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小悪ですら 1

「なんだよ、何なんだよ。ふざけんな、くそ」


 吹っ飛ばされた敵の声は、弱弱しいものになっていた。腕はもう上がらないし、立ち上がろうとすれば、体が痛むのだ。つい先ほどまでは優勢だったはずなのに、今地面に背中をついて、見降ろされているのは自分。なぜ、そこまでのことが怒っているのか、全く理解できない。自身の方が強いはずだったのだ。それを簡単に凌駕されているというわけだ。認めたくないという心が今も、男の思考力を奪っていた。


「さぁ、死んでもらおうか」


 龍樹が吹っ飛んでいった男に近づいていって、冷たい視線で見降ろしていた。敵は小鳥を狙ってきていたのだ。彼にとっては死んで当然の人間たちだ。だから、龍樹は確実に彼を殺そうとしていた。それも、簡単には死ねないように、熱光線の魔法を準備していた。それを本人しか認識できないような速度で、相手の手の甲を打ち抜いた。吹っ飛ばされてから、ずっと地面についていた手の甲が地面ごと穴を開けられていた。熱光線というだけあって、相手の穴の開いた手からは血が流れてこない。肉が焼かれて、傷がふさがっているのだ。


 男は目の前にいるのが、人間ではないと悟る。種族としては人間かもしれないが、相手の実力も心も自分とは違う。でなければ、こんなことができるはずがないと、自分のことを棚に上げてそう考えていた。彼の思考を乱すように、もう片方の掌に熱光線の魔法がぶつけられて、肉が焼ける音と、何かが焦げたような匂いが、一瞬、男の嗅覚を刺激する。それが自身から発されている匂いだと気が付きたくないと脳が拒否しても、状況からしても自分のものでしかないとわかってしまう。


「ま、待ってくれ。お、俺が、俺が悪かったから、これ以上は何もしない……」


 男は口から命乞いの台詞を吐いているが、彼はその言葉に耳を傾ける気がなかった。それもそのはずで、小鳥に手を出す奴を人として捉えていないというのもあるが、龍樹は目の前の男が、同じ台詞を言われても許すとは考えられないとも考えていた。そして、それは事実だった。男は自身の台詞をどこかで聞いていたような気がしていた。考えるまでもなく、彼の脳裏には自身がいじめてきた人間の姿が思い浮かぶ。その人たちを脅して、色々なものを奪った。それに後悔したことはなかったはずだった。強い奴が弱い奴から奪って何が悪いと考えていたのだ。しかし、今、自分が弱い奴の側にいることを思えば、その人たちの心を理解した気になっていた。


「本当に、これから心を入れ替えるっ。俺がどれだけ――」


 男の言葉の途中で、喉が焼かれた。それも即死するよなものではなく、ぎりぎり呼吸ができるような、窒息ぎりぎりの状態を保っているような、そんなかなり苦しい状態。男が呼吸すれば、どこかから風が通り抜けるような音がする。もはや、喋ることもできない。声は言葉にはならず、風が抜ける音がするだけ。口をパクパクと動かしているだけで、龍樹には音が何を言っているのかわからなかった。それを面白がっているわけではなく、相手の苦しがっている顔を見て、どれだけ反省しているのか考えていた。


「どうせ、言葉だけだな。ここから回復しても、あんたはまた悪事を働く。人は瀕死になった程度で、その気質が変わるとは思えない。だから、あんたはもうすぐ死ぬんだ」


 彼は熱光線の魔法ではなく、風の魔気を使って、刃を形成して、相手の肩の辺りを切った。熱と痛みが肩の辺りあるが、彼はそこに視線をやるので精いっぱいだ。もはや、逃げだす気力も体力もない。彼が意識を手放そうとしても、龍樹が痛みを与えることによって、意識は落ちきることがない。龍樹に殺してくれと口を動かしても、聞き取られることはなく、彼は苦しんだまま、絶命した。


 龍樹はその死体を、地面の中に埋めることにした。敵のグロテスクな死体を小鳥に見せるわけにはいかない。彼は、敵の倒れている地面に魔法で穴を開けて、重力に退かれるまま、死体は地面の中に落ちた。その上から、魔法で土をかけて、元の通りに石畳のようなものを復元した。


「う、うぅ」


 彼の後ろで、先ほど気絶させた男が目をうめき声をあげて、目を覚ましかけていた。龍樹はその顔を再び蹴り飛ばして、意識を落とした。彼はリーダーを見せしめにすれば、それ以上は逆らわないだろうと考えていた。それは元の世界でそうだったからだ。不良グループをまとめている奴をめもあてられないほどボコボコにしたこともある。そうすれば、その仲間たちは逆らおうとはしなくなる。


 周りを見れば、戦っていた他の者たちも戦闘を終えていた。

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