目立つだけの悪 6
龍樹は魔法のみで戦うという縛りで戦闘していたことに気が付いて、相手の一人を様々な格闘術を組み合わせて倒した。そして、それを最後に残った太い男は、目の前の敵が手を抜いて戦ったいたと感じていた。それも無理はない。一人で戦っているのに、魔法のみで戦うなんて馬鹿げた戦い方をしているというのだ。自分の実力を侮っていると感じるのも無理はないことだろう。だが、龍樹にはその常識がなかった。
そんな状態で、先に無警戒に動いたのは太い男だった。しかし、その速度は先ほどよりも上がっていて、一瞬で距離を詰めた。その勢いのまま、龍樹に向かってパンチを出した。その速度に驚いていた龍樹だが、回避できないというわけでもなく、彼は最小限の動きで回避した。敵の攻撃の風圧が体の一部にかかるが、それが負担になるわけでもない。その風圧で敵のパンチに当たれば、それだけで大怪我を負うだろう。
「なめてたのは、お前も一緒だな」
彼は相手との距離を取ったが、先ほどと同じ速度で、距離を詰められた。再び、同じ攻撃をされるが、彼も再び回避した。彼が反撃しようとしても、敵が動き出す方が早い。彼は何とかして、攻撃できる機会を作り出さなければいけないと考え始めた。
「どうした。躱すだけじゃ、俺は死なねぇぞ!」
敵はそう叫びながら、彼に拳と足を混ぜた連撃を彼に当てようとしている。祖の連撃の速度はその見た目からは想像できないほどの連撃だ。さらにその威力は見た目通り、一度でも攻撃が当たれば、そのあとの連撃で瀕死になるのは間違いないだろう。だが、彼にはそうなるつもりはなかった。いくら速度のある連撃であっても、不可能な動きはしないのだ。右に振った手が右に戻る前に、右から再びパンチが来るわけではない。相手の動きを見て、追うことができている以上は次の攻撃の予想ができるのだ。龍樹の近接攻撃だけの戦闘経験は五年以上あるのだ。彼が仕掛けたわけではないが、絡まれたら確実に相手がギブアップするまでボコボコに殴っていたのだ。今の目の前の敵ほどではないが、かなり速度のある攻撃をしてくるものもいた。それ以外にも独特な戦闘方法を取るものもいたのだ。ただただ素早く連撃を出すだけの相手は彼にとっては、特殊な相手ではなかった。元の世界での経験が、この魔法の世界で通用するとは思ってもいなかったが、魔法だけで戦っているわけではないと知った今は、当然と言えば当然かもしれない。
そして、相手の攻撃速度にも慣れてきて、相手の隙も大きく見えてくる。彼は威力と速度、どちらもあるということは、それを利用しない手はないだろう。彼はタイミングを計りながら、相手が伸ばしてきた足を取る。その足を自身も前に向き直るように半回転しながら、足を持ち上げてひねった。相手は体勢を崩し、足を凄い力で引き戻そうとしたが、彼の力の方が強いようで、足を戻すことができなかった。当たり前のようにバランスを崩して、手を地面について、臀部を地面に強打した。相手が体勢を崩したところで、足から手を離し、相手の方に向き直る。相手が転んだということは、相手の頭が低いところにあるということである。左足を軸にして、右足で蹴りを放つ。地面についてない方の手で蹴りをガードしていたが、一回だけで終わるはずもなく、右足でさらに何度も左右から蹴りをぶつける。足の甲と、踵が敵に何度も襲い掛かり、敵が両手でガードしても衝撃は蓄積し続ける。さらに、相手が立ち上がる隙も与えないほどの足技のせいで、相手は防御するしかない。連撃とは言え、攻撃はワンパターンで、左から右、右から左と足を動かしているだけ。頭をそこまで使う必要がなくなれば、今の状態でも簡単に魔法を使うこともできる。
彼は蹴りで相手を押さえつけながら、単純な発火の魔法を使用する。自身の足がぶつかったところから相手の体に火が付くように魔気を移動させて、蹴りを強化する。その場に自身の魔気が充満していない状態であるため、彼は自身の体を起点にしてしか魔法を使えないが、蹴りがぶつかる瞬間であれば、ほぼゼロ距離で魔法をぶつけることができるというわけだ。蹴りだけなら、相手はもっと耐えることはできただろうが、魔法も使えるとなると、耐え続けるのは難しい。相手は目の前で着く火に体が勝手に後ろに下がっていき、防御の控えめになっていく。そんな状態になれば、どれだけ強い相手であっても、脅威にはならないだろう。彼は止めといわんばかりに、足を引いて、太い男に思い切り蹴りをぶち当てた。その衝撃は防御も貫通して、相手を後ろに吹っ飛ばした。




