聖女の命を狙う者たち 3
翌日、朝食の席だというのに、その場に流れる空気は重苦しいものであった。その中でも小鳥は、少しずつ少食には手を付けているが、それでもその進みは遅い。それもそのはずで、この場の空気を重くしていることに関係している被害者当人であるからだ。
「まさか、この王宮に刺客を送り込むまでになっているとは。先にこの国の事情を説明するべきだったな。すまない」
王様は悪くないとわかっているのだが、龍樹からすれば大切な義妹を失うことになりかねない事態だ。王宮だから、と彼も安心していた部分もあった。しかし、それは昨日の夜のことで簡単にひっくり返ってしまったのだ。
それから、王様は長々と話し始めた。それは王様の感情も入ってしまっているため、二人が聞いている話は長いが、要約すれば簡単な話で、この国には犯罪者の集団が多く潜伏している状態であり、その全てを壊滅させるために、聖女を召喚したというわけだ。とは言っても、王様たちも何もせずに聖女の力を借りようとしたわけではない。騎士たちを使って、犯罪者の集団を何度も何度も壊滅させようとしたが、追い詰めても、完全に消すことはできなかった。結局はいたちごっごになり、王様や騎士の精神もすり減って聖女の力を頼ってしまったというわけだ。
「すまない、本当に。私たちの心の弱さが君たちをこの国へと呼んでしまったのだ。私にできることは、いや、できないことであっても君たちの願いは全て、どうにかしてかなえさせてほしい。そんなことで償いになるとは思えないのだが……。そして、セレナルやベルシャイン、他の者にも元の世界に戻すための儀式を研究しているところだ。どうにか、君たちだけでも元の世界に戻せるようにする。それだけは約束させてほしい」
王様はそう言いながら、何度も後悔していた。この世界に二人を呼んでからまだ一週間と経っていない。しかし、その中でも彼は何度も何度も二人を自分の弱さで二人をこの世界に呼んでしまったことを後悔している。そして、ずっとそれは彼の中で棘となって残り続けるだろう。だが、彼は王様だ。彼らを呼んでしまった以上、この国の問題も解決しなくてはいけない。そして、最後には二人を元の世界に戻さなくてはいけない。聖女を召喚した王様の中でも、異世界人を元の世界に戻そうとした王様はかなり少ない。そもそも、聖女を自身の私利私欲のために召喚した王様も少なくはないのだ。今の時代にはないが、この国の歴史の中には、王様を殺したものが次の王であるという黒歴史もある。戦闘能力だけだ評価されていた時代の話だ。
「確かに自分勝手な理由だったな。でも、俺はすぐに帰ることもできないし、それにすでに王様に世話になってる。恩を感じないほど俺は非常じゃないつもりだ。それに小鳥を狙った組織だけは、俺がぶっ壊しやるから、それだけは安心してくれ」
龍樹はそういつが、今のところ、小鳥を襲った組織の手掛かりは一つもない。相手の体の一片も、服のかけらもないのだ。あの光と衝撃のせいで、襲ってきたやつのものは何一つとして残っていない。
「……暗殺者であろうと、王宮に侵入できるはずがない。が、そういう限定的な超能力があれば、話は別だろうか……。何か、手掛かりが、少しでもあればいいのだが」
王様も頭を悩ませるしかない。何せ、襲ってきた相手の手掛かりが一つもないのだ。暗殺者を使う犯罪者集団も一つや二つというわけではないのだ。
「一つずつ潰すべきか? どうせ邪魔なんだろ」
「それはそうだが、おそらく君の想像している以上に手ごわい相手ばかりだ。魔法が自在に使えるだけでは勝てる相手ではないのだ」
「……なるほどな。わかった。許すわけじゃないが、少し頭を冷やすことにする」
我慢できていないが、それでも彼にはしっかり理性が残っている。復讐は必ず遂げるつもりではあるが、情報もないまま、一人で挑むのを心配されている今、熱くなって感情だけで動くのはあまりいいことではないと思った。さらに、少し冷静になっている今だからこそ考えることができるが、自分一人が復讐に出た後、小鳥に再び刺客が送られてくれば、それに対処することができない可能性もある。そうなったときに彼女を守れなければ、必ず絶対に後悔するだろう。
結局は情報を収集してからという話になり、朝食に手を付け始めた。すでに冷めてしまっているが、それでもおいしいと感じた。
今日はセレナルの授業は休みだ。彼は一日、学校で魔法を教えているらしい。学校での彼を見てみたいとは思ったが、おそらく王宮で教えているときとあまり大きな変化はないだろう。あるとすれば、大人数に教えているため、会話はほとんどない授業になっているはずだ。彼はそんなことを考えて気を紛らわせていた。




