聖女の命を狙う者たち 5
ベルシャインによれば、犯罪組織の中で、聖女を真っ先に消したいと思っている組織は二つあった。
「カルト、ギブラッドか。確かにあれらからすれば、一番邪魔なのは聖女様だろうな」
カルトは教祖と呼ばれる人物を崇めて様々な手段で金を集めている集団。ギブラッドは邪神信仰で女性を攫っている集団だ。どちらも、便宜上そう呼んでいるだけで、組織の名前は知らない。いや、おそらく知りたくもないというのが正しいだろう。
「それに次いで怪しいのがダークスターです」
「……なぜ?」
「おそらく、下請けか何かでしょう。ダークスターの一部の者はカルトに取り込まれているようですから、カルトに頼まれたら暗殺者の派遣も行うでしょう。……現状カルトのギブラッドも壊滅させることはできません。可能性としてはダークスターを壊滅させるくらいでしょう、今回の件でいえば」
人が運営している組織だ。一枚岩であるはずもなく、それは犯罪者であっても変わらない。横に繋がりがあるのだから、その反対ももちろんある。長年調べた情報では、ギブラッドはかなり閉鎖的な組織で彼らの行う犯罪も自分自身で行っているようだった。反対にカルトはそのトップが実際に目の前にいるせいか、他の組織との交流があり、カルトに影響を受けていることもあるようだった。
そして、聖女はカルトやギブラッドのように信仰対象がある人たちには邪魔なのだ。なぜなら、聖女はこの国では信仰される対象でもあり、聖女がいるということは、自分たちの存在が否定されるというのと同じだから。唯一神や教祖ありきの組織に関してはそれ以外の信仰対象を認めることはできない。だが、一般人は聖女を信仰していて、その聖女がこの国に来ているとなれば、その立場も盤石なものになってしまう。それを阻止するために動いているのがカルトとギブラッドだと考えているのだ。
「すぐにはどうすることもできない、だろうな」
「そうですね。騎士たちの力もまだ足りないようです。日々訓練をしているようですが、何度も失敗しているせいで、士気も低くなってしまっています。聖女が来たことで、気持ちが入っているものもいるようですが、その意欲も時間と共に沈んでいくでしょうね」
食堂のテーブルに肘をつけて、指を組み合わせてそこに額をのせて、王様はため息をついた。未だ、何もかもうまくいかない。聖女様とその付き人がこの世界に来てもらってしまったというのに、彼自身はまだ何もできていないと思っていた。それは彼の弱さであり、優しさだ。本当に聖女様たちを利用するだけならば、すぐにでも作戦を考えて、聖女様たちのことは気にもかけず、犯罪組織と戦えたはずだ。
「……父上。聖女様とその付き人を、いつまでこの王宮に閉じ込めておくつもりですか?」
「彼らに、無理やり協力させることはできない。それはお前もわかってくれただろう」
「そういう意味ではありませんよ。王宮では、この国を知ってもらうにしても、私たちに協力してもらうにしても、狭すぎるのです。私は、彼らを学園へと通わせるべきだと考えています。すぐには無理でしょうが、あと半月ほど経てば、他の人との意思疎通もできるようになるはずですから」
「……わかってはいるんだ。学園へと入る手続きはしてあるのだが……」
王は迷っているのだ。学園へといってもらえば、この王宮で知識を得るよりも多くの知識を得ることはできるだろう。だが、聖女様たちが学園へとはいるということは、王宮で過ごすよりずっと多くの人と関わることになるだろう。小鳥がそれに耐えられるのかわからない。最後にこの国に聖女を呼んだ時には学園はなかったらしく、その時の聖女は王宮で知識などを得ていたようだ。だから、もし聖女様たちを学園に通わせるというのなら、学園に初めて聖女様が通うことになる。それは他の人の興味を、いい意味でも悪い意味でも惹くだろう。
「彼らをどうするのか、すぐには決められないとは思いますが、それでもずっとここに閉じ込めておくことはできませんよ。……それでは、私は騎士たちの夜間訓練に参加してきます」
「……ああ、気を付けて言ってきてくれ」
ベルシャインはそれだけ言い残すと、その部屋から出て行った。
騎士たちは、この国を守るために訓練を毎日欠かさず行っている。この国では犯罪者の相手をすることがほとんどで、国の外で魔獣と戦って安全を確保するという仕事はほとんどない。町の外の魔獣や盗賊は基本的には冒険者たちが相手をしている。
「王子、お疲れ様でございます。今日も、訓練にお越しくださったのですか」
「ええ、そうです。聖女様を、付き人様を守ることができるほどの実力がなければ、彼らを庇護するなんて言えませんからね」
「素晴らしい志です! 私も見習ってもっと訓練に励みたいと存じます! それでは」
ベルシャインが騎士の訓練場に入ると、他の騎士の視線も彼に向いた。興味や敵意が入り混じった様々な視線を受け止めながら、彼は剣をとり、いつものように素振りから始めた。




