始まり 3
ベルシャインが王宮から出て、町へ向かおうとしているとき、王宮にいた龍樹と小鳥は、セレナルの授業を受けていた。しかし、龍樹は彼の授業に身が入らず、どうしても小鳥の命を狙ってきた暗殺者のことが気になって仕方ないのだ。ベルシャインは王様より今回の相手の組織を倒そうという意思が強いように感じた。彼に協力を求めれば、すぐにでも組織との壊滅を始められるだろうが、彼に協力を持ちかけてもいいものかと考えている。彼に近づくことは、王様の計らいや、ベルシャインの気遣いを無下にするのと同義だ。たとえ、ベルシャインがそれを許しても、王様はそうは言わないだろう。彼には世話になっているという意識がある限り、自らベルシャインに協力を求めることは難しい。もし、王様の庇護下にあるのが、自分だけだというのならベルシャインに話に行くこともできるが、小鳥も一緒だとなると話は変わる。この後に、彼が小鳥も含めて面倒を見ることができないと言えば、それまでなのだ。
セレナルが授業をしているというのに、彼は一日中思考をループさせて、何も頭には入っていなかった。セレナルは苦笑いをして、授業を終えて王宮を出て行った。起こった様子もなかったが、彼が帰った後に龍樹は失礼なことをしたと反省したものの、思考自体が止まることはなく、そのまま夕食の時間になってしまった。王様と青うのは少しだけ気まずいが、王様が食事を共にしたいと言ってくれているのに、それを無下にすることもできない。
いつものように食事するための部屋に入ると、既に王様が席に座っていた。二人も部屋に入ったが、いつものように王様が席を勧めてくれることはなかった。それどころか、彼の様子がおかしいと龍樹たちが気が付くほど様子が変だった。顔は青白く、見た目だけでも体調が悪いとすぐに理解できるほどだ。二人がそれに気が付いているのだから、周りの王宮に努めている人がそれに気が付かないはずがない。それでも放置しているということは、彼自身がどうにかできることなのだろうか。それとも、王様には手助けなど必要ないと考えているということだろうか。どちらにしろ、龍樹も小鳥も目の前の病気に見える人を放置できる性質は持ち合わせていなかった。とは言っても、小鳥から声をかけるのは難しく、龍樹が王様に話しかけた。
「ああ、大丈夫。大丈夫だとも。そう、大丈夫だ。早く食事にしようか」
明らかに大丈夫ではないと言っているような状態で、彼を放置することはできない。龍樹にとっては、小鳥をこの世界で保護してくれている人でもある。ここで彼を放置して、保護下から出てしまうというのが一番怖いことでもある。
「俺たちじゃ、力になれないかもしれないが、少しでも何か協力できるかもしれない。本当に何もないならいいんだ。だが、もし何か困っているなら、恩返しをさせてほしいんだ」
そこでようやく王様が彼に視線を向けた。その視線には力がなく、視線の中には助けを求めているのがすぐに理解できた。彼は追い詰められた人の目をしていた。
「……すまない。ベルシャインが、どこかに消えたのだ。あれは勝手に町に行くことはあっても、夕方になる前に帰ってくる。だが、今日はいつまで経っても帰ってこない。暗殺者を送ってくる組織に対しての策を話していたんだ。それを自分で穴があることに気が付いていたが……」
王様の声は弱弱しく、息子の心配をしているというのが、龍樹にも小鳥にも感じた。
(できることならすぐにでもどうにかしてやりたいが、俺には……。いや、今はあの時よりも確実に力があるはずだ)
彼には魔法を自在扱うことができる力がある。彼が元居た世界では運命に抗うための力はなかった。信用も子供であるために大人には勝てなかったし、経済的にも限界があり、小鳥に不自由させたことも沢山あり、それをどうすることもできなかったのだ。結局は異世界に来る前の二人の親は二人には無関心で、超能力もなく、龍樹が持っていた力は小鳥を含めて筋力だけで守れる範囲だけだった。
だが、今はその時とは違う。確かに単純な戦闘能力が高いということではあるが、その力は圧倒的なもので、例えば財力や信用すらも凌駕することができる力でもある。だから、彼はあの時とは違うと考えていた。小鳥のためにも、その力を使っての戦闘を一度しておきたいとも考えていたのだ。
「王様。やっぱり、俺が乗り込む。明日、行ってくる。小鳥を守っててくれ」
王様は一度、彼を希望だと思った。だが、すぐに思い直す。彼を戦場になる場所に連れて行くのはどうしても気が引ける。この世界に召喚して、最後にはそういう場所に連れ行く可能性の方が高いというのに、今更、彼に戦闘させることに恐怖を覚えていた。。
「いや、だめだ。君たちに戦ってもらうにしても、もっと後だ。今、戦って、もし救えないほどの怪我をされたら、それこそ笑えない。ベルシャインだけではなく、君まで帰ってこなくなったら、私は王としてこの国を導く資格はないだろう。ベルシャインを救うために君の力を使うなんて、私欲を満たすために聖女様の召喚を行った王と同じになってしまう」
「……なんでもいい。あんたがどう考えていようと、俺は勝手に動くだけだ」
彼はもはや、ベルシャインを救うために動くこと以外のことを考えていなかった。




