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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集2
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色彩眼者~ハルナちゃんの家庭の事象2~

 風はサラサラとして、程よい日差しの夏の日の朝。身支度と朝食を済ませた子供達の一部は、学校に向かう。ハルナも、公立学校の初等科に通っている。今年で四年生だ。

 コミュニティ「東洋」である、第三地区から第七地区までの子供達は、夫々の地区の最寄りの小学校に集められ、適当に学級配備をされ、適当に適当な授業を受ける。

 その中でも、初等科で重要視されている最新の教育は「社会福祉」だ。時間割の中に、「福祉」の時間枠がわざわざ設けられている。

 その授業の中で、ハルナの担任の教師は、「三大色彩眼者」と言う、とても珍しい障害の話を持ち出した。

「古い血の中に、『妖の気』が混ざっていると、長い時代を経た子孫……つまり、子供達の中に、片方の目の色だけが、赤かったり、碧かったり、黄色かったりする子供が生まれる事があります」

 教師は完璧に他人事の話をしているのだが、ハルナは姉が「碧食竜眼」と言う特殊な瞳の遺伝を受け継いでいることを知っているので、きっとその事だと気づいた。

 教師は続ける。

「赤い目は、『赤色鳳眼(せきしょくほうがん)』。碧い目は、『碧色竜眼(へきしょくりゅうがん)』。黄色い目は『黄色虎眼(おうしょくこがん)』と呼ばれます。

 赤い片目を持つ人は、赤い瞳のほうの耳の聞こえが悪いか、全く聞こえない場合があります。碧い片目を持つ人は、碧い瞳のほうが、極度の弱視だったり、もしくは全く見えなかったりします。黄色い目を持つ人は、黄色い目のほうが、夜にしか物をはっきりと見る事が出来ません。

 これらの障害を持つ人達を、『色彩眼者(しきさいがんしゃ)』と言います」

「先生」と、ある子供が手を挙げた。

 その子供は名前を呼ばれ、発言を許された。

「なんで、『ほうがん』とか『りゅうがん』とか、『こがん』って呼ぶんですか?」

 子供の問いに、教師は一度頷く。そして再び口を開いた。

「昔の人達は、この瞳の特徴を、天神が与えた尊い力を持つ特徴だと思っていたんです。ですが、それは誤りです。彼等は難聴や弱視に苦しむ、社会的に守られなければならない人達なのです。

 決して、この特徴を気味悪がったり、からかったり、罵ったりしてはいけません。もし、この『三大色彩眼者』の誰かが、補聴器や、サングラスや、眼帯を無くして困っていたら、悪戯をしたり悪口を言ったりせずに、近くの薬局を教えてあげましょう。そう言う弱者を守るための心がけを、『福祉の心』と呼ぶのです」

 子供達は、教師のご機嫌を伺うために、「へー」と言う声を一斉に上げた。

 ハルナは口を動かしただけで、声は出さなかった。「納得した顔」を作るでもなく、怒った時の姉や母親と同じ、座った眼を隠さない。

 その、社会的弱者である「碧食竜眼」のお姉ちゃんに、あんた達は守ってもらってるんだよ、と、ハルナは心の中で言い返した。


 家に帰ったハルナは、教科書とノートの入ったバッグを、リビングのソファに投げつけた。

「ハルナ。そこに置かない」と、母親が怒ってくる。「自分の部屋に置きなさいって言ってるでしょ」

「だって、ムカムカしてさー」と、ハルナは抑えている怒りで燃え尽きかけながら、ソファに身を投げる。「『色彩眼者』はー、社会的弱者ですからー、守って、あげま、しょーね! って、うちの腐れ教師が言ってたのー。守られとるのはお前等じゃーって言わないのが、限界」

 それを聞き、母親は口角を吊り上げてハハッと笑った。「そりゃぁ、実際の家族や親族じゃなきゃ、『どんな特徴なのか』なんて、本当の所は分かんないわよ」

 其処に、玄関のチャイムが鳴る音がした。母親が対応に出る。

 二つの大きな紙袋に、景品を大量に詰めた状態のアヤメが、景品の重みで紙袋を破らないように、のそりのそりと家の中に入ってくる。その両目は、深いブラウンのサングラスで隠れている。

「おお。また勝ちましたか」と、ハルナは姉に声をかけた。

「ビギナーズラック」と、アヤメは応える。

「毎回それ言うよね」と、ハルナは言って、重たそうな景品の袋をひとつ持ってあげようと、姉に近づき、手を伸ばす。

 アヤメも、安っぽい紙袋を妹に渡す。「少しでも揺れると、袋が破けるから気を付けて」

「うん。あ。ひゃっくりにゃんチョコだ。シャムシャムのビビッドニャンキュー出るかな」

 ハルナは紙袋から覗いていたお菓子付きキャラクターグッズを見て、受け取った紙袋を早速ソファに置いた。

 ぽん、と軽く置いただけで、歪んだ紙袋がビリッと裂ける。

「最近の紙袋って粗悪だね」と、適当な事を呟きながら、猫のキャラクターが印刷されているチョコ菓子の袋を開ける。「ん~……ニャックニャンのピンライトニャンキューかぁ……」と、残念そうに呻いた。

「外れた?」と、アヤメはダイニングテーブルにそっと紙袋を置く。

「ハズレじゃないんだけど、五枚目なんだよね。友達と交換できなくないけど、ニャックニャン持ってない子いたかなぁ……」

 小学四年生の社会も、交流と言うのは大変なようだ。


 アヤメはスロットの強者だ。壊れているか、裏で操作されている機械でもない限り、三ヶ所のボタンを押して絵柄を揃える賭けをすると言うマシーンから、毎回大量のコインを得、山ほどの景品に変えて来る。

 その時は、いつも片目に装着しているコンタクトレンズを外し、唯のサングラスをかけて出かける。碧く染まっているほうの目は、コンタクトレンズを外した状態だと、物凄く近眼になる代わりに、とても動体視力が良くなる。通常の人間が「ぶれている像」しか見えないようなスロットマシーンの絵柄も、コマ送り程度の速さで目視する事が出来る。

 あんまり同じ店で何度も大当たりを出すと怪しまれるため、コミュニティ「東洋」以外の地区のスロット屋の場所も把握しているくらいだ。

 大体の場合は、ハルナと分け合って食べるためのお菓子を大量に持って来てくれる。それから、母親のためには小型の瓶に入ったリキュールをいくつか。

「調理酒はいっぱいあるから、今夜の晩酌にするわ」と言って、母親は自分のための酒の肴を作り始める。

 アヤメは幾つか持って来た「ひゃっくりにゃんチョコ」の封をビリビリ開け、アーモンド程度の大きさのチョコレートを食べては、ポリ袋でチョコからガードされているキャラクターグッズをハルナに渡す。

「あ。とらやんのニャンキュー初ゲット」と言って、ハルナは袋から取り出した小さいラバーキーホルダーを、姉に見せた。

「他にどんな猫が居るの?」とアヤメが聞くと、「猫じゃないよ。ひゃっくりにゃん達は、ニャンズって言う妖怪なの」と、ハルナは答える。

「ほう。妖怪」と、アヤメが返すと、「うん。尻尾の先が二つに分かれてるの。その二又がくっきり分かれてるニャンズほど、グッズとしても手に入りにくい」と、ハルナは解説した。

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