小悪ですら 3
二人がいなくなった学園では、学園に通う市民からある噂が上がっていた。小鳥と龍樹の話と入れ替わるように広がる噂。まるで、二人の噂を消すために誰かが仕組んだような話の流れだが、二人の知り合いも生徒や教師の誰もその噂を流してはいない。ただただ、町で起こった事件が市民の中で広がっていっただけだ。
「マスカレードだっけ? 振ってきた金を一緒にそう書いてあったって」
「俺は、実際に見たよ。大通りや広場の上の、何もないところを飛んでたんだから」
噂の主人公はマスカレードという人物のようだった。この町ではあまり見ない、タイトな見た目のパンツと、紺色のベストと白いシャツをつけたような見た目で、何より奇抜な目だけにかける仮面をつけているのだから、一度見れば、そのインパクトは大きいだろう。そして、その人物は町に金を落として歩くというのだから、もはや何がしたいのかわからない。ただ、犯罪者組織が多いこの町では、生活できないほどの被害を受けている者も少なくはない。彼が落とす金を拾えば、贅沢はできないが、日々を周りの人と同じくらいの生活はできるようになる。元気になれば、また働くこともできるのだ。その金を誰かが独り占めするかもしれないかもしれないが、未だにそういうことは一度も起こっていないようだ。
そして、その話の主人公は、学園にいた。少し前まで目立っていた人たちの内の、噂の中心になっていた二人は既に学園にはいないことは既に知っているが、彼らを引き留めたい気持ちはあった。彼らが目立っていれば、自分に注意が向く可能性を低くできたかもしれない。ただ、彼の持つマスクは装着した人が誰なのかを認識させないようにする効果を持っている道具だ。町で格好いいからという理由で購入したものがまさか、そんな力を持っているとは思わなかったのだ。自分が自分だとわからないようになるのであれば、何でもできると考えて、最初は悪いことでもしようと考えていたが、そのマスクをつけたまま、転んで荷物をばらまいた人を助けたのだ。その時の感謝が今の彼のマスカレードの始まりといえるだろう。
彼が町で金を配ることができるのは、稼いでいるからではなく、王宮に忍び込んで、宝物庫から高価そうなものを盗んで売っているからである。まともな町なら盗品を売るのに、苦労するかもしれないが、この町では盗品だろうが、珍しいものや高価なものであれば、苦労もせずに売ることができる。さすがに表で商売している人たちには売ることはできないが、少し路地の中に入れば、盗品であろうと、簡単に大金になるのだ。そして、それをばらまいて、町の人を救っていることに快感を覚えていた。前に、独り占めしようとした人間がいたため、事前にそういう人は気絶させて、奴隷として裏の商人に売り飛ばした。
彼は学園ではただの生徒であり、目立つようなことはしていない。今日も学園で授業を受けて、友人とご飯を食べて、授業が終われば、学園を出て町に戻る。そういう周りと大して変わりのない生活をしているのだが、マスクをしていない彼が周りの人と一つ違う点があるとすれば、町の大きな広場から離れた町の端の辺りにある孤児院を支援しているというところだろうか。
孤児院を支援するだけ稼ぐことが楽になった彼は、前から持って行っていたものよりも多く持って行った。しかし、多すぎても、消費しきれないものもあると思い、多くしたと言っても、前から見れば、多少羽振りがよくなったといわれるくらいだろう。多いことには気が付くだろうが、それは常識の範囲内。
「カイ兄ちゃん! 今日も持ってきてくれたの?」
孤児院の子供たちが、大量の荷物を持った彼に気が付いて寄ってくる。子供たちが彼の持つ荷物を奪い取り、彼が運ぶのを手伝っていた。一人が来れば、まだまだ子供たちが続いてきて、彼が持ってきた荷物も軽くなる。
「センセーっ、カイ兄ちゃんから!」
カイを置いて子供たちが元気に、孤児院から出てきた院長に寄っていく。それぞれ、持ってきたものを彼に見せて、中に入っていく。カイの持ってくるものをいつもおいておく場所が決められているため、子供たちもそこに置きに行ったのだ。
「いつもありがとう。本当に助かるよ」
院長は穏やかな声で、そういった。それもそのはずで、孤児院に寄付するものなど、この町にはいないのだ。自分の生活で精一杯で他人のことなど気遣えるはずがない。その中でもカイだけはいつも、こうして少しでも支援してくれる人物なのだ。彼は、学園で勉強してさらに稼いで、孤児院を助けたいと言ってくれているが、院長は彼がそこまでしてくれる理由は知らない。孤児院に関わっている者は大抵、何か事情を抱えているものだ。彼にもそういう理由があるのだと考えているが、それを聞くことはできなかった。




