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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第二章~大地の底にて~
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9.リード情報戦―配管のように―

 要塞を囲む山々の中に隠れた迎撃部隊からの射撃が起こる。

 周辺を旋回しようとしてた翼竜達は、撃ち落されることはなく、遠くに散った。

 翼竜達が、要塞からだいぶ離れてから、アヤメはアンに耳打ちした。

「奴等は、何処に行こうとしてたの?」

「何処でもありません」と、アンは特殊な響きの声で言う。吐息の感覚が全くないと言うか、気配が全くない声で。「私達が『視覚的にどの位置に居るか』を観に来てるだけです。軍隊で言うなら、偵察隊ですね」

「私が始末した『飛沫(ひまつ)』は?」と、アヤメも声から気配を消して問う。

「あれは本当に『様子見』です」と、アン。「封印や浄化にどんな魔力を使ってるか調べて、帰還するはずだったんでしょう」

「魔獣が、情報を得る事を主体にしてるんですか?」と、タイガも声から気配を消して尋ねる。

 アンの朱色の瞳が、隣にいるタイガをちらっと見た。

 その横目は何となく、分かってないかぁ……と、諦めるような表情を滲ませている。

「ドラグーン清掃局の、今月の標語なんですけど」

 アンは慎重に答え、背後から自分達を捉えている視線がない事を確認して、じりじりと後ろ歩きで通路の奥に歩を進める。

「『万能と無知の基準を誤るな』です。死霊や魔獣は、必ずしも、生命力が強くて、頭が悪い、訳では、無いと、言う、事、です」

 一言一言発しながら、アンは通路の壁に触れた。

 波のようなものが、その手の平から壁に揺らぐと、密度を濃く覆っていた通路内の邪気が晴れ、視界が一気に良好になる。

「なんで……」と、アヤメは辺りを見回しながら呟いた。

 アヤメ達が以前、殻で邪気を押さえ込んでいた時は、城の内部まで密に邪気が覆っていたはずだ。

「今言った通りです。以前のアヤメ達の『殻』による侵入と、私の『固定』の術の作用から、彼等が学んだ結果が反映されてるんです。今は、ちょっとショックを与えただけです」

 アンはそう説明してから、「今の彼等にとって、邪気はレーダーです。レーダーで捉えるものを捉えたら、外敵を排除する必要がある。それなら、警備が要りますよね?」と言って、自分が背にしていた通路を振り返る。箒を水平に構え、体を伏せるように飛び乗った。

 自分の周りに殻を展開し、一直線に、通路の奥に現れた「何者か」に、箒の柄の先から体当たりをした。

 アンに体当たりをされた「警備」は、腹を弾ませて腰を抜かす。

 それは牛の頭を持った、体を起こした巨大なトカゲのような魔獣だった。

 アンは一撃を与えた後、素早く上空に飛翔し、牛頭に熱波のような術を放った。魔獣の纏って居た殻が砕ける。

「アヤメ!」と、アンが合図を出す。

 アヤメは、さっきのキマイラを仕留めた要領を思い出し、数十メートル奥に居る「ミノタウロスもどき」の胸の中央を撃つ。

 ミノタウロスもどきは、やはり胸の中央を光らせながら崩壊し、城の土の床にぐちゃりと潰れた。

 空中に避難して居たアンが素早く戻ってきて、ひらりと身を翻すと、青白く光っている箒の房で、ヘドロのような残骸を叩く。

 地面に浸透しようとしていた亡骸は、光の粒になると城の奥のほうに消えた。

「こんなのが、いっぱい居るんですか?」と、タイガはあちこちに視線を向け、通路の天井を見る。

 そこには、巨大なヤドクガエルそっくりの真っ赤な蛙がへばりついていた。

 タイガの顔面から一気に血の気が引く。悲鳴を上げないで済んだのは、日頃の訓練のおかげだろう。

 焦ったように銃を構え、巨大ヤドクガエルの背に発砲する。だが、体の周りに透明な殻を纏っている蛙は、全く我関せずと言う様子だ。

「『殻』が破れるまで、連射!」と、アヤメの声と、銃声が飛んできた。

 アヤメの方からも掩護射撃をくれている。

「はい!」と答えて、タイガはショットガンの弾丸を何度もリロードしながら、蛙を撃ち続けた。


 べたぁっと、鮮やかな赤い両生類の体が、タイガの周りを覆っている結界に貼りつく。何度目かの射撃で殻を壊すことには成功したが、それと同時に巨大蛙が落下してきたのだ。

 タイガは奥歯を噛んで悲鳴を殺し、ナイフに持ち替えて、蛙の背に切りつけた。蛙は寸でかわして、タイガを包んでいる結界を足場に、跳躍して逃げた。

「あ。こら、待て!」と、ちょっと間の抜けた声を出しながら、タイガはカエルを追う。

 こいつが敵の情報源になるんだったら、逃がしてたまるかとばかりに追いかけて、なんとか後脚を掴み、つい、ナイフでその後脚を切り取ってしまった。

「あ」と、観ていたアヤメと、ゼリー状の蛙の後脚を持ったタイガが、同時に声を漏らす。

 蛙の後脚は、結界の中で浄化されて消えた。

 ぴょいんぴょいんと、三本足でご機嫌に跳ねて行った蛙は、何かの壁にあたったように、べちっと鼻先を潰された。

「はい。此処からは場外です」と言いながら、アンが、蛙の前に立ちはだかる。彼女の周りには、通路一面を覆いつくす「殻」が作られている。

 アンはベースボールのバッターのように、箒で赤い巨大蛙をタイガの目の前まで打ち返した。

 タイガはびくびくする様子もなく、今度こそ残った蛙の後脚を掴む。プルプルした蛙の背を切りつけ、覗いた核にナイフを突き立てた。ナイフの柄から、仕込まれている術が敵の核に行き渡る。

 ぐちゃぁっと、液体になって潰れた蛙の水しぶきを、アンの箒が叩いた。魔獣の残骸は光の粒になって飛んで行った。


 そんなこんなで、アヤメとタイガはあちこちに現れる「見たことない変な魔獣」を仕留めて行き、アンはサクサクと魔獣達の屍の処理をした。

 息を継ぐ程度の時間を得た時、三人は警戒態勢を解かないまま、床に座り込んで休んだ。

「なんで、液体になるんだろう……」と、アヤメが呟く。

 アンは地面をとんとんっと指先で叩きながら、「地面の下に『親玉』が居るからですよ。死んだら死んだで、どんな原因で始末されたのかのデータが必要でしょう?」と言う。

 ああ、そう言う伝達方法なんだ……と、アヤメとタイガは怖気を振るう。

 息が整ってくるか否かの所で、また奥から何かの近づいてくる気配がする。

「僕達の任務は、邪気の発生原因を突き止める事……でしたよね?」と、タイガは敢えて明後日の方向を見たまま、隣のアヤメに聞く。「親玉に会うまで帰れないんでしょうか?」

「うーん。相手が『唯の魔獣』じゃないとなると……」と言って、アヤメは苦笑いをしながら、ライフルのスコープを覗く。「静かに帰してくれそうには無いね」

 アンが、素早く「標的」のほうに箒で飛翔する。魔獣達の間をすり抜けざまに、片手から熱波のような魔力を送り、殻を壊した。

 ライフルが連射される。

 連続で化物達の核が撃ち抜かれ、光を発しながら弾けて形を失う。

 地面に粘液達が染み込む前に、アンは素早く空中で翻り、箒で残骸を連打した。溶けた屍は光の粒に変わり、城の奥のほうに飛んで行った。

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