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隠しきれない 3

 一人だけの白いローブの男に、黒いローブは誰も手を出すことはなかった。全員がナイフを手に持っているというのに、それを彼に突き立てようとするものはひとりもいなかった。


 動けない黒いローブの中を、一人だけその間を抜けて、移動している人がいた。彼も黒いローブを身につけていて、フードも目深に被っているため、顔は見えない。それは誰も動かない中、一人でカルトの前に出た。


「これは貴方がここまで来るとは思いませんでした。こちらかの攻撃は全くしようがありませんね」


 ただ一人喋る黒いローブの声は、低く多少ハスキーな声だった。声を聴く限りでは、男性で五十くらいだろう。彼も周りの黒いローブと同じように、武器を構えているわけではなく、敵意があっても彼に危害を加えることはない。


「初めまして、だね。僕らは敵同士だからか、お互いのことはほとんど知らないからね。どうだい、少しお喋りでもしない?」


 白いローブは全く彼らの敵意をくみ取ることなく、そんな提案をした。黒いローブの顔は見えないが、彼の無神経さに声も出ないのか、彼の言葉には何も返さなかった。


「この距離で無視とはひどいね。まぁ、敵対してるから仕方ないかもしれないけど。それで、僕の仲間がくれば、君たちは簡単に死んじゃうけど、どうする? 逃げるなら今だけだと思うよ?」


「はっはっは。逃げるなど。貴方を前にして逃げるなんてことは絶対にありえません。貴方でなくとも、我々が勝てない脅威が出たときの手段は一つだけですから」


 彼はカルトに背を向けて、そこに残っている皆の方に向き直った。


「それでは、皆さま。我々の最後のあがきの時間になってしまいました。我々を最後の供物として捧げましょう」


彼の言葉に黒いローブを着た者全員がカルトに向けようとしていたナイフの先を自身に向けていた。その行動に例外はなく、その構えの先に来る未来なんてものは誰だって予想できるだろう。だが、それを理解する前に、ナイフの先端がそれぞれの首に突き立てられて、首を掻っ切った。自身でそのナイフを抜いて倒れこむ。ナイフが地面に落ちることで、カランという音がいたるところでなっていた。うめき声と隙間風のような音が混ざり合い、気持ち悪くなるような音が部屋の中に広がっていた。そして、すぐに部屋に血の匂いがし始めた。


 ハルエラはその様子を見てしまい、気分が悪くなる。眉を寄せて、その場に膝をついて崩れ落ちた。目の前の光景はあまりに凄惨で、彼女でなくとも一般市民であれば、その光景に耐えることができるはずがない。大勢の命がこの場で消えた。その音と匂いが現実として、自身の感覚に交じってくる。


「なるほどね。自害か。いい手段かもしれないね。でも、それでどうするんだい? 君だけ残って何ができるんだ」


 カルトは目の前の惨い状況を見ても、その話し方も雰囲気も全く変わらなかった。それどころか、この状況を楽しんでいるようにも見える。相手は明かに人数が少なくなって、ピンチになることはわかっていたはずだが、それでもこの状況を改善できる可能性があると考えていたから、この状況を作ったのだと考えていた。


「……そうですね。どうせ死ぬので、一つお教えしましょう」


 カルトの前に立つ黒いローブが何かを言おうとしたところで、カルトの後ろに二人の白いローブが到着した。


「すみません。外のギブラッドは全て殺しました。タカの確認も済んでおります」


「そうか。だとすれば、こいつがギブラッドの最後の一人というわけか。……で、何を押してくれるって?」


「そうか、最後か。では、これはただの賭けだな。……この黒いローブは中の人間が死んだ後に残った全てのエネルギーが供物となり、かの方の下に集まるようになっているのだ。つまりは、お前たちが殺した我らは全て、供物となっているわけだ。そして、私が最後の供物となる。これで、あの方が蘇れば、この国を滅ぼしていただくのだ!」


 彼は最後に大声を上げた後に、自身の首にナイフを突き立てて、首のど真ん中を突き刺した。すぐにナイフを抜いて、苦痛を感じるような死に方を選んでいる。血が流れて、のどの内側を伝い、肺の方へと入っていく。血に溺れて、彼は苦痛の中で絶命した。いつの間にか、部屋の中にあった苦痛の音もなくなっていて、血の匂いもなくなっていた。五感を刺激するものだけでなく、ローブの中にあったはずの死体もそこにはなくなっていた。今、部屋の中にあるのは、ハルエラとカルトたち、ただの黒いローブだけだった。


「死んだか。ギブラッドの最後はあっけなかったね。僕らの作戦もこれで終わりだ。これで、僕らの活動に集中できる」

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