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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第二章~大地の底にて~
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6.テルス防衛戦―少数精鋭―

 隊長の説明の後、アヤメ達六人は、ようやく治療所に入れたが、なんだか様子がおかしい。土の地面に、まるでそこで倒れたかのように昏睡している者達がいる。

「なんだこりゃ」と、シノンが呟く。

「なんだろうな?」と、ナタリアも言う。

「ああ、その辺り、触らないでこっちまで来て下さい」と、亜麻色の髪の衛生兵に声をかけられ、新しく整え直した設備のあるスペースに招かれる。「要塞の中の『何か』に侵食された人達です。魔力感染すると悪いので、接触は禁止で」

「でも、ノリス。このままじゃ死んじゃうんじゃない?」と、ルイザは倒れている者達を迂回して、一番目に医術師の前の椅子に座る。

「それは専門職の方に頼む事になってます」と、ノリスと呼ばれた亜麻色の髪の衛生兵は説明する。「さっき、本部のほうに呼び出されてたんですけど……会いませんでした?」

「清掃員だって言う人になら会いましたけど」と、タイガが答える。すると、ノリスは「その人です」と言う。

「どーもー。その人……でーす……」と、様子を伺うように、さっき本部に居た清掃員の女の子が、治療所を覗いていた。何故か箒を片手に持って。


 アンが見てみた所、「首筋に邪気の根が埋まってますね。これ、根っこを丸ごと殺さないと、何回でも生えてきます」とのことだった。

 医術師達は通常の仕事をしているので、ノリスが代わりにアンの話を聞き、問いかける。「根を全部枯らすには?」

「魔力を植え付けた元を絶たないと成らないんですけど、そうなると……あの城塞に乗り込まないと成らないです」と、アン。

「患者に触れると、魔力感染はしますか?」と、ノリスは早急に解決できるほうの問題を尋ねる。

「感染します。触れないように移動させて、魔力の元を断つまで、遠隔で延命のための術をかけて下さい。あ。移動はやっておきます」と、アンは思いついたように軽く手を打ち鳴らす。

 彼女の首元を飾っていた水晶が一瞬だけ輝き、おかしな体勢で倒れていた者達が空中にふわりと浮く。横たわった姿勢に整えられ、治療所の空きスペースに四人と三人に分けて縦二列に並べられた。

 ノリスはそれを見て、はぁ、と息を溢す。

「器用ですね」と、褒めると、「ああ、はい……。本来は、死体を移動させるときの術なん……」と言いかけ、アンは乾いた笑いで誤魔化した。「縁起でもないですね」と、自分で言う。

 医術師から治療を受けながら、補助部隊だった六人はちらちらとアンを見て、「さっきの弁舌の時の冷静さは何処に行ったんだろう」と、何となくこの清掃員の人柄を捉えかねていた。


 参謀本部からお達しが来た。アンとアヤメ、タイガの三人で要塞に忍び込み、この「液状化するほど濃密な邪気」を発している者が何かを突き止めろと言うのだ。

「子供ばかりじゃないか」と、ガートは休憩所で愚痴った。「どうして、あの三人なんだ」

「参謀達が高く買ってるからだろ」と、シノンはクラッカーを嚙みながら言う。「あの、アンって言うお嬢ちゃんの能力」

「アヤメは銃撃のほうが得意だからね」と、ルイザも言う。「アンが邪気の清掃、アヤメは物理攻撃、タイガは回復役じゃない?」

「そう考えておこう」と、ナタリア。「心配は要らない。彼等の年齢が十八じゃない事を除けば」

「それが一番問題なんだ!」と、ガートは声を荒げ、テーブルを拳で叩いた。そして、周りの兵士達が驚いて居る事に気付き、息を吐いてから「すまない」と謝った。

「少年兵達を軽んじすぎてるぜ」と、シノンが言い出す。「なんでもかんでも、『イリル』と同じだと思うな」

 ガートは、シノンを睨み、彼の服の首元を強くつかんだ。シノンも負けてない。ガートの腕をつかみ、首元を絞って来る同僚の力に、握力で対抗する。

「よしなよ」と、ルイザに言われた。「ガート、落ち着いて……。心配なんだったら、本人達と話せば良い」

「話す? 何を? 戦地に行くなって言えば良いのか?」と、ガートはシノンと睨み合ったまま、ルイザに言い返す。

「そうだよ。パァパァの甘えた心を、子供達に打ち明けて来れば良いじゃないか」と、シノンは挑発するようにガートに言う。「此処に居るのは、みんな兵士だ。死ぬことにビビってる奴ばかりじゃない」

 ガートは更に手腕に力を込めたが、言い返す言葉が見当たらず、視線を伏せて、シノンの襟元を掴んでいた手を放した。


 作戦の内容を聞いた後、アヤメとタイガはアンと一緒にキャンプの中を移動しながら、アンの能力でどんなことが出来るのかを本人に尋ねた。

「基本的には……邪気や死霊を削除する事です。主に、浄化と封印ですね」と、考えるようにアンは言う。「その他に、結界を使ったり、霊視とか、透視とか、とにかく『掃除するために必要なこと』は大体できます。だけど、私、人間に対する状態回復とか状態保存とか、回復系の力は使えないんですよ」

「それは、僕に任せて下さい」と、タイガは明るく返す。「回復と補助の術は、僕の専門ですから」

「よろしくお願いします」と、律義にアンは頭を下げる。

「私は、邪気の掃除をしている貴女に危害を加える者を『掃除』する役だね」とアヤメは言って、「こっち」と、アンを休憩室に招いた。

 休憩中の兵士達と、さっきまで言い合いをしていたガート達が、アンをじろじろ見てくる。見慣れない服装をしている上に、持っているのが銃ではなく箒だからだろう。

 アヤメはその「疑問の視線」に気づかずに、アンを兵士達の銃の設置場所に連れて行った。休憩中だったり、術を使っている最中の隊員の銃が、番号順に並んでいる。

「私の得物はこれ」

 アヤメは置き型のホルダーに備えられているごついライフルを指さして見せる。

「銃弾に術が刻まれてて、撃つ時に術を起動して、着弾と同時に効果を発揮するの。構えて見せれたらカッコイイけど、それは実戦の時にね」

「確かに、カッコよさそうですね……」と、アンは変な事を言い出す。アヤメが意味を捉えかねているのを見て、「あ。コペルさんが銃を構えたら、似合いそうだと思って」と言葉を補う。

「アヤメで良いよ」と、アヤメが言うと、アンは胸の前で握り合わせた手をもじもじさせ、視線を彷徨わせてから、「やっぱり、そのほうが自然ですよね……」と呟く。

「自然って言うより、ファーストネームで呼ばないと、混乱の元だから」と、アヤメは返す。

 すると、アンは頭を掻いて、「あ。そう言う理由があるんですね」と言って、「それなら、これから、気を付けます。アヤメ」と、カタコトで応えた。

「うん」と、アヤメも返したが、それ以上の会話が続かず、変な空気が流れる。

「アンさん。クラッカー食べます?」と、空気を変えようと、タイガが軽食のテーブルから箱を持ち上げる。「一回の休憩で一人につき一枚しか食べれないんですけど」

「ありがとうございます」と、アンは答えて、差し出されたボックスからクラッカーを一枚手に取り、もそもそと食べていた。

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