騎士VS古い悪魔 3
悪魔に殴られた騎士の鎧はその一撃で、ボロボロになった。拳が鎧の中に手が入っている。そして、殴った騎士が吹っ飛んでいない。悪魔が腕を上げ、下に振り払う。鎧の中に手を入れられていた騎士は転がる。その転がる軌跡が簡単に誰にでもわかった。彼の転がった場所には赤い道が作られていたからだ。体の回転が止まると、その場所に赤い水たまりができた。それが血液だと理解するのに、騎士たちは時間がかかっていた。
「ふむ。これでも手加減はしているのですが。まさか、この程度の力でその鎧が壊れてしまうとは。私は彼を吹っ飛ばしたかったのですがね」
悪魔はちょっとした失敗を語るような気軽さで、人を殺したことを語る。自分ではなく、相手の鎧と体が弱いのが悪いのだという。騎士たちはその心には怒りが募るが、誰一人として勝手に突っ込むものはいなかった。
「もう少し手加減が必要ですか。いやいや、面倒くさいですね。好奇心はありますが、そこまでしたくはありませんね。やはり、人間はどれだけ時間が経っても、私より強くなることはないのでしょう。私を倒すのが人間だなんて、笑える冗談でした。私を殺したいのならば、天使に恩を売るくらいはしなくてはいけませんよ」
彼は人間ごときが天使を助けることがあるはずがないと考えていた。人間の作った物語の中に天使を助けて、仲良くなって、自分たちの村を魔獣から救ってもらうという御伽噺がある。それはどうあっても物語の話で、天使という種族はいるが、人間を見下している者が多い種族でもある。天使に限らず、弱い種族である人間を見下している種族は少なくないのだ。だからこそ、人間が天使を、天使が人間を助けるなんて話はないのだ。彼にとって、天使に恩を売るという言葉は、ありえないことを示す言葉の一つだった。
「ふっ。はっはっは! 天使だと? この国には天使は必要ないのだっ!」
騎士団長の言葉に他の騎士たちが反応する。
「さぁ、お前たち! 俺たちの後ろにいるのは誰だ! 俺たちには、伝説が付いてる! 我々がここで負けるわけにはいかないのだっ! 何度でも剣を取り、剣を振るえっ!」
騎士団長はさらに、味方を鼓舞する。先ほどより強い怒声があたりに響く。王宮の中までその声は届いていた。
「今日はすごいうるさいね。なんか、王宮の中も誰ともすれ違わないし」
小鳥と龍樹は今日も図書館にいた。今日は昼を過ぎたあたりから、どうにも王宮の中が慌ただしかった。そもそも、あのマスクが出てきてから騎士たちは気が立っているようだった。今日になって騎士たちが王宮の中を移動しているのを多く見かけたし、つい先ほどは騎士が三人ほどどこかに走っていた。その前に甲高い音が、門の方から聞こえたが、それが自分たちの世界のサイレンのような役割をしているのかもしれないと思いながらも、図書館に籠っていた。ファベルも夕食の時間になったら呼びに来ると言い、いつものように部屋を出て行った。
龍樹は今のこの状況があまりいいものではないことを理解していた。そもそも、あの甲高い音をサイレンと認識しているならば、今が何かしらの緊急事態に陥っていると考えるのが当然だった。しかし、龍樹はその場所から逃げようとはしなかった。この国の騎士がいれば、大抵はどうにかなると考えていたのだ。彼が動くのは小鳥に何か危害が加えられそうになるような事態が迫っているときだけ。この国の危機だから行動するということはまずない。
彼も小鳥と同じように読書をしているのだが、そのページが捲られることはなかった。思考の中で、小鳥を最優先すると考えている中で、この国で様々なことをしてきたことも同時に頭に浮かんできていた。彼にとって大切なのは、小鳥だけであるはずなのだが、ベルシャインとベアトリスと共に過ごしてきた時間を思い出していた。ファベルにはとても世話になっている。この国が窮地に陥るということはフリューのいる店もおそらく、店をたたまなくてはいけないだろう。
その思い出のようなものを、彼は思考で押さえつける。この国がピンチになったり、滅びそうになったら、誰よりも先に小鳥を連れて逃げるのだ。それ以外の選択肢があるはずがない。彼女と共に生きることが一番優先したいことなのだ。それ以外はどうでもいいはずなのだが、どうしても関わってきた人たちの顔が浮かんできてしまう。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
小鳥が龍樹がおかしいことに気が付いた。彼が読書をするときに他のことを考えていることは珍しく、読書の手を止めることはほとんどない。他に何かするときは読書をやめるはずだった。
「ああ、いや、何でもないんだ」
彼の様子が何かおかしいことはわかるが、それ以上は彼女にはわからない。義兄が考えていることを解決する力は自分にはない。それ以上は何も聞けないまま、彼女は読書に戻った。




