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怪異の道  作者: 秋月煉
3/3

結局、車を近くに持ってきて、この場で待つ事になった。運良く、空き地があったからだ。車を止めるには十分な広さ、見通しも良いため、ここになったのだ。既に時計は、16時を回っていたのもある。近くのコンビニで、お弁当を買い、さっさと済ませると、私は車の中で休ませて貰った。

また、怖い目に合うのが、嫌なのもある。あの日の出来事を思い出すだけで、ゾワゾワし、鳥肌が立ってくるのだ。

社内には、椎名さんだけが残った。


「大丈夫ですよ、恐らく、車には近寄らないはずです」


椎名さんに言われたので、少し安心したのもあった。確かに、車には、立派なお札が飾ってあって、安全な気がしてくる。


「うーん、暗くなって来ましたし、そろそろ来るかもしれないですね」


そう言った椎名さんに、私は不思議に思った。言い方に引っ掛かった、とも言える。“来る”が、何に対してなのか、が分からなかったからだ。

とはいえ、時間は進んでいく。辺りは真っ暗一歩手前で、何とか輪郭が分かるか、というくらいの暗さ。そんな時、遠くから眩しい光と共に、白いワゴン車が見えた。あの眩しい光は、車のヘッドライトらしい。


「あれ・・・」


車の中に居る私は、妙に見覚えがあった。同じく車に入っていた、椎名さんもそちらを見ていた。


「来たみたいですね」


どうやら、椎名さんも、榊原さんも、あの車について、何かを知っていたらしい。


「さぁ、鈴木さん、行きましょうか」


「えっ? 行く?」


戸惑う私を余所に、椎名さんはさっさと車を降りて、私も慌てて付いていく。椎名さんの先には、確かにあの日、私が乗った白いワゴン車があり、外に居た榊原さんと話していた。車のライトの他に、カンテラタイプのライトや、懐中電灯もあり、人の顔を見るには、随分な明かりだ。


「あ、来たわね? 鈴木さん、彼女に覚えはある?」


急に言われて、榊原さんの隣に居る彼女の顔を見て、確信する。


「あっ・・・」


あの時の人だ。親切に車に乗せて、送ってくれた人。


「あの時は、ありがとうございました!」


お礼を言いたかった人だから、会えたのは、本当にありがたい。と、私は頭を下げているのだが、彼女の様子がおかしい。


「い、いえ・・・元はと言えば、私のせいでもあって・・・」


気まずいのか、視線をさ迷わせる姿に、私は首を傾げるしかない。訳が分からず、榊原さんへ困惑した視線を向けると、此方は何かを察したのか、呆れた視線を彼女へ向けていた。


「詳しく説明するわね? あの日、彼女は依頼を受けて、ここへ居たのよ、そしたら偶然、鈴木さんと会って、危ないから貴女を安全と思われる場所へ、連れていったらしいんだけど・・・」


彼女の説明に、幾らか疑問が残った。


「あの、依頼内容を伺っても、いいでしょうか?」


そう、私が聞いたら、彼女は、半場諦めたように、素直に頷いた。観念したような、潔さである。


「えっと、私、こっちに居る榊原さんの親戚筋で、榊原 江利えりと申します、実は依頼は、この先にある集落から、水田に変なモノが出るから、解決してほしいというものなんですが・・・でも、中々上手くいかなくて、そんな中に貴女が来て、その・・・・・油断した時に、貴女がアレに襲われて、何とか助けたんだけど、エサ認定されてるし、家とか分からないから、安全な神社に私の式神を置いて・・・、その、危ない目にあわせてごめんなさいっ!!」


ガバッと頭を下げる、江利さん。ちょっと滅茶苦茶な説明な気もするが、取り敢えず、まとめるとだ。

江利さんは、この先にある集落から、依頼を受けた。それは、水田に変なモノが出るから、解決してほしいと言うもの。数日粘るが成果が出ず、そんな時に私が迷い混み、安全だろう、あの森林奥の塀の辺りへ送ったら、まさかの襲われてしまい、モノを撃退はしたが、エサ認定されてしまっており、危険だから、安全な神社に運んで、式神を控えさせたらしい。

しかし、私が探偵事務所に頼んだ事で、ちょっとマズイ事態らしいのは、江利さんの顔を見て分かってしまう。


「つまりは、この子の不手際で、鈴木さんは怖い目にあい、うちを頼る羽目になったわけ」


榊原さんが、綺麗にまとめたが、一つ気になる単語があった。


「エサ認定て・・・」


顔から、血の気が引いていく。嫌な感じに、心臓がバクバクと音を立てていて、煩いくらいだ。急な事に、頭が追い付かなくてクラクラする。


「本来ならば、フォローしなきゃいけないのに、まったく・・・」


怒り心頭な榊原さんに、江利さんは先程から項垂れている。余程の事態なんだというのは、知らない自分から見ても嫌でも分かる。


「今回、我々はこの子の依頼に手を貸さないといけないわ、じゃないと、鈴木さんの依頼に、応えられないからよ」


今一良く分からないが、とにかく、江利さんは下手を打ち、どうも、榊原さん達が協力するらしい。多分、尻拭いとか、そんな感じのニュアンスに聞こえた。


「あの、エサ認定て・・・どういう?」


右腕にある、紫色の幅広いアザ。これがエサ認定の根拠だとしても、訳が分からない。私への説明は、椎名さんがしてくれるらしい。


「そのアザを付けられてから、鈴木さん、地味に色々ありませんでした?」


うん? 急に聞かれて、ふと、色々思い出した。爪をぶつけたり、躓いたり、忘れ物や、タイミングが合わなかったり、ーーーーーあの日から、地味についてない。一番は、嫌な夢。怖い夢とか、恐怖を感じたりとか、そういうのが無いため、地味に嫌な夢なのだ。内容も覚えてないから、後味が悪いだけ。


