始まり 4
翌朝。龍樹は王宮前で立っていた。日差しを正面から受けて、彼の前面が照らされている。彼は高校の制服を着ていて、鎧などの防具もない。剣などの武器も持っていない。そもそも、持っていてもうまく扱える自身はない。剣道をかじったことはあるが、本当に少ししかやったことがないので、真剣を扱ったこともない。そのため、彼は元居た世界の物しか持っていない。
「お兄ちゃん。気を付けてね。ちゃんと元気で帰ってきてね」
小鳥は何もわからない子供ではない。もしかしたら、義兄が死んでしまう可能性がゼロではないどころか、その可能性が高い場所に行くのだ。義兄が強く、元居た世界でも何度も守ってくれたことを覚えてはいるが、それでも何度も義兄を心配した。今回もそうだ。そして、毎回、義兄は笑って出かけるのだ。
「大丈夫だ。無事に帰ってくるさ。じゃあ、行ってくるよ」
小鳥の頭を軽く撫でて、彼は王宮を出て行った。小鳥はその背中をじっと見つめて、彼を送りだした。
王様から聞いた情報は全て、ベルシャインの部屋にあった情報らしい。龍樹はその情報通りに冒険者のギルドに向かうことにした。簡素な作りの部屋にあった地図の一部ではあるが、それを記憶しているため、ギルドへの道はある程度はわかる。
異世界らしく、町並みはグレーのような色でできている。店や施設である建物は看板や屋根の色は様々な色が映える。露店を出しているところをあり、基本は食材が売られているようだ。その中にはアクセサリーだと思われるものが売っている店もあった。町を行く彼にはいくつもの視線が向いていた。敵意のある者はなく、彼がこの世界では異質な恰好をしているからだろう。彼は特にそれを気にすることなく、ギルドへと続くはずの道を歩いていく。
彼がギルドへまでの道を歩きながらも、町並みが目に入る。犯罪者が沢山いるようなことを言っていた割には、人々は苦労しているような様子はない。道行く人も笑顔というか、明るい雰囲気を持っていることが多く、犯罪者の巣窟になっているようには見えなかった。判事医者といっても、まだ明るいうちから活動してないということだろうか。
町並みを見ながら、進んでいるとギルドに着いた。周りと同じように灰色のレンガのような素材で作られた建物で、黄色を基調にした看板には青い文字で冒険者ギルドと書かれていた。看板の下には木製の扉がついていて、彼は看板を見上げてからギルドの扉を開いた。
中は賑やかで、扉を開けた正面にはカウンターがあり、そこでは冒険者とギルド職員とでやり取りがしているのが見えた。カウンターの隣からは掲示板が壁に沿ってついていて、そこには何十枚もの紙が貼られていた。おそらくそれが受けられる依頼になっているのだろう。彼が元居た世界の物語では定番の場所でもある。それ以外の場所にはテーブルが置かれていて、そこでは冒険者たちが談笑したり情報を交換したり、作戦会議をしていた。
彼は扉の前から適当に移動して、誰も使っていなかったテーブルに座る。そこから適当にあたりを見回して冒険者たちを見ていた。彼らの中には疲れた表情の者もいるが、それは冒険者という職業ゆえの者であり、生活や環境自体に異常なストレスがあるという風ではない。
冒険者ギルドには人が入れ替わり立ち代わり出入りしていたのだが、筋骨隆々の男たちが入ってきたところで、ギルド内が静まった。ほぼ全ての冒険者の視線がその男たちに向いていただろう。そして、入ってきた男たちに一礼して、冒険者たちはまたそれぞれの会話や活動に戻っていく。ギルドマスターとかそういう立ち位置に人たちなのかもしれないと思って、彼らをチラチラと見ながら観察しようと考えていると、男たちは真っ直ぐに彼の前にゆっくりと移動してきた。
「よぉ、みねぇ顔だな」
「そうか? 俺はあんたの顔、見たことあるぜ?」
挑発するように、相手の言葉に答えた。睨むというわけではなく、馬鹿にしている視線を相手に送ってみた。彼が相手の顔を見たことあるというのは、嘘ではない。ベルシャインが持っていた書類に、今目の前にいる男の顔が描かれていたのだ。そして、それはつまり、目の前の男がダークスターのコスタであることは最初からわかっていたのだ。
「コスタ兄さんを見たことない奴なんて、このギルド内にはいないっスよ? お前、馬鹿にしてんのか?」
「ははは、そんな安く喧嘩売ってんのかよ。笑えるなァ。手下がすぐキレるってことは、コスタ兄さんもキレ芸が得意なのか? ははは」
彼は敵対心を露わにして、相手を馬鹿にするように、挑発するように答えた。




