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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第二章~大地の底にて~
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20.ルビドゥス兵器戦―自然じゃない自然―

 通信を受けたタイガは、水晶版の画面に、城塞の外観映像と、城塞のある山を遠距離から見た映像、それから以前アンにも見せた山の断面図の映像を並べて見比べた。

 現在も活きている方々の観察キャンプからの情報を纏め、まるで本当に城の周りを移動しながら観察しているような視点を得ている。

 生憎、東部キャンプのデータは、キャンプに居た人間がまともに行動できていた間の情報しか、残っていなかったが。

「人間が不自然がらない出入口がある……となると」とボソボソ言いながら、タイガは考え込む。

「一人で考えてても仕方ないんじゃないか?」

 タイガと同じく、去年入隊したばかりの兵士が声をかけて来る。

 ヘルメットの下から赤茶色の短髪をのぞかせている兵士は、髭が生えて無かったら二十代に見えない。

「飲めよ」と言って、生ぬるい水のボトルを渡してくる。

「ありがと」と答えて、タイガはボトルを受け取り、傾けた。喉が潤うと同時に、気分がさっぱりした気がする。

 ボトルを水晶版の傍らに置いて、タイガは同僚に意見を聞く。

「ウィードは、この城塞に来てから、『不自然な事』と『自然な事』の見分け、つくようになった?」

「まぁ、そりゃぁ……。十件目の戦場だからな。少しは」と答えてから、ウィードは周りに上官が居ない事を確認した。

 近くの椅子を引きずって来て、背もたれのほうを前にして座る。休憩用のテント以外で、安易に姿勢を崩すことは許されていないが、周りを確認して居る所から、分かっていてやっているようだ。

 ウィードは背もたれを両腕で抱え込みながら聞いてくる。

「それで、何処の不自然さを探そうとしてるんだ?」

 タイガは、ナタリアから聞いた情報を、口頭でウィードに告げた。

 ウィードは顎先の髭を撫でて考え込む。

「蜂が出入りしてるはずの巣穴を見つけるのか……」と、ウィードが復唱すると、タイガは「そう」と言って頷く。

 ウィードはヘルメットから飛び出ている赤毛を、グローブの指先で搔きながら述べる。

「俺が知ってるのは、人間の家に巣を作るベスパだけだけど、あいつ等って割と『自然に外に飛び立てる出入口』がある所に巣を作るんだよ。

 それから、奴等が集めてる餌は花の蜜じゃなくて虫の肉なんだ。幼虫に食べさせるために捕まえるらしい。成虫は、栄養のある液体しか飲まない」

 スラスラと、ウィードは虫の習性について話す。

「だけど、今回の邪気騒ぎを起こした魔獣は、蜂と蜘蛛のキマイラなんだろ? だとしたら成虫も何か食うかもな。蜘蛛の特徴として考えたら、獲物の体液を吸うとか」

 タイガはそれを聞いて、「そうかぁ……」と、相槌を打った。

「蜘蛛の部分の特徴としては、何蜘蛛だと思う?」

 そう言いながら、タイガは本部キャンプに送ってあった蜂蜘蛛の映像を、水晶版に浮かべた。

「腹に縞模様がある」と、前置きを言ってから、ウィードは説明する。

「蜂の模様なのか蜘蛛の模様なのかは分からんが、ジョロウグモみたいだな。あいつ等は、夏と秋の間に、森の中に獲物を捕らえる大きな巣を作るんだ」

「森の中……」と呟いて、タイガは城塞を囲むキャンプから送られてきた情報を参照する。「城塞のある山には出口が無いと考えると、周辺の山の何処かになるけど……。西側のキャンプに近い所かな」

