ベルシャイン王子 5
王様がでていってしまったので、龍樹と小鳥もその部屋から出ていくことにした。部屋の外にはファベルが待機していて、彼女の背についていく。向かっているのは、二人が使っている部屋だ。
部屋について、昨日と同じセリフを繰り返すと、部屋から出て行った。ファベルが扉を音もたてずに閉めて、出ていくと小鳥がベッドにダイブした。その一撃で、ピンと張っていたシーツなどがぐしゃりと歪んだ。
「疲れたぁ……。お兄ちゃん、お風呂入れてー」
彼女はそんなことを言っているが、本当に風呂に入れてほしいわけではなく、ただただ構ってほしいだけである。そして、そうなるのも彼女がずっと緊張状態だったからだ。龍樹もそれを理解しているため、彼女にとやかく言わずに彼女の頭を優しく撫でた。
「風呂は入れてやれないからな、これで我慢してくれ」
小鳥は彼に撫でられて気持ちよさそうに笑った。
「うん、我慢するー」
口ではそう言っているが、彼女にとっては風呂に入れられるより頭を撫でられる方が嬉しいに決まっていた。そもそも本当に風呂に入れられたら、恥ずかしすぎてもう義兄と顔を合わせられないだろう。彼女だって、龍樹が本当に一緒に風呂に入ると言わないとわかっているから、そんな冗談を言っているのだ。
しばらく、そうしてから、交代で風呂に入った。小鳥が先に入り、龍樹がそのあとに入る。彼が風呂から上がってくると、大きなベッドのど真ん中で大の字で小鳥が寝息を立てていた。その様子を可愛いい義妹だと思いながら、彼女の体を優しく持ち上げて、掛け布団をずらして再び彼女を寝かせて布団をかけた。彼女は微かに起きていたようだが、ベッドに寝かせると再び眠りについた。龍樹はその様子を見ていたが、特に可愛い以外の感想はなく、彼女の隣に横になって目を閉じた。
部屋の中だろうか。微かに物音がしたような気がして、龍樹が薄目を開ける。当たり前だが視界の中には誰もいないし、何もない。体を起こして、部屋の中を見渡す。それでも誰もいなかった。しかし、一つだけおかしな点があるのだ。
(窓が開いてる……)
視界内にある窓が開いていた。部屋の中に風が入り、カーテンが微かに揺れている。
(誰かが侵入したと考えるのが妥当、か。だが、誰が? この王宮に侵入できる奴なのか、それともこの王宮の奴が手引きでもしてるのか。どちらにしろ、この部屋に入ったことは決まっていると思った方がいいな)
彼は体を完全に起こしてベッドから降りた。とりあえず、窓を閉めようと思ったのだ。外の冷たい空気が部屋の中に入ってくると小鳥が風邪をひいてしまうかもしれない。彼は窓の近くに立って、窓を閉めた。その瞬間、ベッドの方で物音がした。
「……っ!」
何か、いや誰かが息をのむ音がした。ベッドの方を見れば、全身を黒い衣装に身を包んでいる誰かがそこにいた。両手には短剣をもっていて、片方は逆手持ちだ。相手の体が空中にあり、すぐに着地した。そして、その短剣が狙っていたのは確実に小鳥だろう。龍樹が小鳥から離れるのを待って、彼女に攻撃したとしか考えられない。だが、そうなる可能性も予想して、彼はどんなことをしても破れるはずがない壁の魔法を使用していた。
(小鳥を囮にしたようなものだな。それに報いるためにも、こいつは殺すしかない)
彼は相手の様子を見て、相手が明らかに暗殺者と呼ばれる人たちなんだろうと考えた。物語の中にもたくさん登場する。それもファンタジーにも現代ものにも登場する。殺人のプロ。当たり前だが、今この時まで本物の暗殺者にあったことなどなかった。だから、相手の殺意が自分に向いたことに恐怖する。
相手が黒い衣装を身にまとっているため、相手の動きが正確にはとらえられない。素早く動くため、どうしても一瞬見失うことがある。相手はそれを利用して、確実に龍樹に近づいていた。
彼の正面まで来た瞬間に、相手に姿が一瞬で消えた。背後に回られていることに気が付いたのは、相手の短剣が彼の体にぶつかってからだ。
「っ!」
相手は自身の短剣が相手に突き刺さらないことに驚いてまた距離をとった。そこまでしてようやく相手はその固い何かを作り出しているのが彼だと知った。
(さすが暗殺者というべきだな。ほぼ躊躇なく首を狙い、一撃で殺す。騒ぐことなど許さない)
「だが、油断したんだろうな」
思考しながら、言葉を声にして出す。思考することで、恐怖心が和らぎ、声を出すことで、体の緊張を緩める。多少の緊張感は必要だろう。異世界に来て初めての戦闘。それが魔獣ではなく、暗殺者相手に戦うことになるとは思っていなかったが、小鳥を狙うなら、相手が何であろうと殺さなくてはいけない。




