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始まり 2

 ベルシャインは、一枚の報告書を作成していた。そして、それを丁寧に、綺麗に折り畳んだ。彼はその後、茶色の外套を着て、髪の色を緑色へと色を変えた。土の魔気を使った髪を染めるための粉だ。粉を水の溶かして髪に塗り込むことで、髪の色を変化させることができるのだ。一般人もその存在を知ってはいるが、自身の髪色を変える人は少ないため、それを使っている人自体は少ない。そのため、髪の色を変えるだけで、彼がベルシャインだとわからないのだ。町では王子様に似てるねと子供に言われたことはあるが、そもそもこの国の王子が一般人に交じっているわけがないと大人たちは思っているので、彼が王子だとばれる可能性はほぼなかった。


 彼はいつも来ている白を基調にした格式高そうな服ではなく、市民たちが来ているような服装で町に出ることにした。その服装は布で作られた薄緑色のズボンに、白いシャツを着るというものだ。


 彼は他の者に見つからないように王城を出て、町へと繰り出していく。




 この国の町並みはグレーのレンガが基調の町並みだ。家はその色のレンガでできていて、店には看板やルーフが出ていて、グレーの中に様々な色が映える、グレーが基調だからこそ、店や施設はかなりわかりやすいのだ。彼は色が同じでもすでに町の中のことは把握している。こうして何度も王城を抜け出して町に来ているのだから、当たり前だろう。彼は迷わず、冒険者のギルドへと移動する。その間に、露店を出している店主から声をかけられたり、すれ違う子供たちに声を掛けられたりしている。それを見れば、彼が好印象な人物であるとわかるだろう。


 ギルドに着いて、中に入ると中は騒がしかった。それはイベントがあるとか、何か問題が起きているとかそういうものではなく、ギルドの中はいつもそういう雰囲気だ。その中でも声の大きなグループに近づいていく。ギルドの入り口から多少離れたところには筋肉のついた男たちが集まっていた。彼はそこに警戒もなく近づいていく。そして、彼が近づいてくると、男たちも彼に気が付いた。真ん中に座っていた男以外が立ち上がり、彼に視線を浴びせる。数名は睨んでいたが、彼はそんな視線をものともしない。王子であればその程度はなんてことないのだ。


「あんたみてぇな、坊ちゃんが俺たちに何の用だ?」


 ベルシャインが、そのグループがいる前でたちどまると、座っている男が彼に声をかけた。威圧感のある視線に、その見た目。彼でなければ、話しかけることもできないだろう。


「ちょっと、情報を、ね。これなんだけど」


 彼はいつもの王子のふるまいではなく、軽い言葉遣いで相手の前に一枚の紙を差し出した。男はその紙に書かれた文字を追った。そこに書かれていることを理解すると同時に、男は立ち上がり、ベルシャインの持つ紙を奪い取った。ベルシャインはその瞬間に、彼らがその件で動いてくれると確信していた。だが、彼の思惑通りにはならなかった。彼の目の前でその紙がびりびりと破られ、彼の目の間でそれを地面に落とす。紙の破片がひらひらと地面に落ちる。彼はそれに視線を向けて、目の前で何が起こったのか理解しようとしていた。しかし、その前に彼の顔に衝撃が走り、何歩が後ろに下がらされた。


「……は?」


 この状況の全てに理解が及ばず、その一音だけが、口から洩れた。


「俺たちの中にこんなことをする奴はいねぇよ。確かにカルトからの依頼を受けてはいる。が、あれを信仰している貧弱な奴なんて、俺の仲間にはいねえんだよ!」


 相手の拳が彼に向って飛んできた。さすがに見えていれば回避するのは簡単だ。だが、祖のまま次々と拳が飛んでくる。最初に殴りつけてきた男だけではない。他の男たちも彼を囲んで攻撃しようとしている。彼の実力も超能力も多人数と戦うほどの力はない。


 彼はどうすることもできず、入口に近い奴の攻撃を回避して、その横を抜けてギルドを出た。男たちは彼を追って、ギルドから出てくることはなかった。しかし、男に殴られてた頬がずきずきと痛む。歯がぬけているのではないかと思えるほどの痛みだが、歯が抜けていることはない。自分で頬に手を当てるだけで、痛む頬はすぐにはどうすることもできない。


(まさか、あそこまで馬鹿だとは思いませんでした。裏切りがない組織などないでしょうに。せっかく、私が報告しているのに……。あの筋肉量、おそらく頭まで筋肉でできているおめでたい人たちなのでしょうね)


 彼はイライラを募らせながら、町を歩く。顔にはその不機嫌が浮き出ていて、彼に話しかけるものは一人もいなかった。

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