隠しきれない 4
カルトたちがその場所から立ち去ろうとした瞬間、部屋の中から何か音が聞こえた。彼が振り返ると、そこにたった一人の少女が立っていた。彼女は黒いローブを着ておらず、ボロボロというか、衣服が汚れているところを見ると、彼女がこの組織に攫われてここに連れてこられたのは、見ればわかるだろう。彼女はギブラッドの一員には見えない。カルト以外の白いローブはその場から彼を護衛するのを優先しているため、すぐにこの場を離れようとしたのだが、カルトは部屋の中に入っていく。白いローブは彼に意見することはできず、静かに彼の後ろについていった。
「君もここから逃げた方がいいと思うよ。こんなところでぼうっとしているのは時間の無駄だと思うけどね」
カルトの声にハルエラは、彼の方を向いた。衝撃の光景から意識が彼の方へと向いた。彼を見るだけで、パニックになっていた思考回路が少し落ち着いていた。しかし、彼に言葉を返すことができるほどの物ではなく、心も体も弱っている彼女は自らの意思でその場所から動くことができなかった。
カルトはため息をつきながら、彼女の腕を掴んだ。そのまま、彼女の負担などは考えず、腕を引っ張った。彼女は前に転びそうになっていたが、何とか持ち直して歩く。そのまま、彼は彼女を強引に引っ張っていく。
彼らが部屋を出ようとしたとき、カルトはステージに目を向けた。自分でもなぜ、その方向を向いたのか、わからない。しかし、自分の視線の先には何かの石像があった。その石像の台座の部分や足元には、赤黒いしみがついていて、カルトは直感的にそれが、血だと理解できた。彼が視線を向けると、他の者も視線を向けた。その石像に何か違和感を感じていた。彼らはその違和感が気になったのか、その場から誰も動こうとしなかった。その間に、石像が動いた気がした。カルトはそのままだが、二人の白いローブが彼の前に移動する。明らかに石像が動いている。かたかたと石像の乗っている土台が動いている。ほんの少しだけ前後に浮いて、石像が回転している。
「逃げよう」
カルトのその言葉で四人は部屋を出た。部屋を出たところで、部屋の中から大きな音がした。その音に、白いローブの二人が最後尾に移動した。カルト、ハルエラ、二人の順番で廊下を走り抜ける。ドアを開いて、外に出た。
「もし、あの石像が動き出しているとすれば、僕らはもうこの町にいない方がいいだろうね。あれは、人じゃ敵わない。あれは、悪魔だよ。それも古い悪魔だ。石像になってるということは、倒せなかったからこその、苦肉の策だ。だから、僕らは逃げることにするよ。君はどうするのかな。僕らと行くなら、多少は面倒も見よう」
カルトは、彼女の現状を説明していた。彼がそこまで説明している理由は、気まぐれに彼女を助けたが、彼女が仲間にしたいと考えていたからだ。彼が自分から声をかけることはまれだ。今、彼の横にいる二人もそうだが、カルトのメンバーでも五人ほどしかいない。そして、彼が仲間に入れと誘えば、その提案を断ることは難しい。彼の超能力は、誰の敵にもならないというものだ。そして、その超能力を彼は使いこなしていた。敵にならないということは、誰に対しても友好的な言葉をかけるだけで、信用されやすいということになる。初対面でも、好印象になりやすいというのは交渉する上では中々に強力な力ではあった。
しかし、彼女は初対面の彼よりも、この町には絶対に守りたいものがあった。彼女は、カルトに恩を感じてはいるが、それを上回るほどに恩という言葉を超えた繋がりのある人がいるのだ。
「助けてくれたことは、本当に感謝してる。だけど、この町には私の大切な人がいます。だから、貴方にはついていけない」
彼はその言葉を受けると、ふっと口から吹くように笑った。彼の超能力のせいで、誘いを断るのは難しい。しかし、その誘いを断るということは、どれだけ誘っても無駄だというわけだ。そして、自身の誘いを断った人間は、、確認している人は全員、ハッピーエンドを迎えている。彼女は捕縛されていて、心が折れかかっていたが、おそらく、それを大切な人に関わることなのだろう。
「わかった。いくら誘っても無駄だろうし。だけど、この町はあの石像に封印されていた奴によって壊される。君も信念があるなら逃げることをお勧めするよ。絆はこの町でなくとも続く。君が思い続けるかぎりは、ね。……僕が言わなくてもわかってるか」
彼は珍しくニコリと笑って、彼女に背を向けた。彼が歩き出す前に、彼女の方へと振り返って、じゃあねとだけ言って、白いローブを連れて歩き出した。