「ありましたけど・・・」


「それ、アザのせいなんです、エサ認定されると、印みたいに付けられちゃうんですよ、その副作用でか、付けられた側は、色々と起きてしまう訳です、強い個体だと、大変な目に合う場合もあって、だからこそ、放置はダメなんですよ」


何とも言えない。何せ、地味に嫌な目に合うくらいだから、明らかに私が遭遇した輩は、あまり強くないのかもしれない。


「さて、美鈴? どう?」


今まで、静かにしていた神戸さん。どうやら、例のモノを探していたらしい。何でも、彼女が一番強く見えるそうだ。・・・・・色々と。


「居ますね、明かりを嫌がってますけど、間違いなく近くに居ます」


ハッキリ、断言した。物静かな、今時の若い子、という感じがしたが、やはりこの子も、そちら側の人なんだと感じた。


「あら、ならば式神に頑張って貰いましょう?」


榊原さんのニヤリとした顔が、妙に印象的だった。対して、江利さんは、明らかに顔色が悪い。その理由は、多分だけど、親戚の榊原さんが怖いから、なのかもしれない。

残念ながら、私には見えないが、見える皆さんは、彼方此方へ視線が動いていた。序でに、何だか暖かい風やら、突風やらも感じる・・・。意味が分からず、固まるしかない私だが、先程から鳥肌が止まらない。背筋がゾワゾワし、本能の部分が警鐘を鳴らしているような、そんな恐怖を感じるのだ。


「なんなの・・・?」


怖くて、逃げ出したいのに、体は上手く動かない。ただただ、恐怖という感情が顔を出すのだ。


「鈴木さん? あらやだ、呑まれちゃったんですね」


椎名さんが気付いて、何か呟いたら、急にフッと体が楽になった。先程までの、全力で鳴らした警鐘は無く、本当に楽になったのだ。急な解放に、私自身が追い付けなくて、キョトンとなった程に。


「終わったわよ~」


機嫌良く我々を呼ぶ榊原さんの隣には、半べそをかいた江利さんの姿があった。ガチで怖かったのか、ランプの明かりでも分かるほどだった。


「怖すぎですよ! 真由合さんっ!! ちょっとはこっちも気遣って下さいよ!」


その言葉に、先程の江利さんの顔色の悪さ、その理由に思い当たった。親戚ならば、戦い方を知らない訳がないのだ。恐らく、かなり豪快だったのだろう・・・。怖いとガチ泣きするくらいには。


「さぁ、これで消えてるはずよ?」


満面の榊原さんに促され、右腕にある幅広いアザを見る。そこには、確かにあのアザは無かった・・・。


「無い、無いわ!」


あんなに濃く、ハッキリしたアザだったのに、まるで手品のように、消えてしまった。化かされた気分である。


「フフッ、これで依頼達成ね?」


お茶目な榊原さんが、妙に印象的だった。私の依頼は、こうして無事に解決したのである。江利さんのメンタルが犠牲となったが、まぁ、いつもの事らしいので、無事に解決でいいだろう。なお、後日、お祓いをされた水晶のブレスレットが送られて来た。くすんでいた輝きが戻り、美しい姿に戻っていた。

まるで、夢を見ていたかのように、私は日常に戻っていた。


◇◇◇◇◇


「いやぁ、無事に解決して良かったよ! 彼女、男嫌いって聞いてたからね、それにしても、まさか尻拭いとはねぇ・・・」


事務所で、田原所長が榊原さんと話していた。依頼解決の報告に来たのだ。


「あら、あの子には良い経験となったはずよ? だって・・・」


危うく依頼人は、死ぬところだったのだから。皆まで言わなくても、田原所長も分かっているから、頷くだけだ。そもそも、あのアザは、かなりの瘴気を放っていた。いくら頼まれても、まだまだ新任の矢上では、着いて来ても、足手まとい決定だっただろう。


「見えないって、羨ましいわぁ・・・」


見えない彼女は、プレッシャーのような、危機感を感じた“だけ”で済んだのだ。それだけで済んで良かったとしか、言いようがない。

ーーーーー例え、今回のモノが、大口を開けて、依頼人を食べようとしていたとしても、見えない彼女には、関係ないのだ。

・・・・・だって、見えないんだから。


「・・・・・本当に、羨ましいわ」


そう呟いた榊原さんの表情は、何処か冷たいものだった。

見えないからこそ、彼らは平然としていられるんだから。見える側の視界など、彼らは思いもよらないだろう。苦労も、弊害も・・・。

彼らの日常は、自分達には非日常なんだから。



無事に終わりを迎えました。

ここまでお読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m

此方で出した皆さんは、秋月が書いている別作品にも出ております。気になる方は、霊感探偵を読んでみて下さいませ。


それでは、また別の作品でお会い出来る事を祈って。


秋月 煉

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水田に出現する見えない「モノ」にエサ認定されていたとは(汗 全然大丈夫じゃなかったw 鈴木君も霊障というか影響受けててましたが、浄化もしてもらったようです。 とりあえず事件は解決、最後の「…
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