす必要はないと判断した。
「ははは、だがな、あんたが魔術師だとわかればそれなりに対処はできるんだ。魔法を使ってくる魔獣だっているだろ? それの対策にこんなもんを作ってみたんだ」
そういいながら、コスタは腰につけていた袋から黒い球体を取り出した。そのサイズは掌より二回りほど小さいくらい。龍樹にはそれが何かわからないが、魔法対策のアイテムだということは相手自身が言っていたのだ。つまりは、彼のこの世界での唯一のアドバンテージである自在に魔法を操ることができるという超能力が封じられるということであった。彼はそれがどれほどのものなのかがわからず、危機感がなかった。
コスタはそれを放り投げるとその球体から薄灰色の煙を出していた。それらはその場に留まるようにして広がっていく。彼は未だに危機感を感じないまま、その煙が攻撃なのかもしれないと思いながら、魔法で防御しようとした。煙であるならば、ただの土の壁は隙間があれば、そこから漏れてくるかもしれないと思い、彼は水の中に閉じ込めることにした。
煙の周りには水が集まっていき、その水が煙を取り囲むようにしてその範囲を狭めていく。その間もコスタはにやにやと笑っていて、そのアイテムの効果を信じているようだ。それほどの威力があるものなのかと、思考して自身の危機を感じていた。魔法という要素に慣れていない彼の心や思考、体は魔法を封じるということがどういうことなのか、その根本を理解していない。セレナルに教えてもらったことではあるが、それを知識としてわかっているだけで、魔法の元である魔気がどれほど重要なのか、彼は根本的には理解していない。あくまでそれは知識だった。
彼の出した水の魔法は薄灰色の煙に触れると同時に、粒子になって灰色の煙に取り込まれていった。それは魔法が魔気に分解されて魔法を無効化されているということであり、彼はそこまで理解せずとも、魔法の対策というものの意味を理解した。ただ、煙をよけて魔法を使うことは可能であることを考えるとそこまでの魔術師対策とは思えなかった。
「ほら、魔法が使えないんだぜ? もっとビビれよ」
「いや、兄さん。ビビッて声も出ねェんだよ。ほら、ちっとも動かねェ」
龍樹は二人の言葉を少しも理解できなかった。その煙がどれだけ強いのかは未だにわからないが、いくらその範囲を広げ続けるとは言っても、広がり続けるとは思えない。つまりはその煙の範囲を理解していれば、魔法を相手に当てるのは難しいことではないはずだった。彼は二人がその道具で逆転できると確信していたため、その道具について警戒させられた。
煙は広がり続けたまま、コスタが彼に突っ込んでくる。相手は灰色の煙を突き抜けて、彼に近づく。多少煙を巻き込んで、突撃してくるということは、防御の魔法をその煙で消すつもりだととっさに判断して、彼は相手の攻撃範囲から逃れる。自身のいた地面から土の柱を伸ばして、相手が巻き込んでいた煙が本当に防御の魔法を消すことができるのか確かめる。相手に土の柱がぶつかる前に、煙が魔法を無効化した。灰色の煙はその場に留まる性質があるようで、彼が巻き込んだ煙は彼の腕や腹の辺りにまとわりついたままだ。つまりはその位置に関しては魔法攻撃が通らないということになる。
(それでも、全身にまとっているわけでもないのに、なぜ勝ち誇れる? 何か策でもあるのか)
彼は相手の自信の出どころがわからず、さらに警戒を深める、不用意に攻撃して、相手の考えている策が発動するのを嫌がって彼はすぐには攻撃できない。それをコスタは煙を見て恐れていると捉えていた。だから、彼はさらに龍樹に肉薄して攻める。
相手の腕に纏わり着いた灰色の煙が、彼の攻撃と共に自分に近づいてくるのを、彼は見ていた。しかし、煙が魔法を分解したとて、すぐに自ら同じ魔法を使えば、すぐにその防御も再生できることも分かった。つまりは、結局は彼にとってはそこまでの脅威だとは思えなかったのだ。