「理由は?」と、ウィード。

「森が豊かで、翼竜の攻撃が比較的弱かった場所って理由」と、タイガ。

「北側のキャンプは?」

「あれは術師の腕が良かっただけだよ。攻撃量としては東側キャンプと同じくらい」

「なるほど。ちょっと、城塞の原型図面を見せてくれないか」

 ウィードにそう言われ、タイガは水晶版を操作する。

 年上の同期は、水晶版の画面にじっくり見入る。

「あー。そうだな……。この城の見えかたは、何処のキャンプの情報?」

「西と南の間だね」

「たぶん、お前の視力が『魔術的な視野』に偏ってるから、見えないんだと思うんだが」と言って、ウィードは画像の一部を指さす。「此処に抜け道がある」

 同僚が指し示した場所を、「魔力を使わない視野」で観てると、確かに細い抜け道に、別の場所からのトンネルのようなものが連結されている。

「全然分からなかった」と、タイガは呟いて、ウィードと視線を合わせる。

「キマイラ達は、術師達を警戒してるんだろうな。イソや俺達みたいな普通の兵士だったら、簡単に取って食えるんだろう」と、ウィードは言う。

 タイガは通信を起動し、ホールの縦穴を警戒しているナタリア達に横穴の発見を告げた。


 この城塞を作る時に非常口として設置された抜け道から、わらわらと蜂蜘蛛達が散って行く。

 大事な宝物のように、前肢に近い位置にある蛙の手で、人間ほどの大きさの白い幼虫を抱えて。

 彼等は木に昇りつくと、森の枝の間を糸を飛ばしながら飛翔した。

 ポンポンと跳ねるように次の枝に飛びつき、城塞からだいぶ離れた場所の梢を集めて蜘蛛の糸で固め、仮設の幼虫の安置場所を作った。

 白い糸で出来たそれは、鳥の巣のようにも見える。

 腹を減らしている幼虫達は、木の皮や土で作られた丈夫な房とは違う、柔らかな糸の中で「何処をひっかいて音を出そう」と考えているようだった。

 蜂蜘蛛達はそこに、繭のような糸の塊も置いて行った。

「霊媒。その子等を頼む」と、繭に声をかける。

 片手を糸から脱ぐ事を許され、頭の周りの糸を外したその人物は、カオン・ギブソンその人だった。

 カオンは、まるで人間に接するように「分かった。皆も、無事で」と、抜け道のほうに戻って行く蜂蜘蛛達に声をかけた。


 ジープが要塞の山の南側手前で停まった。

 シノンは、本部キャンプに「兵器」の到着を通信で知らせる。それから、城塞の中に居るはずのナタリア達にも通信を送った。

「アプロネア神殿式『煙霧ボトル』と『噴霧洗浄器』の登場だ!」

 兵器の登場を高らかに告げると、「冗談は良いから、何処の位置に居るか教えてくれ」と苦い声で言われ、シノンは肩を落とした。

「もうちょっと感動的に祝ってくれてよくない?」と文句を溢す。

「こっちも手一杯でね、感動してる暇はないんだ」

 そう述べるナタリアの横では、まだ兵士達が、ゼリー状の魔獣が残した核をナイフで切り刻んでいる。

「あー。それで、全員、防護服とガスマスクは付けてるんだよな?」と、シノン。

「もちろんだ」と、ナタリア。

 シノンは空中に針時計の映像を召喚し、太陽の位置と見比べた。

「俺等は要塞の南側だ。うねうねした城壁の先に居る」

 ナタリアも要塞の全体図を空中に召喚し、それを見ながら返す。

「分かった。今、『兵器』の迎えをやる」

「了解。俺等が変なのに取って食われないうちに、さっさと『兵器ちゃん』を連れてってくれよ」

 そうシノンは言いながら、車の後部に詰め込んであった、無数の銀色のボトルと、銀色の装置を、愛しそうに撫でる。

「術師らしく、ジープと『兵器』くらい守って見せろ」

 そんな言い合いをしてから、ナタリアは、手の空いている見張りの隊員達に「シノン達が持って来た道具の移動を頼む」と申しつけた。

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