古い悪魔 2
店主の言葉に悪魔である彼は、もう一度問うた。しかし、その方法は先ほどより強引で、店主の腕を引っ張り、腕をひねり上げて、無理やり自分の方を見るようにしたのだ。そして、もう一度、同じ問いかけをした。
「すみません。それは何でしょうか」
「なんだ、あんた。これはせんべいというものだ。旅人に教えてもらったんだよ」
「せんべい? それはおいしいのですか?」
「それは、あんたの舌次第だな。それより、いい加減手を放してくれよ」
店主の言葉に大人しく従い、彼の手を離した。彼が手を離したのは、店主にせんべいとやらを作ってもらいたいと考えていたのだ。彼はじっと、店主が作っている姿を見ていた。店主は居心地が悪いものの、その場所から逃げるなんてことはできるはずもなく、せんべいを焼いていた。龍樹たちの世界では当たり前にあるものだが、この世界にはせんべいはなかった。この世界では米と似たような植物を使って作っているため、多少せんべいとは違うものにはなっているが、せんべいと言われれば信じてしまう程度には出来の良いものになっていた。
「まだでしょうか? あまり待つことができないのですが」
「悪いが、すぐにできるもんじゃない。急いで作っても、せんべいにはならんからな」
「そうですか。では、私の興味が尽きるまで待つとしましょうか」
彼は香りを楽しみながら、店主の料理姿を見ていた。その香りに、せんべいがかなりおいしいものだと、期待が膨らんでいく。
しばらく待つと、店主が彼の方に振り返った。
「ほら、できたぞ」
店主は彼にせんべいの一枚を渡した。大きさは掌よりも少し大きい程度のもので、店主が紙のようなものにくるんで手渡す。それを受け取って、彼は香りを楽しむ。
「固いからな。気を付けて食べな」
店主の忠告を聞きながら、彼はせんべいに歯を当てた。店主の言った通りに、多少固いが、顎の力で割れないほどではなく、彼はバリっという音を立てながら、せんべいをかじった。口の中でバリバリと音を立てながら、咀嚼した。口の中に甘じょっぱい味が広がる。そもそも、彼は複雑に調理されたようなものなんて食べたことはなく、甘いとしょっぱいを同時に感じることができるようなものは食べたことがなかった。彼にとって食事は基本的には素材そのものの味を感じる以外にはない。それが今食べたものは、それを遥かに超えるほどおいしいと感じるものであった。
「店主、これは素晴らしいですね。なんて業だ!」
店主は彼の言葉を大げさだと思ったが、褒められて悪い気はしなかった。
「お代は結構。そこまで感動してもらえるとは思わなかったからな」
「いや、ぜひ払わせてくれ。ここまでの技術に対価は支払われるべきだからな。とは言っても、私はこの町で使われている金銭は持っていません。代わりにこれを渡しておきましょう。売れば、そこそこの値段がつくと思いますよ」
彼が出したのは半透明の紫色の鉱石だった。彼もそれを見たことがないもので、それが金の代わりになると言われても信じることはできなかった。しかし、お代は結構といった手前、信用できないから金を払うなら、この国の金をよこせなんてことはいえるはずもなく、彼はその鉱石を受け取った。掌に収まるサイズの鉱石を受け取り、彼はそれを太陽光に透かせるようにして観察していた。不思議なもので、光に透かすと中に小さな光の球が見えた。星空のように光がちりばめられているようなもので綺麗だなと思った。
「ありがとよ。綺麗な石だな」
「ああ、そうでしょう? あなたは見どころがありますね。今度はしっかり金銭を持ってきますから、またよろしくお願いします」
「ああ、また来てくれ」
店主は別れを告げ、去っていく彼をそのまま見送った。人間しかいない国ではあるが他の種族が国の外にいることは知っている。そのため、人間ではない種族が来ても驚くことはない。彼はただの旅人だと思ったのだ。乱暴ではあるが、せんべいを食べて感動している姿を見れば、彼を悪人だと思うことはできなかった。
悪魔である彼はそのまま町の中を観察していた。不躾な視線が刺さっているが、彼は特に気にしていない。彼は基本的には自分以外は自分より下の生物だと思っている。だからこそ、弱者のそういう視線は気にならないし、それが不愉快になるなら、簡単に殺せるのだ。簡単に殺せるということは、それを気にする必要はないということでもある。
彼はそのまま町を歩いて、大きな商店を見つけた。扉が開いていないところを見ると、まだ開店していないのかもしれないと思ったが、中に人がいるのは見えたため、彼は入り口の前に立ち、扉に手をかけた。




