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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第二章~大地の底にて~
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11.リード情報戦―死に逝く器―

 アン達が城の内部に侵入した時、魔力によるショックを与える事で邪気の固形化を促した。それには一定の方法が必要である。

 邪気がレーダーの役割をしている時に、要塞自体にショックを与えて「外敵」がいる事をあえて知らせ、邪気を「外敵を退ける者」に変化させるのだ。

 邪気は晴れるが、邪気が変化した有害生物が生まれる。その外敵の体液を地面に浸透させることなく削除して行く事で、自分達の兵力を知られずに、地下にいる「親玉」の巣穴の近くまで行ける。

 この戦法は、化物の姿に変化した邪気を、地中に逃さずに「封印」する方法が必要である。

 兵士達の保有する銃弾に込められる力が変更され、アンが駆けずり回らなくても良い状態にはなった。


 弾丸に込める術式が切り換えられる頃、遠くから各キャンプに向かってフラフラと歩いてくる兵士達を、見張りの者達も目視した。

 最初に本部キャンプに戻ってきたのは、餌として捉えられ、丸一日帰って来れなかった第一部隊の一人だった。

 見張り番は嫌な予感がしたが、手を振り、カサカサに乾いた声で呼びかけて来るのは、仲間の兵士だ。

 予感を振り切り、「イソ」と、第一部隊の生き残りに声をかけた。「よく、無事だった」

「ああ……。急に意識がはっきりしてきて……」と言ってから、イソと呼びかけられた兵士は、咳をし、苦し気に体を折る。「水を飲ませてくれ。それから……塩を」

「待ってろ。救護班を呼ぶ」

 そう言って、見張りの兵士はキャンプの中に入って行った。


 関節ががくがくして、息が上がっている。イソは、自分の体中のあちこちが、熱を持っているような気がした。

 実際に、焼けるような感覚のする腕に触れ、袖をめくってみると、皮膚の一部が白っぽくなっている。皮膚が炎症を起こして赤く染まっている部分と混ざって、斑模様に白い。

 皮膚が壊死を起こし始めている。そう察したが、キャンプには医術師が配属されているんだと思いなおし、頭の中で恐怖を遠ざけた。もし、今、熱を持って傷んでいる体の全体で壊死が起こっていても、術をかければきっと助かる。

 本部ではない別のキャンプに向かった者達はどうだろう。各キャンプに医術師は居るはずだが、その医術師が高度な術を使えない者だったら。

 命が助かるかも知れない直前になって、イソはようやく要塞から逃げ出した他の者達を案じた。

 担架を持った兵士が二名と、医術師の助手達、そして先ほどの見張りが、キャンプの出入り口に現れた。

 イソは身体から力が抜けかかったが、昏倒しないうちに担架に乗せられた。

 泥のような眠気が襲ってくる。治療所まで運ばれる間、瞼を閉じると、誰かが自分達を見ろしている視界が見えた。空の高みから、自分達と、キャンプを見下ろしている視界。

 変な夢だ、と思いながらイソは深く眠りに沈んで行った。


 本部キャンプの周りの邪気の掃除と言う仕事を与えられ、アンはキャンプ内の土の上を箒で掃除していた。

 ちゃんと「消毒」されているキャンプの周りには、大した邪気は存在しない。

 但し、変形(へんぎょう)した小動物が、邪気を保有したままうろちょろしている。

 それ等が近づいて来たら、殻の中に捕まえて圧縮して砂に変える必要がある。

 変形(へんぎょう)するほど邪気に慣れてしまった者を、元の姿に戻す事はできないのだ。

 混ざり切ってしまった水彩絵の具が、元に戻らないように。

 しばらく、ヒレのある山ネズミを駆除していると、見張り番が血相を変えて走ってきた。

 かと思うと、担架を持った兵士と、数名の医術師の助手達がキャンプの出入り口に向かい、誰かを運んできた。

 その誰かが近くを通った時、アンはゾッとするような気配を覚えた。

 空から見ている。

 そう悟って、アンは精霊に呼びかけた。「ホウガ。チャージ、二秒」

 その声に反応して、アンの周りに青緑色のエネルギーが充満し、アンが宙に手をかざすと同時に、そのエネルギーはキャンプ全体を覆った。

 兵士達の中でも、魔力を保有している者達が、目を丸くしたり、逆に顔をしかめたりながらアンの方を見る。

 アンは結界を保ったまま、担架を追いかけた。


 治療所に入ろうとした救護班は、テントの前で立ち往生している。

「何してんだ。そんな所に突っ立って」と、周りの兵士達からも言われているが、担架を持った二人は、壁に向かって歩いているように、歩を進められないでいる。

 地面に担架を下ろし、自分達の邪魔をしている「見えない壁」に向かって、拳を叩きつけた。しかし、そんな事で壁は砕けも壊れもしない。

「落ち着いて下さい。何処かで、結界が起動してる……」

 医術師の助手はそう言って、辺りを見回した。

「待って!」と、箒を片手に走りながら、アンが救護班に声をかける。「その人を、治療所に入れちゃだめです」

「何を言ってる。死にかけてるんだぞ」と、担架係の兵士達は反発し、アンの鼻先を指さす。「参謀達のお気に入りだからって、でかい顔するな!」

「治療所の外で治癒をして下さい」と、アンは言い方を変えた。「この人の状態が危険なことは分かります」

 おかしなことを言い出した術師は、担架の上で意識を失っている兵士の首元に手をかざした。

「糸は切れてる。根は残ったままだ」と、独り言のように呟き、「ノリス!」と、治療所の中に声をかける。「すぐにこっちへ!」

 名前を呼ばれて治療所から出てきた亜麻色の髪の衛生兵は、患者の様子を見て、目をしかめた。

「なんでこんな状態で、生きて居られたんですか?」と、ノリスはアンに聞く。

「それは私も知りたいです」と言って、アンは「私が『浄化』しますから、ノリスは直ちに『状態回復』を」と続ける。

「糸が再生するかもしれない」と、ノリスは危ぶむ。

「どっちにしても、『根』が死んでなきゃ同じ事です」と、アンは返し、持っていた箒に力を送ると、片手にその力を移して、患者の「あちこち虫食いのあるようなボロボロの体」に向かって浄化の力を送った。


 第一部隊の生き残りで、「何故か歩ける」者達が、次々に城塞の中から各キャンプに歩を進めてくる。

 迎撃部隊としてライフルのスコープを覗いていたアヤメは、「ウォーキングデッドだ……」と呟いた。通信を起動し、「身体と霊体に異常のある兵士達が、各地のキャンプに向かってます」と、オペレーターに告げた。

「第一部隊の生き残りです。攻撃を加える必要は?」と尋ねると、「兵士の体を傷つけずに、行動を止めることは出来ますか?」と言う問いかけが戻ってきた。

 アヤメはもう一度スコープを覗きながら、「霊体に直接術をかける必要があります」と答える。「ライフルの術式を変えます。許可を」

「了承。術式の変更を許可します」とのスムーズな返事を聞いてから、アヤメはライフルから弾倉を引き抜き、銃身を支える手に魔力を込めた。

 狙いを定め、引き金を引くと同時に、青白い光の矢が、音もなく「ウォーキングデッド」達の頭を貫く。

 歩く生き残り達は、歩行の慣性で、勢いよくうつ伏せに倒れた。

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