始まり 1
「王様、暗殺者の送ってくる奴らのこと、わかったんだろ?」
龍樹が朝食の席で、王様に向かってそういった。その目には殺意が混じっていて、その殺意の先はもちろん、王様ではなく暗殺者を送ってくる組織に向けられたものだ。王様もそれを理解しているが、視線自体は自分に向いているため、多少は怖かった。しかし、その程度の視線に怖気づくようでは、王様は務まらない。
「……どこで聞いたのかわからないが、その通りだ。しかし、騎士たちもあまり協力的ではなく、まだ策もない。この状態で向かったとて、失敗するだけだ。失敗するとわかっていて、彼らに協力してくれとは言えない。君たち二人を参加させることはない。君たちが死ぬ可能性が少しでもある以上、参加を認めるわけにはいかない。聖女様の力も、君の力もまだまだ戦えるほどではないだろう」
「小鳥は俺が守るし、俺は戦える。知ってるだろ、俺は魔法を自在に使えるんだ。セレナル先生だって教えてもらった。だから、作戦には参加する」
二人は睨みあう。どちらもとも自分ためにそう言っているわけではない。王様は彼らを心配しているからだし、龍樹も小鳥のために戦おうとしているのだ。人のためだからこそ、退くことができない。そして、大人であるのは王様だった。
「……わかった。作戦が決まったら、君にも参加してもらおう。それでいいか?」
「ああ、頼む。王様が心配してくれてるってのはわかってるけど、これだけは退けないことなんだ」
彼の行動の根本は小鳥の幸せであることは、王様もすでに理解していた。彼は義妹に対して、執着しているようにも見える。優しい義兄であることは間違いないが、それがたまに行き過ぎていると思うことも、たったの数日間でもわかっていた。そして、小鳥のためにという状況では彼は絶対に退かないのだろう。
無言で朝食をとり、部屋を先に出たのは龍樹たちだ。先に失礼するとだけ言って、龍樹が部屋を出た。その後ろを小鳥がついていき、部屋を出る前に小鳥が焦ったように一礼して部屋を出た。最後にファベルが綺麗な所作でお辞儀をして部屋を出て行った。部屋に残された王様はため息をこらえきれず、はぁーと長く息を吐きだしていた。その部屋には今、誰もいない。部屋の外にはいるが、彼のため息が外に漏れることはない。
「彼も頑固者だ。二人目の息子だな。はは」
乾いた笑いが、我慢しきれずに漏れ出てきた。彼は使っていたスプーンを皿の上に置いて、手の甲を額につけて、ため息をつきそうになるのをこらえていた。あの暗殺者が来てから、この王宮の空気自体が悪くなっている気がしている。騎士たちが協力的でないのもベルシャインが勝手に情報を収集しているのも、聖女様たちが自分勝手に行動しようとしているのも、全てあの出来事がは始まりだ。聖女様を召喚する儀式が追われば、少しでも状況が良くなると勝手に思い込んでいたことが、今更にわかってしまった。協力を強要しないと言いつつもすでに危険に巻き込んでいるのだ。もはや、自分考えに自身もなくなってくる。しかし、それを表に出すことは許されない。
ベルシャインは自室で朝食をとっていた。彼らが来る前から、父と朝食をとる機会はかなり少なかった。それは父が忙しいというわけではなく、彼が朝食の時間に食事するための部屋に行かなかったからだ。ファベルに呼ばれてはいたが、彼は忙しいといって、自室で朝食をとっていたのだ。そして、現在もそれを続けていた。
彼の前には集めた情報が書かれた紙が散らばっていた。どれだけ作戦を立てても、自分一人で何もなすことができない無力感を感じていた。
(今朝は驚きましたが、聖女様たちが犯罪者を討伐するのに協力してくれる可能性の方が高くなったはずです。彼はそもそも、やる気でしたから)
彼の前においてある紙に書かれたそれは何度も見返したものではある。新しい情報などは一つもないが、それでも彼は何度も見ていた。作戦は既に底をついているようなもので、結局はコスタに情報を流して、彼ら自身に力を貸すような作戦が一番だと未だに考えている。
「ふむ。だが、私の思い通りになる可能性は高くはない、ということですね。いや、一度情報を流してみますか。父上には、悪いとは思いますが、私は私で動くことにしましょう。父上は慎重すぎますからね」
彼はひとりで思考するのが好きだった。そして、そのせいで、視野が狭まる傾向があり、一ついい作戦だと思うと、そればかりに注視してしまうのだ。
彼は最高の作戦を思いついたと考えて、変装して町に出ることにした。




