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ベルシャイン王子 3

 セレナルの授業を受け終えて、自由時間には昨日と同様に図書館で過ごした。龍樹は適当に本を手に取って読んでいたが、彼の隣で本を開いている小鳥は最初こそ、本を読んでいる様子だったが、時間が経つにつれて、彼女がそわそわし始めた。夕食が近づいてきているということは、王子様に会う時間も近づいてきているということだ。そして、いつものように逃げだすことはできない。


「夕食のお時間でございますので、お迎えにあがりました」


 ファベルが図書館に来て、二人を夕食に呼びに来た。彼女の背中についていき、夕食の席についた。昨日と同じく、王様がすでに席に着いていて、二人に席を勧めた。龍樹はいつものように座っていたが、小鳥は自身の座る椅子の足に自身の足が引っ掛かり龍樹の肩に手をついて転ぶのを阻止していた。彼女は龍樹にごめんなさいといって、彼の隣の椅子に座った。料理はすぐに運ばれてきて、王様が食べ始めるのを食事の合図として、二人は食べ始めた。


 その間も小鳥はどこか落ち着きがなく、スープを掬おうとすれば、皿の底にスプーンが強くぶつかり大きな音をたてたり、フォークで食べ物を刺したはいいが、口に運ぶ前に落としそうになったりしていた。彼女自身も自身が緊張していることは自覚していて、上手く食器を遣えていないことも自覚していた。それでも食事を終えたが、それはつまり、王子様に会う時間だった。




「聖女様、これからベルシャインを呼びたいのだが、いかがだろうか? ベルシャインも同じことを言っていたが、聖女様が会えないと言えば、また機会を待つと言っているから、機会を後日に移しても大丈夫なのだが」


「……」


 彼女にとっては、唯一の逃げ道だ。相手から言われたのだから、それを受け入れて、また後日機会をもらえばいいじゃないかと、彼女の心はそう言っていた。いつもなら、その心の言葉を受け入れてどうにか、逃げていた。だが、この世界にせっかく来たのだから、これをきっかけにして少しでも変わりたいと思っているのも事実。そして、変わりたいと思うなら、ここで逃げるというのは間違いだと、彼女の思考はそう言っていた。


「大丈夫、です。王子様を呼んでください……」


 彼女は多少震えた声でそう言った。だが、今にも足が崩れそうだった。そして、無意識のうちに龍樹の顔を見てしまう。彼女の視線を受けて、龍樹が彼女の方を見た。視線が交差して目が会った。そうしている間に、王様はファベルに話し、ベルシャインを呼ぶように指示していた。


 龍樹は、いつもなら彼女が怖がることがあるなら、それを怖がらない方法を考えたり、不安の種を排除するように行動してきた。だが、今回は彼女の目や態度から感じるものがいつもの雰囲気とは違う気がしていた。彼女の視線には確かに助けてほしいという心も混じってはいるが、それよりも決意というか、気迫というか。とにかく、今の彼女の状況を肩代わりして、それを解決するのは間違いだと思った。


(小鳥にも、この世界に来て何か思うところがあるのかもしれない。それなら、義兄として、彼女のことを見守ってやりたいな)


 そうはいっても、彼女の不安げな視線を受けて、何もしないという選択肢をとることはできずに、彼女の頭にポンと手をのせた。撫でるわけでもなく、彼女の頭にその手の温もりを与えているようなものだ。小鳥は彼の手に自身の手を触れさせた。


「お兄ちゃん、ありがと」


 彼女がそういって、少しだけだが笑ってくれた。




 少しの間待っていると、食事している部屋のドアがノックされた。


「ファベルでございます。ベルシャイン王太子をお連れしました」


 王様がそれに返事をすると、ドアがゆっくりと開かれる。扉を開けるファベルの後ろにいたのは、金髪のイケメンだ。サラサラで艶のある若々しい金色の髪は肩の辺りまで伸びていて、その目つきは鋭い方で、睨んでいるわけではないだろうが、その目つきは怒っているようにも見える。その目の奥にある瞳の色は髪と同じ金色。二人が召喚されたときに来ていた白を基調として、その淵が金色のラインが入った格式高そうな服を着ていた。彼はすたすたと部屋の中に入ると、王様の隣に移動した。座るわけではなく、王様の隣に立っていた。


「一度も紹介していなかったから、紹介させてもらうよ。これが私の息子のベルシャインだ」


「ベルシャイン・オルテンベルグです。聖女様、先日は本当に申し訳ありませんでした。怖がらせてしまったこと、本当に反省しているのです。見知らぬ人にああやって近づかれては怖いだけだと、考えるまでもなくわかっていなくてはいけないことでした。本当に、申し訳ありませんでした」


 ベルシャインは腰を九十度に折り、頭を下げていた。王族が謝るなら、それが誠意のある謝罪なのかもしれないが、龍樹の耳には彼の謝罪が表面上だけの言葉だけのように感じていた。元の世界のニュースなどで見た、会社のトップの人間が市民に謝っているような空虚な言葉だ。だが、それに口を出すようなことはしない。彼が謝っているのも、謝るべきであるもの、小鳥に他ならないからだ。

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