聖女の命を狙う者たち 1
小鳥と龍樹が眠っている中、その部屋の中に侵入者が入ってきていた。ただの侵入者ではなく、それが小鳥を殺そうとしている暗殺者であったのだ。だが、龍樹が起きた時点で、ベッドの周りには風の魔気を使った壁を作り出して、見えない強固な壁を作りだしていた。そして、暗殺者は起点を聞かせて先に龍樹を殺そうとしたが、彼の周りにも同じ魔法が展開しているのだ。一度目でベッドの方を破れなかったと者に彼のその防御の魔法を破れる通りはない。
暗殺者はそもそも二つも同時に防御の魔法を発動しているとは思っていなかったのだ。それもそのはずで、この国の魔法の常識から考えると、魔法は同時に一つしか発動できないのだ。二つ目の魔法を発動するとなると、そのための想像力が必要で、一つ目の魔法を想像している間に二つ目の魔法を想像して発動するという手順をとらないと発動しない。そんなことができる人間はこの国にはいないのだ。さらに言えば、魔法が詠唱なしで発動している時点で、暗殺者の常識から外れいているのだ。だから、ベッドを狙ったし、彼を殺そうともしたのだ。暗殺者からしてみれば、彼らを殺すのは諦めるべきだと考えてしまう。だが、彼らにはその選択肢をとることはできない。失敗すれば、どちらにしろ死ぬことには変わりないのだ。
暗殺者を短剣を握る手に力が入った。彼には暗殺者の事情など知ったことは出ない。彼にとっては小鳥に害を与えようとした方が問題だった。相手は彼に短剣を向けた。次の瞬間には暗殺者が彼の視界から消えた。相手の短剣が光ったのが彼には見えた。相手の視界から消えて、背後ではなく正面から現れた。それでも彼は驚くことなく、相手の動きを見ていた。そして、正面に来ても相手の顔は全く見えなかった。ローブというか、腰のあたりまであるマントに深いフードがついていて、それが相手の顔を隠しているのだ。真っ黒な服のせいで、相手が自分から離れれば、相手は見にくくなる。
相手の短剣での攻撃は全く彼には届かない。暗殺者は連撃を彼にぶつけているが、彼の魔法は全く壊せる気配はない。それどころか、その防御を削っているような気配すらない。
「風よ。インビジブルエッジ」
相手の声が聞こえると、彼の作り出していた壁に何かがぶつかるような感覚があった。相手の言葉はセレナルが魔法を詠唱しているのと似ていた。つまりは、相手は今魔法を使ったということだろう。そして、それを自身が作った防壁に相手の魔法がぶつかったというわけだ。彼は暗殺者に狙われているという状態であるにも関わらず、のんきに考察していた。彼には自分の魔法が破られるという予想は全くしていない。
「土よ。クレイシュート」
次に飛んできたのは、土の塊だった。その程度の魔法が防御の魔法を貫通するはずもなかったが、相手はその土の塊を何度も何度もぶつけてくる。そこで、彼はようやく思いだした。セレナルに教わった魔気の相性の話だ。火と水、風と土はそれぞれ基本的に反対に位置する属性であるというものだ。セレナルが基本的にと言ったのは、必ずしもそうなるわけではない事象も少なくないという話だった。
そして、その基本の中に留まらない理由は簡単なもので、魔法に込められた魔気の量が同じであることで相殺できるという話だ。同じ魔法を使っていても、そこに込められた魔気の量は使用者の中にある魔気の保有量に依存する。だから、魔法同士がぶつかってもそこに込められた魔気の量が異なるため、相殺することがほとんどないという話だった。魔法が相殺されるというのなら、それは意図的にそうしたと考えるべきだというくらいの可能性だ。
そして、暗殺者は魔法同士が相殺する可能性があることを知っている。だから、彼の魔法を風と決めて、土の魔法をぶつけているのだ。大量の土の魔気をぶつければ、防壁もいずれ崩れると考えていた。見えるわけではないが、短剣を当てた感触でいえば、彼の使っている防壁は薄い。薄いというのなら、それなりに反対の属性の魔法をぶつけ続けていればいずれば、魔法を破れると考えていたのだ。
だが、それは勘違いだった。魔法は大きさや厚さではなく、魔気の密度で威力が決まるのだ。そして、彼は想像通りに魔法を扱うことができる。彼が絶対に破られることのない壁を想像している限り、相手は絶対に彼の魔法を破ることはできなかった。
相手の魔法、土の塊が飛んでこなくなった。彼の足元にある土の塊は彼の作り出した壁に少しも傷をつけていない。ただ、地面を汚しただけだった。そして、相手は打つ手がないのか、次の手を考えているのか、動きが止まっていた。




