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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第三章~魔女の庭の片隅に~
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4.呪いと妖精

 ザンバラだった髪は、整えてもらうと割と短くなった。左側の側面だけ妙に長かったので、アンは左のサイドを長く残し、三つ編みにすることにした。

 お店で買った小さなガラス玉で飾られた髪どめを付けると、更に「魔女のコスプレをしている女の子」の様相は濃くなったが、アンとしてはちょっとオシャレをしているだけのつもりである。何せ、本当に箒にまたがって空が飛べてしまうのだから。

 賑わい始めた大通りを、ビュッフェがあるほうに移動した。前払い制、制限時間二時間のお代わり自由で、食事をお腹いっぱい食べたいときには便利なお店だ。

 代金を払い、トレーの上に大きなプレートとカトラリーとスープ皿とカップを選び、それ等に食べたいおかずを乗せて行く。

 ポテトサラダ、スクランブルエッグ、冷製パスタ、一口大の煮込みハンバーグ、茹で豆、ピクルス、炒めたベーコンとホウレン草、干しブドウを練り込んだマフィン。コンソメ風の野菜スープは火を通した玉ねぎの香りがする。

 主食はロールパンとバターを選んだが、パンケーキもあると知って、その時すでに隙間の無かったトレーの上に無理やり乗せ、壺の中からすくい出したメイプルシロップをだらりとかけた。

 シナモンの香りのする紅茶をカップに注ぎ、開いている席に座る。

 嗅覚で吟味すると、色んな食べ物がごちゃごちゃと盛りつけられているのに、胃袋がキューッと絞られるような、期待感を持たせる良い匂いである。

 まずは、山盛りのプレートの上の天辺に乗っていたパンケーキに、フォークとナイフを立てた。


 しっかりと昼ご飯を済ませてビュッフェを後にすると、通りの向こうから女性が叫ぶ金切り声が聞こえた。

 封印(シール)されたお菓子屋さんの前で、店のドアを蹴り飛ばしながら騒いでいる人が居る。様子が変だと悟った近所のお店屋さんが、木製のドアを破壊しようとする女性を止めようと、声をかけ、宥めていた。

 アンも何の騒ぎだと思い、野次馬心を出して店に近づいた。騒いでいる女性は「呪いをかけられた」と繰り返し叫ぶ。

 奇しくも、攻撃を受けていたのは、先日のアンがスフレチーズケイクをもらった、マンマ・ペポカボチャの扉であった。

 そして、宥めている人達の周りにいた「女性の叫んで居る事を聞いていた人」から聞くに、マンマ・ペポカボチャのお菓子職人である人物が、この女性の夫を誘惑する手紙を出し、女性が手紙を破ったことで夫に呪いがかかった、と言うのだ。

 アンは邪気の性質を思い出して、手紙を破ったのがこの女性であったなら、邪気は女性のほうに向かうはずだけどな、と考えた。しかし、そんな事を説明する暇がないほど、女性は怒り狂っている。

 アンの耳に、怒声以外の声が聞こえてきた。

 店内で話をしている店員さん達の声だ。声に宿る魔力を抑えていないようで、アンには念話と同じくらいにはっきり聞こえた。

 ――メルちゃんは、まだ来てないの?

 ――今日は昼からの出勤だよ。

 ――今日は出勤しないほうが良いって言っておこうか。

 ――だけど、メルちゃんしか作れないでしょ、あのケーキ。

 ――レシピはあるから、私達で作ってみよう。

 ――それより、早くメルちゃんに連絡を。

 どうやら、メルちゃんと言う人物が、彼女にしか作れない特別なケーキを作る係をやっているようだが、金切り声の女に狙われているので、今日の出勤を控えるように伝える所らしい。

 通りの横路地を見てみると、マンマ・ペポカボチャの窓から、白い一粒の光が何処かに飛んで行った。妖精を使って「メルちゃん」に連絡を取ろうとしているのだろう。

 大事にならなきゃ良いけど、と心配しながら、アンは通りの鞄屋さんで、手回り鞄にするには丁度良い小型のリュックサックを買った。


 町の中のインフォメーションで観光パンフレットを手に入れ、そこに書いてあった白霧森と言う町に向かう事にした。とても有名な占い師が居ると言うので、本場の占いが見たいと考えたのだ。

 白霧森は、アンが最初に訪れた「雪水湖」と言う外国人向けの賑やかな観光地とは少し違う、それこそ白い霧に包まれた、神秘的な町だと書いてある。

 道中は車の通れる道が無く、馬車か徒歩で移動するしかないのだそうだが、アンはいつも通りに箒にまたがり、ツーッと空を飛んで行った。

 途中で、空から見ても霧で濁って見えない場所を見つけた。森の一部分が、密な霧で覆われている。此処からはどうしても陸路を通らなければならない。

 アンは周りの様子を見ながら「獣がおらず、比較的拓けている場所」に着地した。丁度、濃霧の包んでいる場所の手前くらいだ。

 そこで「まごついている妖精」に出会った。

 霧の中に入れなくて困っている様子である。アンはそっと妖精に近づき、身振りと手振りで、「霧の中に入りたいの?」と聞いてみた。

 妖精は、小指くらいの人間の姿を浮かべると、縋りつくようにアンの肩にしがみついた。一緒に連れて行ってくれと言う事か。

 アンは妖精の方を見て、二、三度頷いて見せてから、白霧森の中に踏み込んだ。


 町の中は、大きな木々の形状を活かして作ったトンネルやツリーハウスがあって、一見テーマパークのアトラクションにも見えた。

「すごーい」と言いそうになり、口を手で押さえる。しかし、顔が勝手にほころぶのは止められない。

 ――妖精さん。あなた、何処に行きたいの?

 アンは念話で話しかけてみた。妖精はしばらくあちこちを見回してから、指を一方に向けた。

 木々のアトラクション……基、景観を移動しながら、その指の示す方向に歩くと、一本の大きな木の前に出た。内部に誰かが住んでいるらしく、木肌に開いた洞に十字格子が組まれ、窓ガラスがはめられていた。

 妖精は何かに気づき、その大木の中に飛んで行く。探していた何かを見つけたのか。

 よかったよかったと思いながら、アンはリュックサックから再び観光パンフレットを取り出し、目を通す。パンフレットには絵本のような白霧森の地図が描かれてている。

 ランドマークを見てみると、「中央大樹」と言う、窓ガラスが印象的な先の大木が描かれていた。妖精が飛び込んで行った、目の前の樹の事だ。

 占い師の家は、大木を背にして朽ち木のトンネル通りを進み、「青桜並木」を通った先にある。地図の絵からすると、庭があるのでツリーハウスでは無い。

「占いの受け付けは、昼11時から夕方17時までの間……」と注釈を読んでから、太陽の位置を見た。しかし、時間を知るにしても空は濃霧だ。

 まだ夕方じゃないから大丈夫だろうと見当をつけ、アンは占い師の家に向かった。

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