魔法の使い方 5
「お疲れ様でございました」
授業が終わると、訓練場の外にファベルが待機していた。ずっとそこにいたかのような佇まいだが、おそらくこの場所に来たのは、授業が終わる数分前だろう。
「一度、お部屋にご案内いたしますか。それとも、図書館やこの訓練場を引き続きご利用になりますか」
龍樹はこの世界に来る前から、本というものが好きだった。それは物語でなくとも、本があれば生きてけると考えるほどの読書中毒者だ。そして、小鳥もそんな義兄の姿を見て読書に傾倒していった。この世界に来て、自由に本を読んだことはない。この世界に来て二日目。一日目には読書をする余裕なんてなかったのだ。
二人はファベルの問いに視線を合わせると、頷いて意思疎通をしていた。
「じゃあ、図書館で本を読ませてください」
「わかりました。では、夕食時にまたお呼びに上がります」
ファベルはそういうと、その場から去っていった。
「優秀なメイドさんだけど、不愛想ですよね。彼女は」
去っていく彼女の背を見て、セレナルがそう呟いた。それは二人に問いかけているのかいないのかというような声量だったが、二人には聞こえていた。だが、それに返事をすることなく、二人は図書館に入っていく。セレナルもそれに続いて歩いていく。龍樹と小鳥は、図書館に残り、セレナルは二人にまた明日と別れを告げて、図書館を去っていった。
改めて、図書館を見た。その様相はなかなか、ファンタジー的で、天井まで届くほどの本棚が並べられていて、そこには本が綺麗に並べられている。二階への階段も
あり、吹き抜けの部分には二階の天井に届くほどの本棚がいくつかおいてある。二階部分にも本棚が並んでいた。どういう本の分け方になっているのかわからないが、それでも異世界の本というだけで、二人にはものすごい価値のある本であることは確かだった。
「それにしても、すごい本の量だね」
「ああ。俺たちの世界にも、本屋だったら、こういう見た目のは見たことあるけど、図書館では見たことないな」
「うーん、どれから読めばいいんだろ……」
小鳥が近くの本を半分ほど引きだしてタイトルを見た。彼女の眼には魔獣図解と見えるが、実際には異世界の言葉で文字が書いてあった。彼女は魔獣という言葉に反応して、その本を棚から引き出して開いた。
「おー、お兄ちゃん。この世界、魔獣もいるみたいだよ」
彼女の言葉に惹かれて、龍樹も彼女の持っている本を見た。そこには、見た目は動物に近いが、見たことのない動物が描かれていた。見た目には狼のように見えるが、人よりも大きいようだ。
「う、る、ふぇん。ウルフェンだって。なんか、結構怖いね。この絵」
イラストはデフォルメされていたり、アニメのような絵ではなく、かなりリアルな絵になっている。鋭い牙を読者の方に向けて、おそらく威嚇しているような絵。
「中々、リアル。お兄ちゃんは図鑑ならこういう方がいいと思うけど」
「わ、私もそう思うよ。ただ、怖いって思っただけだもん」
彼女は少し頬を膨らませながら、その本のページをぱらぱらと捲る。魔獣は獣だけというわけではなく、虫や魚に似ているものもいた。そして、どの生物にも似ていないものもいた。ぱらぱらと見ているだけでは、魔獣がどういうものなのかわからず、小鳥が本を閉じようとしたところで、龍樹が最初のページを開いた。そこから数ページ進むと、魔獣についての情報が書かれたページが出てきた。長々と文章が書かれているが、要約すれば単純なことだ。
魔獣を見たらまず逃げる。魔獣の特性を理解して、対処を覚えてからでもできるだけ戦わない。どうしても戦わないといけない時には、対処を知っていても油断しない。そして、この本に書いていることが全てではない可能性も考慮すること。
そんなところだろう。つまりは、元の世界で、なんの武装も知識もない人間が野性の動物に敵わないのと同じなのだろう。おそらく、魔獣は元の世界の動物よりも厄介な強さを持っているようだ。魔法を使うことができても楽勝で勝てる相手ではないのだろう。実際に目の当たりにすれば、その怖さもわかるだろうが、二人は野性の動物にあったこともない。元の世界の彼らの住んでいた国では、基本的には飼育されている動物しか見ることはないだろう。動物の怖さを画面越しでしか知らないのだ。魔獣に関しても二人の認識はその程度だ。実際にあったら逃げようとそう考える程度だ。
小鳥がその本を閉じて、元の位置に戻した。それから、本棚の間を歩きながら、背表紙を見ていく。そのうち、時間が経っていて、ファベルに呼ばれて夕食をとることになった。




